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第5話 小さな村の秘密の隠れ家

 あの戦場から逃げ出してから俺はずっと走り続けていた。

 そして三日目の昼頃だ。


「やっと、着いた」


 俺はよろよろと左右にフラつきながら、一歩、また一歩と歩みを進める。

 やっとの思いで小さな村を見つけることが出来たのだ。


 グゥゥゥゥ~。


 お腹の音が鳴り響く。


「頼むから、何か食えるもんがあってくれ。もう空腹で死にそうだ」


 俺は神様に祈るようにそう呟いた。


 もうこの三日間何も食べていない。


 朝から続く空腹感で頭がおかしくなってしまいそうである。

 それでも俺はなんとか意識を保ち、フラフラとした足取りで村に入った。


 こんなところで、モルトケの爺様からもらったこの命を費やすワケにはいかない。

 しかも「飢え死にしちゃいました~」なんて死んでも言えないってもんだ。


 ◆ □ ◆ □ ◆


 そして俺は食べ物を求めて必死の思いで村まで来たのだが。


「これは村は村でも廃村かあ……。ひどいもんだ」


 村の家屋(かおく)の屋根や壁は壊れているし、家の中も強盗に入られた後かと思うほどに散らかっている。


 もし食料があってもこの様子じゃあすでに腐ってるだろう。


「いやこの際、腐ってたとしても……食えたらそれでいい」


 とにかく必死で、俺は家屋の隅々まで食料がないか探した。しかし食料はいっこうに見つからない。


 そんなことをしているうちに、いつのまにか外は暗くなっていて、ザーザーという雨の音までするようになっていた。


「そろそろ……限界。空腹キツすぎんだろ」


 だが、俺は諦めない。


「もういっそ腐ったモンでも食えればなんでもいいから――だから頼むから何か、なんでもいいい」


 フラッ……。


一瞬視界が歪み、気づけば俺は部屋の段差につまずいていた。


「――まずい」


 とっさに直感するが、しかし俺の体はそのままよろめきながら床に倒れていく。


 そして、大きな音とともに、後頭部に強い衝撃が走る。

 頭痛とともに視界がぼやけていき、段々と暗くなっていく。


 そこで、俺の意識は途切れた。


 ◆ □ ◆ □ ◆


「おい、大丈夫か!」


 どこからか声がして、俺はゆっくりと目を開いた。


 どうやら、俺が目を覚ました場所は、湿った暗い部屋の中であるらしい。

 視界が戻っても部屋は暗いし、なんかジメジメする。


「……どこだ?」


 キョロキョロと首を回しながら目の前の少年に尋ねる。


「ここは、俺達の隠れ家だ。だが安心しろ、ここに魔王軍が襲ってくることはない」


 白髪に、青い瞳。中性的な顔立ちの少年が俺にそう言った。


「隠れ家……か。なんか封印したハズの記憶が(うず)く響きだな」


 久々に十四歳くらいの時にアリガチな発作(アレ)が再発しそうだ。


「どういうことかわかんないけど……。俺達は、レジスタンスって言って真面目に魔王軍と戦っている。多分だけど、お前が想像してるのとはだいぶ違うと思うぞ?」


 青年は少し……いやだいぶ不満そうな物言いで言った。


「いや、だって隠れ家だぞ? それにレジスタンスと来たあ? そりゃあ普通、お前みたいなお年頃だったら『ここには実は強大な力を持つ魔石がぁ~』とか言いたくなるモンでしょ。というかむしろそうでなくちゃ人じゃないでしょ」


