エピローグ
11月23日。
学園祭のラストを飾る舞踏会は無事に決行される運びとなった。
「ホーラ、きれいヨ」
アレクサンドの手でデビュタントが完成した。
鏡に映るのは、純白のドレスをまとうリトルプリンセス。
大人っぽく変身したエリアである。
「わあ……」
エリアは自分の姿に見とれているようだった。ちょっとナルシストっぽいが、まあ、女の子ならそれくらいいいだろう。
……おっと、大事なものを忘れていた。
「これ、プレゼントよ」
私はエリアの頭に銀色のティアラを載せる。これで本当にお姫様の完成だ。
「す、すごいです……」
エリアは鏡を見ながらほとんど固まっている。
防具がドレスで、アクセサリがティアラ。舞踏会という上級マップにふさわしい装備であった。
「アラ、リリー、これ高かったんじゃないの?」
「たいしたことないわよ」
せいぜい40万クラウン程度のものだからな。エリアのためならこれくらい安いものである。
「本当ね。リリーさんのことだから馬鹿みたいに高いものかと思ったけど、お安いものね」
とは、隣にいたマルグレーテの感想である。大枚はたいたのに……おのれ、このリアルお姫様!
「準備完了ね。ありがとう、アレクサンド。この借りはいつかまとめて返すわ」
彼には頼りっぱなしであった。何らかの形で返したいとは思ってるのだが、まったく実現できていない。
「後で一曲踊ってくれたらそれでいいわヨ」
「……私と? なんで?」
「なんではないでしょ、なんでは」
アレクサンドとマルグレーテが額に手を当てていた。
「ダンスの誘いに応じるのも女の甲斐性よ、リリーさん」
「そうなの?」
グリー様以外と踊る気なんてさらさらないんだけど……。そんなに安い女じゃなくてよ。
ともかく、さあ、会場入りだ。
「おおっ、リリーさんだ!」
入るなり、そんな声を浴びせられる。
会場のホールは飾り付けられた屋内練兵場であった。
楽団による生演奏。
若い男女が集っているが、踊っている面々はまだ少ないようだ。
うーん……
王宮の舞踏会に比べるとしょぼいな。無骨で華がない。ここにいるのは貴族ばかりのはずなのに、これでは手作りイベントである。参加者たちもまだまだ燕尾服やドレスが身の丈にあってない。
「あわわわわ」
それでもエリアは崩壊寸前といった顔である。どれだけ緊張しているのだろう。
「ほら、大丈夫よ、しっかりして」
と、エリアを押し出す。
さて――
もうこんなところで義理は果たしたかな。
私はドレスのまま〈忍び足〉で……こっそり会場から脱出する!
フ、私がこんな学生の催しに参加するとでも思ったか。
ぶっちゃけ夏の一件で、「もう舞踏会はこりごりだよー」なのである。
アイリスアウトしてしまったのだ。
今回は顔を出すだけ出して退散だ!
誰にも気づかれぬようこっそり会場の外に出ると、中の喧噪とは対称的な静けさである。
このまま闇に消えるか。
私はスキルを使って――
「こんなことだと思ってたぜ」
そんな声で振り返ると、ホワイトタイのセナくんがいた。まさか、外で待ち伏せしていたのか!
「邪魔者はいない。ここで一曲踊ってもらうぜ」
「さらばだ、少年!」
拙者、ドロンさせてもらうでござる。
「コラッ、待てっ!」
「えっ、リリーさん外にいるの?」
「どこどこ?」
燕尾服の候補生たちが外に出てくる。追われる私。探す男子諸君。なぜか、鬼ごっこが発生していた。いつのまにか、私を捕まえたら一曲踊れるみたいなルールまでできあがっているようだった。なにこれ、私ってレアモンスターかなにかだったの?
しかし、闇の中でニンジャにかなうものなどない。私はスキルを駆使して、最も意外な場所に隠れる――そこは男子寮の屋上である。
「ふん、小童どもめ」
騒ぎを上から眺める。男子たちはみんなカフェや校舎などまったく見当違いの方向に行っているようだ。腕を組み、無意味に大物感を出すリリーさんであるが……
「ん?」
寮の裏手。
見知った影がある。
夜でもキラキラしてるあいつらは――金髪くんとマルグレーテだった。
あんなところで何をしているんだろう。
二人は接近している。
はっきり言おう。パーソナルスペースが近い。
他人同士の距離ではない。
急に冷たくなったマルグレーテ。無責任な噂。
ひょっとして、これは――
「やっぱり嘘じゃないですか」
「!?」
下に注目していた私は背後から発せられたその声に驚かされる。
振り向くと、エリアがいた。
清楚な白のドレスにティアラ。
そんな格好で私のことをにらんでいる。
なぜここに!? どうやって私の居場所を知ったのだ!?
「ど、どうしたのかしら、エリア……?」
「やっぱり嘘じゃないですか!?」
涙目でほとんど金切り声の叫びであった。
「信じてたのに、やっぱり嘘なんじゃないですか!」
私に詰め寄ってくるエリア。
なんの話だ?
これはいったいなにが起きたんでしょう?
いったいなんなの!?
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