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<10>

 お腹に――前金の卵焼きが入ってしまった。

 ならば、津拭七代のオーダーに答えなければ詐欺になってしまう。


「やることは、やらないとダメですよね……それにしても、私としたことが。ちょっと食べ過ぎてしまいました」


 昼食から数時間が経過しているというのに、まだ満腹感らしきものがある。

 このまま、まっすぐ帰ってしまいたい欲求に背中を引っ張られながらも、祈理は(くだん)の〝刻印使用の不正〟を暴くため、七代に渡された地図を頼りに、一人街を歩く。


「…………でも、こんな簡単に犯人を捕まえることが出来るのでしょうか」


 そもそも、七代にどんな情報のリークがあったのかは知らないが『強い刻印持ち』というのが気になるところ。相手が魔導科なのか、それとも普通科の人間なのか。

 どっちにしても、七代が言っているのだから、気を引き締めなくてはなるまい。


「えっと川沿いをそのまま進んだ先の……」


 十八区の街は、寂れた雰囲気漂っていた。密集した住宅の分だけ人が住んでいたはずなのであるが、いまではどの程度までの人間が住んでいるのだろうか。

 祈理が目指していたのは、かつて工場として使われて破棄された場所。悪いことをする人間というのは、なぜだか決まって寂れた場所を拠点とするものだ。

 工場跡地は、学生寮のエリアからさほど離れてはいなかった。


「とにかく、確認をするだけしないと――おや?」


 祈理は素速く建物の物陰に隠れた。別の区画から突然、制服姿の男子生徒が現れたからである。

 距離があって、男子生徒がどんな顔をしているのか。自分が隠れているということもあって、祈理はよく見えなかった。

 一通り、誰も居ないことを確認した男子生徒は、祈理が向かっている方向へと足早に移動をして。七代が指定した地図の敷地内へと入っていった。


「…………どう考えても、偶然ではありませんよね」


 ずっと疑っていた情報が確信に変わり、祈理の心は緊張へと移行してゆく。

 体内にある魔力を確認する。……大丈夫。来る時に学校の訓練施設で魔力を補給してきたのだ。もし相手が手荒なことをしてきても、十分に対応できる量はある。

 深呼吸を一回……二回。

 いままで何度も荒事を仲裁してきたのだ。今回だって出来るはず。

 相手は私と同じ人間。だったら大丈夫だ。

 何があっても良いように、頭の中の緊張を押し込んで、代わりに必要な術式を揃える。

 どれも単純な魔術であるが、単純が故に最短の詠唱で発動が可能。


「…………よし」


 男子生徒が消えて、それなりの時間が経過している。

 祈理は覚悟を決めて――工場跡地に向かった。


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