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第6話 必殺――ルカパンチ

「なんで勇者である俺がこんなところにいるか、だよな」


 俺はルカにそう尋ねる。


「そうだよ。一応食えるもん作ったんだから早く教えてもらえる?」

「わがったが、だがまずばなばっどぉ~モグモグ……」

「食べるか話すかどっちかにしなさい!」


 お前は俺の親か!


 なんて言いそうになるが、食べるか話すかの二択を迫られている以上――俺は食べるの選択肢を選ぶッ!


 俺は白い湯気がもくもくと立っている野菜と豆のスープをスプーンで口へと運んだ。


「そこで食べるを選ぶ人初めて見たよ」


 苦笑しながら目を細めるルカ。


 しかし俺は何もしゃべらない。


 なぜなら俺は今、食べているからだ。


 だが……。


「これはッ……」


なかなかうまいぞ!


 クリーミーな香りが食欲をそそり、さらに一口スプーンで口へと運んだら、野菜の(うま)みがよく溶け込んだ濃厚(のうこう)で温かなスープと、ほどよい食感になった豆が端から端へと染み渡る。


「ゴクリ……ほわぁ~」


 そしてスープが喉を通ると、今度は体の芯までホカホカとした温かさに包まれ、まだ口の中にほんのりと残るスープの風味が俺を満足感で満たすと同時にさらなる食欲が俺を襲う。


「ねぇ、ちょっと()ねてない?拗ねてるよね?」


 困ったようにルカは俺の背中をポンポンと叩く。


「拗ねてねーよ。それより、コレうまいな!お前料理得意だったのか」

「そ、そう?」


 俺は心の底から()めたつもりだったのだが、ルカの反応はどこかそっけないものであった。


「おいルカ、どうかしたか。もしかしてお前も食いたいとか――?」

「いや別にあるだけ食っていいよ……でも、ありがと」


 ルカは、少し照れ臭そうに(ほお)を染めた。

 しかしその表情が以外にもかわいかったので、俺は少し笑ってしまった。


「なんで笑うんだよ!」

「いや、お前のこと生意気な奴だと思ってたけど。意外とかわいいとこあるんだな」

「はぁ~何言ってんだよこのクズ勇者!黙って食え、それで食ったら全部話しやがれ~!」


 ルカは頬を薄い赤色で染めながら、衝撃波さえ感じるげんこつを俺の頭に食らわせた。


「イテェ……ほんとイテェって」

「あ?」


 ドスの聞いた低い声が部屋に響く。


「まぁまぁルカ様、そう怒らないでください。食べ終わったら俺がここにいる理由を懇切(こんせつ)丁寧にお教えしますので~」


 やはり古来より、長いモノには巻かれるに限る。


 なんせ一発でこの威力だ。

 二発目を食らわされたらたまったもんじゃないからな


 ◆ □ ◆ □ ◆


 それから数十分後。


 俺は久々の満腹感に満足しつつ、ポンと腹を叩いた。


「じゃあ教えてやっから耳の穴かっぽじってよく聞いとけよぉ~?」

「そこは任せとけ。俺は耳がいいからな」


 そして俺は一度深呼吸をすると、できる限り簡潔に伝えた。


「俺は勇者なんてめんどいことはやめて逃げてきたんだ」

「はああああああ――!?」


 ルカの甲高い声が部屋中に響く。


「うわぁ……勇者のくせにサイッテー」


 引きつった顔でルカは静かにそう言い放った。


 だが俺はその反応に少し安心を覚えた。


「だろうな。自分でもそう思うよ」

「だったらなんで逃げてきたんだよ」


 不思議そうにルカは俺に聞いてきた。


「だって俺……戦うのとか嫌いだし、魔物とかチョー怖いし、戦うか逃げるかだったら逃げるに限る」


 俺はそうきっぱりと断言する。


「つっても、戦わざるを得ない時は戦うけどな。なんたって俺のモットーは『命を大事に』だ」

「遠距離系の人ならまだしも、近距離――しかも勇者がそれを言うんだから()(がた)い」

「いいだろ……そんなん俺の勝手だ」


 そして俺は部屋を見渡して、言った。


「つーかお前以外に誰かいないのか」


 俺とルカはさんざん騒ぎ立てているが、それ以外は誰の声も聞こえない。


「まさか……イマジナリーフレンド!?」

「なわけがあるか!」


ドンガラガッシャーン


 ルカの怒りが有頂天に達したようだ。


 腹のど真ん中に蹴りを入れられた俺は、その馬鹿みたいな威力のおかげで壁に向かって超高速で椅子ごと吹っ飛んでいった。


「これならいっそ王都の戦いの方がマシだったかもな」


 俺と一緒にぶっ飛ばされた木の椅子は壁とぶつかったのか……もはや原型をとどめていない。


「なぁルカ、もう少し力加減というものをだな……」

「仕方ないだろ。大体椅子が弱すぎるんだよ。だってお前は死んでないだろ?」


「あのな、それは俺にかかってる攻撃無効化(アイギスシールド)が発動してくれたおかげだよ」


 攻撃無効化(アイギスシールド)は、なんとダメージを無効化してくれるのだ。

 ただ、そんな力が連発できるハズがなく、発動条件は即死級の攻撃を受けたとき五割くらいの確率で発動するというものである。


 しかも、攻撃無効化(アイギスシールド)は一度使ったら三日後まで使えない。


 幸い、俺には神の祝福という名の呪いがかかっているので、発動する確率は十割だ。おかげでルカの即死級の攻撃から助かったのだが……。


「……怖い子」

「なんだ?もう一発お見舞いしてやろうか?」

「ゴ勘弁願イタイ」


 だいぶ変な話し方になってしまっているが、それも仕方のないことなのだ。

 なんせ本当に痛かったのだから……。


「で、ほかの仲間はどこにいるんだよ」


 本題がずれていた為、話をもとに戻す――というのは口実で、これ以上ルカの怒りを買わないよう、俺は話をずらす。


「今は外に出かけてんの!」

「そとには魔物がわんさかいるだろ?」


 魔物も普段より強くなっているハズだ。


「そうですよ。勇者が《《生きている》》のにも関わらず魔王に支配されたおかげでね!」


 ルカの言葉にはだいぶ嫌味というモノが含まれているように感じられた。

 まぁ、事実なんだけど。


 しかし、それは俺が俺という独自の勇者感を持つ人間だからだあって、決して人にとがめられるような頃ではないのである。


 だからこそ俺は、ルカに向かって……


「黙れこの野郎」


 と、そう一言いうことが出来るのであっ……。


「ルカパーンチ」


 果たして――これほどの威力の拳が存在するのだろうか?


ドクシュつ!


 結論から言おう。


 ルカには戦士の……いやおそらく狂戦士(バーサーカー)の才能がるだろう。


「うがっ……」


俺はそう確信しながら、顔面に食い込むナニカに吹き飛ばされ――また椅子を一つ壊したのであった。

おいおい、他の連中が帰って来たって? でこれはいったい何でしょう?

次回「ここは刑務所ですか?いいえ違います。」お楽しみに!

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