武装集団に襲われる!
その日は冒険者ギルドの受付の女性に聞いた宿に泊まり、翌日早朝、オレ達はスチュワートの屋敷に行った。すると、馬車が2台ほど用意されていた。ローザとミレイが先頭の馬車の御者席に座り、ドリエとミサキが後方の馬車の御者席に座った。どこから攻撃されてもいいように、オレはマップを起動したままにして、後方の馬車にスチュワートと乗った。
「ところでケン殿達はパーティーを組んでいるんですよね?」
「はい。男がオレ一人なんですけどね。」
「いいじゃないですか? 美少女たちに囲まれて羨ましい限りですよ。」
スチュワートの言葉にリンが反応した。オレの膝の上で寝ていたリンが起き上がってアピールを始めたのだ。
「おやおや。この子犬もアピールしてますよ。」
「ええ。リンもオレ達のパーティーメンバーですから。」
「そうでしたか。ごめんね。リンちゃん。」
スチュワートに頭を撫でられて、リンもご満悦のようだ。再びオレの膝の上で丸くなった。
「ところでケン殿。ケン殿達のパーティーは何という名前ですか?」
「あ、はい。『ワールドジャスティス』ですよ。」
「えっ、え———————!!! あの有名なSランクパーティーですか?」
「そうですけど。そんなに有名になってるんですか?」
「アルメデス王国やセザール獣王国における活躍は、この国にまで聞こえてきてますから。確か魔族も討伐したとか。」
「そんなこともありましたね。」
オレがとぼけていると、スチュワートが真剣な表情で話してきた。
「ケン殿にお願いがあるんです。」
「なんでしょう?」
「私は王族派も民族派もないと思っているんですよ。ともにこの国の国民ですから。だから、彼らが攻めてきても殺さないでいただけるでしょうか? 勝手なお願いで申し訳ないのですが。」
「オレ達は今迄に大勢の盗賊や無法者と戦ってきましたが、オレ以外は誰も人を殺してませんよ。」
「それは本当ですか?」
「はい。帝国との闘いでも、誰一人殺していませんから。」
「そうですか。それを聞いて安心しました。ですが、ケン殿は人を手にかけたんですか?」
「ええ。魔族だったんですが、本当は生かしておきたかったんですけどね。」
「それは無理でしょう。魔族を討伐しただけでも奇跡的なことですから。ましてや生かしておくなど。」
そんな話をしていると、オレのマップにたくさんの赤い点が表示された。
「スチュワートさん。敵が来たようです。ここで待っていてください。」
オレは馬車を下りて先頭の馬車まで行った。そしてみんなを集めて作戦会議だ。
「ケン。敵はどのくらいいるの?」
「そうだな~。100人ぐらいかな。」
「ケン兄。100人なら余裕だよね。」
「そうでもないんだ。まず、スチュワートさんの依頼で一人も殺さないようにしないといけないんだ。それに、今までと違って捕えてもどこにも突き出すことができないのさ。」
「どうしてにゃ?」
「他の議員の手の者がいたらすぐに釈放されてしまうでしょ。」
「そうか~! ミサキ姉、賢~い!」
「なら、どうするんですか? ケン様。」
「また、ドラクさんのところってわけにもいかないしな~。」
ここで、リンが念話で話しかけてきた。
“私が説得しましょうか?”
“お願いできるか?”
