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11.恋を知る

「すみれさん。」

「ん?」


ある日の夕食後、食器を洗っているすみれの後ろから、圭が真面目な声で呼んだ。


「最近、体調が少し変なんです。」

「え?」


すみれは慌てて蛇口を止めて振り返る。


「熱は?」

「ありません。」

「魔力暴走?」

「違います。」

「じゃあ何。」

「だから相談したいんです」


圭は少しだけ考え込むように眉を寄せた。


「前までは何ともなかったんですが。」

「うん。」

「最近、すみれさんを見ると。」

「うん。」

「体が勝手に反応するんです。」

「……はい?」


すみれは首を傾げる。反応とは何の事かと思った。


「心拍数も上がりますし。」

「うん。」

「胸も苦しいです。」

「……ん?」

「あと。」


一拍置いて圭は真顔のまま言った。


「下半身も反応します。」

「ぶーーーーっ!!」


すみれは飲もうと口に含んだ麦茶を盛大に吹き出した。ゲホゴホとむせながら汚したキッチンのテーブルを拭く。


「すみれさん、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃねぇよ!何を真顔で言ってんの!?」

「いやでも、事実なので。」

「事実だからって言っていいことと悪いことがある!」

「そうなんですか?」

「そうなの!」


すみれは頭を抱えた、自分だって最近この気持ちを自覚したばかりである。そこで恋愛経験ゼロで、保護者もいなくて、まともな性教育も受けていないであろう圭の相談に乗る事の気恥ずかしさたるや憤死ものである。とはいえ、この状況を彼に説明できるのもまた彼女しかいない。


「すみれさん?僕の体、どうしちゃったんでしょうか?」

「……うー......仕方ない。」


すみれは深呼吸して落ち着いて話し始めた。

 

「まず落ち着いて聞いて、それは病気じゃない。」

「病気じゃない?」

「あーその、す、好きな人の事を考えたり見たりした時に起きる、ごく普通の反応。」

「好きな人を?」


圭は静かに復唱し少しだけ考えて本当に不思議そうな顔で聞く。


「じゃあ好きになると皆そうなるんですか?」

「……まあ、大体は。細かい所は人によるけど。」

「なるほど。」


圭は妙に納得したように頷いた。


「じゃあ僕、すみれさんのこと。好きなんですね。」


圭の嬉しそうな笑顔に、すみれは一気に体温が上がるのを感じた。


「な、何その言い方。」

「事実確認です。すみれさん、顔が凄く赤いですけどもしかして同じ気持ちですか?」

「うるさい、黙れ。」

「嫌です。教えてください。すみれさんも僕の事好きなんですか?」


圭はすみれを抱きしめて離さない。


「ねぇ教えて下さい。」


圭に耳元で囁かれてすみれは羞恥に震えながら小さく小さく呟いた。


「好き。」

「ふふっすみれさん、可愛いですね。僕、もっと好きになりそうです。他にももっと教えて下さい。好き同士ですること‥‥。」


◇◇◇


翌朝、寝室のベッドの上では毛布に包まったすみれが、傍らでニコニコと微笑む圭を睨んでいた。


「すみれさん。もうそろそろ起きませんか?」

「……触るな。」

「えー何でですか?」

「黙れ。半径2m以内、立ち入り禁止。」

「どうして!?」

「どうしてじゃない!」


すみれは枕を投げつける。


「反省しろ!」

「.......しています。」

「今、間があった!絶対にしてない!」

「しましたよ。」

「じゃあ何を反省したか言って!」


圭は真剣な顔で考え込む。


「‥‥昨日はすみれさんが、とても疲れていました。」

「そこは分かるんだ。」

「はい。だから次はもっと休憩を挟みます。」

「違う!根本が違う!馬鹿!!」


すみれが怒っても圭は困ったように首を傾げるばかりで埒が明かない。しばらくして圭は不思議そうに言った。


「でもすみれさん。昨日『もう無理、死んじゃう』って何回も言ってましたけど。」

「……。」

「今、生きてます。」

「……。」

「だから、思っていたより大丈夫――」

「お前が死ねぇぇぇぇ!!」


すみれは絶叫すると毛布の中に更に潜り込んだ。


「あーもうすみれさん出てきてくださいよ。」

「い、や、だ!!!!」

「分かりました。では、何日くらい接近禁止ですか?」

「……一週間。」

「え。」


圭の表情が固まる。せっかく好きだと自覚したのだからそれはもう甘い甘い時間を過ごす気だったのに出鼻をくじかれた気分になった。


「長いです、三日では。」

「一週間。」

「五日。」

「一週間。」

「……。」


こうなったらすみれは絶対に折れない、それを知る圭はしょんぼり肩を落とした。


「分かりました。一週間、我慢します。」


そう言ってすみれの部屋を出ていく。その背中は、大型犬が叱られて耳を垂らしているようにしか見えなかった。すみれは思わず頭を抱えた。


(なんで私の方が罪悪感あるの‥‥。悪いのはあいつ、やめろって言ってもやめなかったあいつ。)


廊下の向こうから、小さな声が聞こえた。


「あと六日と二十三時間……。」

「カウント始めるなぁっ!!馬鹿!!」


この後、圭はきっちり1週間我慢したが、その分の鬱憤を晴らすのにその倍の日数がかかる事をすみれはまだ知らない。



END


読んでいただきありがとうございました。

いつもR18しか書かないので、それ抜きにした物語は久しぶり過ぎて乱筆乱文炸裂していたかと思います。

どうかお許しくださいませ<m(__)m>

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