ナロン川沿岸の街で一休み
議事堂を出たオレ達は、オリント共和国に隣接するカナリカ王国に向かうことにした。
「ミサキ~! カナリカ王国ってどんな国か知ってるか?」
「そうね~。農業大国だね。農業が盛んで、アルメデス王国も他の国もカナリカ王国から食料を購入してるわよ。」
「なら、期待できないにゃ。野菜が多いにゃ。」
ミレイが残念そうにポツリと言った。
「ミレイ! 安心して! 畜産も盛んだから、お肉もたくさんあるわよ!」
「本当にゃ?」
隣でドリエが安心して胸をなでおろしている姿が可愛かった。思わずドリエの頭を撫でてしまう。すると、目ざといミサキが言った。
「ケン! 見たわよ! 今ドリエちゃんの頭を撫でたでしょ! 不公平よね!」
「はいはい。」
何故か全員の頭を撫でて回る羽目になった。すると、肩に乗っているリンが頬ずりしてきた。
「ケン兄。海だよ!」
「ローザちゃん! あれは海じゃないわよ。ナロン川よ!」
「えっ?! 川なの~? だって向こうが見えないよ!」
確かに目の前の川は海のようだ。対岸がまるで見えない。それに、大きな船までいる。
「ケン。どうしよう? 橋もなさそうだよ。」
「ちょっと待ってて!」
久しぶりに頭の中にマップを開いた。すると、川の上流に街があるのが分かった。
「みんな。この川の上流に街があるみたいだから、そこに行くよ。」
「ケン様。この川を渡るのに兄さん達に頼んだらどうでしょう。」
「ありがとう。ドリエ。でも、橋がないなら船もあるし。とにかく街まで行ってみようか。」
「はい。」
オレ達は川岸を上流に向かって歩き始めた。すると、しばらくして街が見えてきた。川岸には大小様々な船が停泊していた。やはり、思った通り人々は船で行き来しているようだ。街に入ると、まるで漁村のような雰囲気だ。たくさんの魚が干してある。
「ケン。あの魚を見ていたらお腹が空いたにゃ。」
「ケン兄。私もお腹が空いた!」
「ローザ。お前、最近よくだべるよな。ミレイのようだぞ!」
「私は育ちざかりなの!」
ローザは少しだけ膨らみかけた胸を前に出して自慢げに言った。
「やっぱり子どもだな!」
「ケン兄! ひど~い!」
みんなで爆笑しながら歩いているといい匂いがしてきた。
「ケン! あのお店にしましょ!」
いい匂いはミサキが指さした店からだった。オレ達が店に入ると、すでにお昼ご飯の時間が過ぎているらしくお客は少なかった。メニューを見てオレは驚いた。メニューに『ラーモン』とか『ウロン』、『カツロン』、『カルー』とかどう見ても聞き覚えのあるものがある。
「みんな聞いてくれ!」
「何? ケン。」
「オレの勘違いでなければ、ここのメニューの中に書いてあるこれとこれとこれは、オレの元いた世界の食べ物だよ。」
「本当? 食べてみた~い! どれが美味しいの?」
女性陣はいつものように少しずつ分けて食べようと、『ラーモン』、『ウロン』、『カツロン』、『カルー』を1品ずつ頼んだ。オレは『カルー』を頼んだ。しばらくして料理が運ばれてくると、やはり予想道理だ。みんなでシェアして食べることになった。
「ケン! 感動だわ! この『ラーモン』って、すごく美味しい!」
「ミサキ姉! この『ウロン』も美味しいよ!」
「私はこの『カツロン』が大好きです!」
「『カルー』ってなんでこんなに辛いにゃ! 舌がピリピリするにゃ!」
「でも、ケンは美味しそうに食べてるよ!」
「ああ、オレはこの辛さが好きだからね。癖になるんだよ!」
久しぶりに食べたカレー。なんか涙が出てきた。地球にいた頃も好きだったが、今まで食べた中で一番おいしく感じた。
「ケン。気になることがあるんだけど。」
「何? ミサキ。」
「ケンのいた世界の料理がここにあるってことは、帝国の皇帝のようにケン以外にこの世界に来た人がいるってことよね?」
確かにそうだ。もしかしたらオレと同じ異世界人がいるのかもしれない。
“リン。オレ以外の異世界人がいるのか?”
“今はいないと思いますよ。”
“『今は』ってどういうこと?”
“過去にはいましたから。この世界の発展のために連れてきた者が。”
“皇帝ブルータスのような奴じゃないよな?”
“はい。ブルータスは元軍人のようでしたが、昔この世界に来た異世界人は元料理人でしたから。”
“なるほどね。”
オレ達が美味しそうに食べていると、店の女将がやって来た。
「あなた達どこから来たの? 美味しそうに食べてくれてありがとうね。」
「オレ達はアルメデス王国から来ました。ここの料理が珍しくて、しかもおいしくて、みんなで感激していたんですよ。」
「そう。良かったわ。この料理はね、私の故郷のカナリカ王国の郷土料理なのよ。」
「そうなんですか~。昔からあるんですか?」
「そうね~。私が生まれる前からあったみたいよ。他にもいろいろあるのよ。」
「そうなんですね。オレ達、これからカナリカ王国に行くつもりなんで、楽しみです。」
「そう。なら、この先の船着場から船が出てるから、そこから乗るといいわよ。」
「ありがとうございます。」
オレ達は食堂を出た後、船着き場に向かった。船着き場には大勢の人がいた。中には大量の荷物を運んでいる人達もいる。
「ケン様。大勢人がいますね。」
「そうだな。こうしてみると、カナリカ王国が平和ってことじゃないかな。」
「そうね。ケンが言う通りかもね。」
ミサキがオレと手を組んできた。それを見たミレイも急いでオレの手を握る。
「ずる~い! ミサキ姉もミレイ姉も!」
「いいじゃない。いつもローザちゃんとドリエちゃんがケンを独占してるんだから。」
ミサキはともかくとして、いつも遠慮がちなミレイが手を握って来たのがうれしかった。オレ達が船に乗るとすぐに出航となった。この世界の船は帆船だ。ゆっくりと進む。デッキの上にいると風が気持ちいい。空にはカモメのような鳥が飛んでいた。だが、静かな時間はここまでだった。
「おい! あれは何だ!」
「怪物だ~!」
「引き返せ! 早くしろ!!」
「キャー」
船の前から悲鳴が聞こえた。オレ達が駆け付けるとそこには頭が9つある蛇のような魔物がいた。それは、まさしくSSSランクの魔物のヒドラだった。
ローザにゃん! 換気するにゃ!
ダメ! 今、開けないで!
見られて困るほどのものはないにゃ!
ひっど~い!!!




