投票前日の議会
オレ達がスチュワートの屋敷に行くと、3人ほどお客が来ていた。オレ達は秘書のケントに客間に通された。1時間ほどしてスチュワートが部屋にやって来た。
「申し訳ありません。話し合いに時間がかかってしまいました。」
「お客さんはどなたなんですか?」
「はい。実は今回の議長選には、私を含めて5人が立候補しているんですが、私たちの立候補を妨害しようとしている人物がいるんですよ。今日来ていたのは、私以外の候補者たちなんです。どうやら脅迫されたみたいでして、その相談に来たんです。」
「脅迫しているのはギブソンですよね?」
「えっ?! どうしてそれを?」
「あの武装集団の連中もギブソンに雇われたようですね。」
「ケン殿は一体何者なんですか? 私の知らない情報まで。」
「それはおいといて、元侯爵のリプトンとギブソンがこの国を奪おうとしてるみたいですよ。」
「やはりそうでしたか。ギブソン一人の力では無理ですから。おかしいと思っていました。リプトンが関係しているとなれば納得です。彼は、貴族の中でも最も権力に執着していた人物でしたから。」
「ケン。これからどうするの?」
「退治するにゃ! 悪者は僕達で退治にゃ!」
「ミレイ。そんな簡単な問題じゃないよ。国民の中にも王政派と民政派がいるだろうし。それに、仮にもギブソンはこの国の議員だからね。」
「なら、どうするの? ケン兄!」
「スチュワートさんには選挙で正々堂々と勝ってもらうさ。」
「でも、相手が嫌がらせをしてきたり、この前のように暴力的に来たらどうしますか?」
「そうだな。その時はドリエにも頑張ってもらって、ミレイの言う通り退治するしかないだろうね。」
「はい。私、ケン様のためなら頑張ります!」
なんかドリエが可愛い。隣に座っていたドリエを思わず膝の上に抱き上げてしまった。
「ケン様。恥ずかしいです。」
「いいのさ。」
肩の上のモフモフのリンがオレのほっぺにすりすり始めた。
「リンちゃんもドリエちゃんもずる~い!」
「皆さんは本当に仲がよろしいんですね。」
スチュワートもニコニコしている。翌日から、オレ達はスチュワートの護衛をすることにして、その日は亜空間の家に帰ることにした。
「ところで、ケン。議長選挙って誰が投票するにゃ?」
「この国の議員さ。」
「ケン様。国民が投票するんじゃないんですか?」
「違うよ。そもそもこの国の議員は、各地域で選挙で選ばれた代表だからね。」
「わかったよ。ケン兄。議員が投票するってことは、間接的に国民が投票するのと同じってことだよね。」
「賢いじゃないか。ローザ。」
「えっへん!!!」
ローザは腰に手を当てて胸を張っている。やはりまな板だ。
「ケン。ギブソンが議員達を脅すことは考えられない?」
「あり得るね。彼らは必死だろうからね。」
「なら、どうするの?」
「『ワールドジャスティス』の出番さ。オレ達が選挙の不正が起きないように表に出るしかないだろうね。」
「ケン兄! どういうこと?」
「賄賂や脅迫をしたものは『ワールドジャスティス』が許さないってこと。それを議員達の前で発表するのさ。」
「そんなこと許されるのかな?」
「許されなくてもオレが力づくで納得させるよ。」
「さすがケン様です。」
その日は、夕食を亜空間の食堂で食べてそれぞれの部屋で休んだ。いつものようにオレの隣には人化したリンが寝ている。
そして翌日、オレ達はスチュワートについて議会が開かれる議事堂に向かった。議事堂の警備は厳しかったが、スチュワートの護衛ということで中に入ることが許された。オレ達は傍聴席に座っている。傍聴席には人相の悪い連中が何人もいた。
「では、これより臨時総会を始めます。今回は、議長選挙についてです。立候補を希望される5名の方は前に出てください。」
すると、最初にギブソンが登壇し、その後ろに3人が続いた。そして最後にスチュワートが登壇しようとした瞬間、隣の男が魔法を放とうとした。オレはすかさず男が動けないように魔法を発動する。
『グラビティー』
すると、魔法を発動しようとした男は地面に叩きつけられ、他の男達が剣を抜いてこちらに向かってきた。
「ミレイ!」
「了解にゃ!」
ミレイが男達に一気に近づき、腹に拳をお見舞いする。
「グホッ」
議場も異変に気付いたのか、騒ぎになり始めた。そこで、オレは風魔法に乗せて全員に聞こえるように言った。
「安心してください。無法者達はオレ達が取り押さえました。そのまま進行していただいて大丈夫です。」
オレ達は男達を縛り上げ、命令した者を聞き出そうとしたが、全員が口から血を流して死んでしまった。どうやら口の中に毒があったようだ。
「ケン。こいつらはプロにゃ。恐らくプロの殺し屋にゃ。」
「そのようだね。でも、自分の命を犠牲にしてまで守る価値があるのかな~。あのギブソンに。」
壇上にいるギブソンはこちらを見ていたが、犯人が全員死んだことに安心したのか視線を前に向けた。
「では、立候補者一人一人から、この国の今後についての意見を述べてもらおうと思います。」
最初にギブソンが話し始めた。この国の税金を無税にするとか、国民一人一人に金貨5枚を配布するとか言い始めた。財源はどうするのだろうか? そして、2人目、3人目と話、最後のスチュワートの話になった。
「私は現実的な話をします。まず、王族派も民主派もなく全員が平等な社会を築きます。国民から頂く税金は、一律でなく収入に応じた金額で徴収させていただきます。その税金は、国内の道路の整備に使うだけでなく、病気の人達が安心してかかれる国営の病院を設立したいと思います。また、子ども達のための学校や親のいない子どもたちのための孤児院の設立をします。さらに、国民の生活が豊かになるように農業や工業の発展にも力を入れていきます。その第1歩として、隣国アルメデス王国に技術協力を要請をして、国営工場の設置を考えています。ともに、この国を豊かにしていこうではありませんか。」
「パチパチパチパチ・・・」
ギブソンの時よりもひときわ大きな拍手が起こった。ギブソンは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「では、議員の皆さん。明日の午後に投票を行いますので、明日再度お集まりください。」
ここで、オレ達は転移魔法で壇上に移動した。突然オレ達が現れたことに全員が驚いている。
「あなた達は一体なんですか?」
「オレ達は『ワールドジャスティス』だ。今回の選挙で不正がないように監視させてもらう。」
すると、ギブソンが大きな声で怒鳴った。
「冒険者風情が何を言ってるんだ! それにお前達はこの国の人間ではあるまい!」
ギブソンの言葉に呼応する者達がいた。
「そうだそうだ! お前達には関係あるまい! 出て行け!」
予想通りの展開だ。ここでオレは少しだけ闘気を解放した。オレの姿が神々しい光に包まれていく。辺りには熱風が起こった。議員達は目を大きく見開いて驚いている。
「世の中の正義を乱すものはこのオレが成敗する!」
会場内が一気に静かになった。ギブソンも彼に味方するものさえも、恐怖に打ち震えていた。そしてその日は解散となった。




