ナロン川のヒドラ討伐
オレ達がカナリカ王国へ向けて船に乗っていると、SSSランクの魔物ヒドラが現れた。船の乗客達は大騒ぎだ。そこに、船を守るために雇われている傭兵達がぞろぞろとやって来た。手には弓や剣、それに槍を持っている者もいる。
「おい。お前達は下がっていろ! 危険だ!」
傭兵のリーダーらしき髭もじゃの男性がオレ達に声をかけた。しばらく様子を見ようと、言われるままオレ達は後ろに下がった。
「いいか。みんな。あいつは9つの頭を同時に倒さないと復活するからな!」
「ガゼボさん。そりゃ無理だぜ! 同時に9つなんて!」
「やるしかねぇんだよ! ここで俺達が倒さなきゃぁ、この船ごと沈められるぞ!」
「わかりやした! やりましょう!」
「いいか。俺の合図で一斉に攻撃するぞ!」
どうやら全員で一斉に攻撃をするようだ。だが相手はヒドラだ。頭一つを破壊することすらままならない相手だ。
「ケン兄。どうするの?」
「彼らは傭兵だ。金で雇われてるんだ。オレ達がすべて解決してしまったら、職を失うかもしれないだろ。」
「でも、ケン。絶対に無理よ! 彼らには倒せないわよ!」
「ケン様。私が竜化して倒しましょうか?」
「いいや。もう少し様子を見よう。彼らが危険になったら加勢するさ。」
傭兵達はそれぞれの武器に魔法を付与している。
「攻撃開始————!!!」
真っ赤に燃え上がる矢がヒドラの頭に向かって飛んでいく。だが、ヒドラが口から水を吐き、矢は大きく跳ね返された。電気をまとった槍がパチパチいいながらヒドラに向かって飛んで行った。ヒドラに当たったがヒドラは無傷だ。逆に、ヒドラが攻撃を仕掛けてくる。9つの頭のそれぞれが水を吐き出した。9つの水は1つの巨大な水の槍となってこっちに向かってくる。直撃すれば船は粉々になってしまうだろう。
「ローザ!!!」
「了解!」
『アイスウォール』
船の前に突然巨大な氷の壁ができた。ヒドラの放った水の槍はその氷の壁に阻まれた。
「なんだ?」
「誰だ? この氷の壁を作ったのは!」
ガゼボも他の傭兵も驚いて周りをキョロキョロしている。
「後はオレ達に任せてもらえませんか?」
「お前達は何者だ?」
「私達は『ワールドジャスティス』よ。」
女性陣が胸を張って答える。だが、相手にしてみたら信じられないだろう。どう見ても女の子だ。ローザとドリエに至っては、まだ幼い子どものように見える。
「お前達がか?」
「そうよ。」
ガゼボを信じさせるため、オレが闘気を解放しようとすると女子4人組の身体から闘気が現れた。ミレイの身体からは赤色、ローザの身体からは水色、ドリエの身体からは緑色、ミサキの身体からは黄色の光となって放射される。
「どうやら本当のようだな。お願いしよう。」
「みんな。行くわよ。」
「うん。」
「了解にゃ。」
それぞれが自分の武器に魔法を付与する。ミレイの剣からは凄まじい炎が、ローザの弓からは水色の眩しい光が、ドリエの剣からはパチパチと巨大な電流が、そしてミサキの剣からはまぶしい光が放たれている。
『ファイアードラゴン』
ミレイが魔法を発動しながら剣を振ると、剣から巨大な炎が放たれ巨大な竜へと形を変えていく。そして、大きな口でヒドラの頭を飲み込んだ。
『アイスドラゴン』
ローザが放った水色に光る矢は、見る見るうちに巨大な氷の竜へと姿を変え、大きな口でヒドラの頭を飲み込む。
『サンダードラゴン』
ドリエが剣を高く天に掲げると、剣から空に向かって放たれた光が巨大な竜の稲妻となってヒドラの頭を飲み込んだ。
『シャイニングドラゴン』
ミサキが剣を振ると、剣の先から一閃の光が放たれ、巨大な竜へと変化し、ヒドラの頭を食いちぎった。
「4つの頭は破壊したにゃ。」
「でも、頭が他に5つ残ってるわ。」
「ケン様。このままだとすぐにヒドラの頭が再生されます。」
「ケン兄。後は任せたよ!」
「ああ、了解だ!」
ガゼボをはじめ、傭兵達は口をあんぐりと開けて固まっている。驚きすぎて声も出ない状態だ。オレは少しだけ闘気を解放した。身体が神々しい光に包まれていく。
『時空裂断』
オレが手を横に振ると、どんどんと景色が上下2つに分かれていく。そして、ヒドラの残った5つの首を一気に切断した。
「さっすがケンね!」
「一撃にゃ!」
「ケン兄、凄すぎ!」
「ケン様、かっこいいです!」
すべての頭がなくなったヒドラがゆっくりと川の中に沈んでいく。
「ヤッタ—————!!!」
「ヒドラを倒したぞ———!!!」
静まり返っていた船上が一気に賑やかになった。オレ達の周りに大勢の人達が駆け寄って来た。
「お嬢ちゃんたち、すげーな!」
「めちゃくちゃ可愛いじゃねえか! お嬢ちゃんたちは天使様か何かか?」
ミレイもミサキもドリエもみんなに褒められて恥ずかしそうにしている。ローザだけはない胸を張って自慢げだ。ガゼボさんがオレに話しかけてきた。
「俺はガゼボだ。ありがとうな。おかげでこの船も沈まずに済んだぜ!」
「良かったです。誰も犠牲者が出ずに済んで。オレはケンです。『ワールドジャスティス』のリーダーをしてます。」
「そうか! 君があの有名なSSSランクの冒険者か。」
「オレって有名なんですか?」
「そうさ。『ワールドジャスティス』は当然有名だが、中でもお前さんは格別だって知られてるさ。」
今更だが、あまり目立たないようにと神様に言われていたのに、もう世界中で有名になってしまっているようだ。でも、この世界を平和にするためなんだから、神様も許してくれるだろうと思う。
「おい。どうやら本当にあの化け物を倒したようだぜ。」
「あの少女達と少年が討伐したのか?」
「何者なんだ?」
「『ワールドジャスティス』だってよ!」
「本当か?! あの有名な冒険者パーティーだろ?」
「本当らしいぜ!」
「なら、俺、記念に握手でもして貰おうかな!」
「ずるいぞ! 俺も握手して貰いてぇよ。」
船内に避難していた乗客達が次々とオレ達の周りに集まって来た。その後、意気投合した乗客と船員達が祝勝会を開くことになったようだ。当然、オレ達が主賓だ。オレは空間収納から食料を提供することにした。