戦いの後始末
オレ達はカリバンさんと一緒に議事堂まで行った。議事堂では議員達が状況の報告を受けていたようで、安堵の空気が流れていた。そして、オレ達が到着すると全員が一斉にオレ達の近くに駆け寄ってきた。
「ケン殿。ご無事で何よりです。」
「スチュワートさんの依頼通りに死者は出しませんでしたよ。ああ、一人だけは別ですけど。」
「聞いています。まさかリプトンが魔族だったとは。驚きました。魔族相手に無事で何よりです。」
「ケンは何度も魔族と戦ってるにゃ!」
「そうなんですか?」
「実際に戦ったのは数回程度ですけどね。」
ここで、オレ達の近くにいた元伯爵のカリバンさんが、突然土下座をして謝罪を始めた。
「議員の皆さん。この度は本当に申し訳ありませんでした。私が罪を背負います。どうか他の兵士達の罪は減刑していただきたい。」
すると議員の中から怒声が上がる。
「ふざけるな! お前達のせいで、いったいどれだけの人間が苦しんだと思っているんだ!」
「そうだ! そうだ! 謝って済む問題ではないだろう!」
オレがスチュワートさんを見ると、スチュワートさんがみんなの前に立って話始めた。
「議員の皆さん。反乱軍達は魔族のリプトンに洗脳されていたんです。罪は減刑されてしかるべきでしょう。それに、彼らもこの国の国民です。ともにこの国の繁栄に協力してもらった方がよいのではないですか?」
ここで議員達が考え始めた。そこでオレが声をかけた。
「今回はオレが魔族を討伐したけど、オレ達はこの国に立ち寄っただけさ。この国には兵士の数が足りないと思うんだよね。せめて自分の国は自分達で守れなくちゃあ、いざって時に困ると思うんだよね。」
ここで遅れてやってきた軍部大臣のゲルトさんがみんなに言った。
「ケン殿の言う通りです。議員の皆さん。敵がこの国のどこから侵略してくるかわかりません。しっかりと自衛できる体制を整えるべきです。」
すると議員の皆さんも納得したようだ。ここで、ゲルトさんが議員のみんなに提案した。
「現在、この国の兵士は軍部大臣の私の支配下にあります。ですが、私一人では荷が重い。そこで、旧王国軍のリーダー的存在のカリバン殿に副大臣をしていただければと思うのですが、いかがでしょうか。」
「オレも賛成ですよ。民主派と王族派の融合の象徴になるんじゃないかな。」
するとスチュワートさんが全員に声をかけた。
「確かにゲルト殿やケン殿の言う通りですね。この国が本当の意味で一つにまとまるいい機会ですね。」
他の議員達も全員が賛成した。続いて議長選が行われることになったのだが、スチュワートさん以外の候補者が全員立候補を取りやめ、スチュワートさんを議長に推薦した。その結果、議長選はスチュワートさんの承認投票ということになった。全員が賛成で、正式にスチュワートさんが議長に就任することになった。
「議長はスチュワート殿が適任だ。危機管理能力、みんなをまとめる指導力、それに何よりも正義を貫こうとする強い意志。どれをとっても申し分ないな。」
議員達がみんなスチュワートさんのことを褒めたたえていた。
「良かったですね。スチュワートさん。」
「はい。これもすべて『ワールドジャスティス』の皆さんのお陰です。ありがとうございます。皆さんにはこの国から『栄誉賞』を授与したいのですが。」
「スチュワート殿の言う通りですな。この国は『ワールドジャスティス』の皆さんに救われたようなもんですからな。」
ミレイもミサキもローザもドリエも誇らしげだ。3日後にスチュワートさんの議長就任式と合わせて、オレ達の『栄誉賞』の授賞式が行われることになった。
「ねえ。ケン。授賞式に行くのに服ないよね?」
「ケン兄。私もドレス着たい~!」
「ケ、ケン様! 私もドレスを着てみたいです。」
「ならみんなで正装を買いに行こうか?」
「さすがケンにゃ!」
オレ達は街に正装を買いに行った。こういう経験があるのはミサキしかいないが、ミサキはつい最近まで目が見えなかった。
「どんな服がいいか誰か知ってる?」
「・・・・・」
どうやら誰も知らないようだ。そこで、店員に聞きながら購入することにした。オレはすぐに決まったが、やはり女性達は時間がかかる。店内の待合スペースの椅子に座って待つことにした。
“マスター?”
“どうしたの? リン。”
“今回も魔族がいましたが、過去の例を見ると、魔族がいるのはオーブが関係しているときだけでした。今回も同じじゃないでしょうか?”
オレはオーブのことを失念していた。確かにリンが言う通りだ。魔族がいるところには必ずオーブがあった。
“リンの言う通りだ。ちょっとオーブの反応を調べてみるね。”
オレは体の中心に精神を集中した。すると、微かにオーブの反応が感じられる。だが、あまりに微弱だ。
“リン。このベロンの街のどこかにオーブがありそうだよ。でも、反応が微弱で場所の特定が難しいんだ。”
“時間はたっぷりありますから、明日からベロンの街をくまなく探しましょう。”
すると、女性陣が大きな袋を持ってやってきた。みんなニコニコしている。
「ケン。今日は亜空間の家に行くにゃ。みんなで服を着てみるにゃ。」
「そうよね。ケンの正装姿も見たいしね。」
「私もケン兄にドレス姿見てもらいたい!」
「私もです。ケン様。」
その日は宿屋に泊まらずに、久しぶりに亜空間の家に行くことにした。亜空間の家に着くと女性陣のファッションショーが始まった。最初にミサキだ。さすが王女様だけあって、完全に着こなしている。背中が大胆に見えるドレスだ。次にミレイ。ミレイは自慢の胸を強調するドレスにしたようだ。こぼれんばかりの胸に目が泳いでしまう。
「ケン。胸以外も見て欲しいにゃ。」
「見てるさ。ミサキもミレイもすごく奇麗だよ。」
すると、恥ずかしそうにドリエが入ってきた。子どもだと思っていたがやはり成長しているようだ。ミレイを見た後だが、小さいながらに胸を強調したドレスになっている。めちゃくちゃ可愛い。最後はローザだ。
「えっ?! 本当にローザか?」
「ケン兄! 驚いたでしょ!」
体も胸も二回り大きくなっている。どうしたことだろうか?
「ローザ! 何かしたのか?」
「うん。エルフ族に伝わる秘伝の魔法を使ったの。2時間だけだけど姿を変えられるんだ!」
「成長したローザも奇麗だけど、今のローザの方が可愛いのに!」
「そう言われると思って他のバージョンも用意してるよ!」
全員とも授賞式に出るのにふさわしい姿だ。逆に他の男性達に言い寄られるかもしれない。むしろそっちの方が気になってしまった。
「次はケンが着てみせて!」
仕方がないのでオレは自分の服を着て見せた。上下白の礼服だ。礼服というと黒のイメージを持っていたが、リンに勧められて白色のものを選んでしまった。
「かっこいいにゃ!」
「本当!!! 凄く似合ってるよ。ケン!」
「ケン様、素敵です!」
するとローザがオレに近づき右腕を掴んだ。
「これより新郎新婦の入場!」
「ローザちゃんずるい!」
「ローザ! 抜け駆けはダメにゃ!」
「私もケン様と手を組んでみたいです!」
しばらくして、オレ達のファッションショーが終わった。なんか魔族と戦う時よりも疲れてしまった。