 閉ざした黒い記憶が蘇りつつある俺は、結果としてジャスチャーまでつけて、評議会の議員達のように熱弁をすることとなった。


 しかし、そんな俺の素晴らしき熱弁に対して、少年はどこか小馬鹿にしたうに冷めた苦笑を浮かべた。


「お前はこんな最悪な世界で何でそんなバカみたいなことをほざいているんだよ」

「悪かったよ。てかお前誰だ?」

「さっきから命の恩人に対する態度じゃねーよな?」

「別にどうだっていいだろ。それよりここはどこ?お前は誰?」

「ここは俺達の隠れ家。そしてさっきからお前と呼ばれている俺の名前はルカ。一応この村のレジスタンスのリーダーだ。」


 ルカとか名乗った青年は、親指を自慢げに立てると自分の方に向けて言った。


 だが、俺はそんな彼を無視して、近くにあったテーブルの席に座った。


「それでさ……俺腹ペコなんだけど、なんか飯ない?」

「それが人にものを頼む態度かよッ!」

「お前たちのせいだろ。この村に食い物がなかったのは」

「もしかして村に食いモンがなかったから怒ってるのか?」


 ルカはさっきの自慢気な顔と打って変わり、俺のことを虫でも見るかのような目でジトォ~っと睨む。


 そして、そのすぐあとから彼の中性的な顔と似合わない――半端じゃない威力のパンチが俺の頭に飛んできた。


「いたたた……死ぬぞ?」


 頭できた大きなたんこぶを手で痛そうに抑える俺のことを無視して、ルカは怖いくらいの笑顔を浮かべて言った。


「で、何がいい?」


 だが、俺は大人だから大きな器でルカのことを許してやる。別に『空腹で死にそうだから早く飯が食いたい』というわけでは決してない。


 だから俺は遠慮して頼んだ。


「何か食えるものと……そうだな、後は酒とつまみをくれ」

「ふざけんな、そんなのあるわけないだろ!あいにく、ここにはそんな贅沢品はねーんだよ」


 ルカの的確でわかりやすい指摘が間髪入れずに入る。


 まぁ……それもそうか。

 とはいえ俺はこれでも王都で結構いい暮らしをしてるからな。

 酒とつまみだけなんて俺にとっては遠慮しすぎってくらいなんだけど……。


 まぁ、ここで贅沢を言って餓死するのもなんだしな。


「ないならいい。それより早く俺に飯をくれ!飯だ飯!なるべく俺が死んじまう前によこせ」


 俺はルカをそう(まく)し立てる。


「まったく……何様のつもりだよ」

「俺か?俺はアレス、一応勇者ってやつだ」


 そう告げた瞬間――ルカは固まったように動かなくなった。


「おい、ルカ!どうした大丈夫か?」


 俺は両手でルカの肩を揺さぶる。


「お前がいつ死んじまっても構わねぇ。けどな!死ぬ前に俺を飯だけは作ってから死ね!」

「アレス……お前、ほんとに一回餓死(がし)して死んじまえば?」


 嘘と本心が混じっている冗談を言ってやると、固まってたルカは水を得た魚のように早口でそう切り返した。


 なんだコイツ……高速ツッコミマシーンかよ。


「お前王都で漫才やってたら絶対売れたぜ。芸名は、そうだな……世界最速のツッコミの速さを誇る、音速のルカ(笑)ってのがいいんじゃないか?」

「微妙にかっこいいネーミングセンスやめろよ!」

「ほお、これがかっこいいと思える心は持っているのか。ふふ、悪くない」

「そんなことより、アンタが勇者ってどういうことだよ!」


 コ、コイツ……俺の闇、いやむしろ紅に染まった魂の叫び(ウルトラソウル)をそんなもの呼ばわりだとッ!


「聞いてる……?」


 少し(ふく)れたような声でルカは、俺の肩を揺さぶった。


「あ、あぁ悪い……ちょっと大事な考え事してた」

「それが大事でないことくらい俺にもわかるけどね」


 なんだコイツ……愛嬌(あいきょう)ないなぁ。って俺が言えたことでもないか。


「はぁ……だから!俺は勇者だよ。以上」

「以上ってんなだよ!ていうか勇者ってどういうこと?」


 なんだ、まだ何か言えっていうのか?


 俺は何故か急に声を荒らげたルカを不思議に思いながらも、これ以上何を話せばいいのだろうかと頭を悩ませる。


「あいにく俺はお前みたいなやつが好きそうな恋愛話は興味なくてな」

「だから……なんでお前はそんな変な方向に話を持っていこうとするんだよ……」


 流石のルカもツッコミにつかれたのか、肩を落とし、小さくため息をついた。


「じゃあお前は何を俺に聞きたいんだ?」

「そんなの決まってるだろ。なんで勇者がこんなところにいるのか、それをしっかり具体的に教えろ」


 そう言われて初めて俺は、何故ルカがこんなにも声を荒げていたのかわかった。


 王都では悪い意味で俺の噂は広まっていたから、そこら中の人間が俺の顔を知っていた。しかし……ルカは多分王都の出身じゃないから勇者、つまり俺の顔を知らなかったのか。


「すまん……これは完全に俺が悪かった」


 俺は椅子から立ち上がると、床に頭を着き、ルカに向かって土下座で謝った。


「おい、いきなり何しだすんだよ!そんなのいいから、お前がなんでここにいるのか教えてくれ」

「わかった。全部話すよ」


 俺は、机に両肘を立てて寄りかかりながら重々しく返事をした。


 そして、もう一言だけ付け加える。


「けどな、その前に飯をくれ。じゃないとお前は空腹で死にそうな勇者を見殺しにしたことになるぞ」

そんなわけでルカに追い詰められる……ってどうせ次も日常回!?次回「必殺――ルカパンチ」お楽しみに!

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