“はい。マスターのためなら頑張ります。”
“よろしく頼むよ。”
「みんな。敵を無力化してここに集めてくれるか?」
「わかったにゃ!」
「了解!」
全員が一斉に敵のいる方向に走って行った。オレはマップに表示された中で、強者と思われる者達のところに向かった。しばらくして、四方八方から叫び声が聞こえてきた。
「ギャー」
「た、助けてくれ~!」
「グギャー」
オレが木の後ろの男達に近づくと火魔法を放ってきた。ファイアーボールだ。オレは剣で魔法を無効化する。
「無駄だ! 武器を捨てて降伏しろ!」
「ふざけたことを! たった一人で俺達10人を相手にできるのか?」
オレは空間魔法を放った。
『スペースカッター』
オレが手を横に振ると、男達の隠れている木が切り倒された。
「貴様! 何者だ?」
「何者でもいいだろ! もう一度だけ言う。降伏しろ!」
2人を除いて、男達が木の陰から斬りかかって来た。後ろの2人は魔法を放ってくる。今度はファイアアローとウォーターカッターだ。オレは転移で一気に魔法使いのところまで行き、腹に拳をお見舞いして意識を刈り取った。剣で切りかかって来た者達は、突然オレがいなくなって状況がつかめていないようだ。
「何を驚いているんだ。『転移』だよ。魔族だって使っていたぞ!」
「『転移』だと~! ありえん。その魔法は伝説の魔法だ。そんなものが使える人間などこの世にいるものか!」
「信じられないようだな。別にいいけどね。」
オレは再び転移して男達の前に現れた。そして、男達の腹に拳を叩き込んで意識を刈り取った。オレが、男達をロープで縛って馬車の前まで連れて行くと、すでにミレイ、ローザ、ドリエが戻っていた。オレのすぐ後にミサキがやって来た。
「ケン。相手の意識は刈り取ったんだけど、ここまで運べないんだよね。重いんだもん。」
「いいよ。オレが一緒に行くよ。」
オレはミサキと一緒に意識を失っている男達を転移で運んだ。捕まった男達は、ロープに縛られた状態でオレ達に何か文句を言っている。そこにスチュワートがやって来た。
「さすがケン様達ですね。これだけの相手を一人の死人もけが人も出さずに拘束するなど、普通ならできませんよ。」
「オレ達は殺してもよかったんですけどね。」
オレはわざと闘気を少し解放した。すると、辺り一帯に熱風が吹きオレの身体から神々しい光が放射される。捕まっている男達もスチュワートまでもが、信じられない光景を見たかのように大きく目を見開いていた。そして、約束通りリンが大天使の姿で降臨した。
「我が名は大天使ナルーシャ。聞くがよい。」
オレ達以外は全員が平伏している。ここで目ざといローザがフェンリルのリンを探し始めた。
「お前達は何故争う。王族派も民主派も関係なく、みんな神の子ではないのか! お前達が争うことを神が喜ぶと思っているのか! 共に手を取り、平和な国を作ることこそ神の願いである! 神の意志に背くものは、我がマスターが神に変わって成敗する! よいな!」
武装していた者達が全員頷いている。どうやらわかってくれたようだ。その後、リンは大天使の姿を消し、馬車の後ろから子犬の姿でオレの肩に乗って来た。
「オレはみんなの心を信じます。だからみんなを拘束している縄を外します。スチュワートさんと一緒に、この国を変えるのに協力してくれませんか。」
すると、一人また一人と前に出た。
「スチュワートさん。申し訳なかった。俺達が間違ってた。王族派も民主派もないんだ。俺達はこのオリント共和国の国民なんだ。是非協力させてくれないか。」
「みんな。ありがとう。ともにこの国の未来のために、この国の子ども達のために頑張りましょう。」
オレもミサキもミレイもローザもドリエも全員が拍手した。そして、いつのまにかこの場の全員が拍手していた。
「ケン殿。貴殿は何者なんだ? 大天使様が貴殿のことをマスターと呼んでいたが。」
「オレにもよくわからないんです。」
するとローザが言った。
「ケン兄は記憶がないから聞いても無駄だよ。」
「そうなんですか。」
スチュワートを襲った武装集団は全員が気持ちを入れ替え、それぞれの出身の街に帰って行った。自分の出身地の人々に、民主化することが神の意志であることを伝えるために。そして、人々に大天使ナルーシャの言葉を伝えたのであった。




