ノースタウン行の乗り合い馬車
久しぶりに帰還したケンはジョナサン国王とジミー公爵と王城で話をした。その際、アルメデス国内に新たなダンジョンが発見されたと知らされた。だが、そのダンジョンは普通のダンジョンと違って魔物が出てくるようだった。そこで、次の目的地であるオリント共和国に向かう途中で、ノースタウンの新たなダンジョンに立ち寄って調査することにした。
「ケン。馬車に乗らないの? ノースタウンまでは馬車が出ているわよ。」
「そうなの?」
ここで、ミサキが重要な情報を教えてくれた。
「他の街にも乗り合い馬車はあるのよ。ただ、希望者が少ないと馬車が出ないだけなの。」
「そうだったのか? 知らなかったよ。」
「ケン兄。知らなかったの? 乗り合い馬車のこと。」
「まあね。でも、歩く方が体力づくりにはいいから、別にいいけど。」
「なら、今回も乗らないの?」
ミサキが上目遣いで聞いてきた。その後ろで、ミレイもローザもドリエもオレを見ている。
「分かったよ。今回は乗ろうか。」
「さすが、ケンにゃ。」
「ケン兄大好き!」
オレ達は乗り合い馬車の乗り場に向かった。乗り合い馬車の乗り場は人が閑散としていた。オレ達は5人いるので、丁度1台馬車を貸し切ることができた。だが、他の馬車が出る気配がない。人が集まらないのだ。
「すみません。この馬車は出ないんですか?」
「4人以上いないと出さないんだよ。明日来てくれ。」
子どもを連れた母親が途方に暮れていた。オレ達の馬車は空きが1人分あったが、2人は乗れない。すると、ローザが声をかけてきた。
「ケン兄。あの人達困ってるみたい。」
「そうだな。」
「私とドリエがまた御者席に座れば乗れるよね?」
「いいのか?」
オレがローザとドリエを見ると頷いていた。そこで、オレはその親子に声をかけた。
「この馬車に乗りませんか?」
「いいんですか?」
「2人が御者席に座りますから、あなた方2人なら座れますよ。」
「ありがとうございます。感謝します。」
全員が座って準備が整い、馬車がノースタウンに向かって出発した。母親と男の子は黙ったままだったので、オレの方から話しかけてみた。
「オレはケン。こっちはミレイとミサキ。御者席にいるのがローザとドリエです。」
「申し遅れました。私はジャネットといいます。この子はマイケルです。」
「ノースタウンまで何か急用なんですか?」
「ええ、実は主人が冒険者をしているのですが、新しく見つかったダンジョンで一儲けするんだって出かけたっきり、連絡もなく帰ってこないんですよ。」
「いつの話ですか?」
「もう1か月近く経ちます。噂で、行方不明になってると聞いたもんですから、いてもたってもいられずマイケルと行くことにしたんです。」
「そうですか。オレ達も冒険者なんです。新しいダンジョンに行くつもりですから、ご主人を探しましょうか?」
「本当ですか?」
「ご主人の名前は何と言うんですか?」
「リチャードです。」
「お役に立てるかどうかわかりませんが、ご主人を探してみますね。」
「よろしくお願いします。」
その隣で、マイケルは拳を握り締めていた。ローザと同じ10歳ぐらいだ。父親が心配なんだろう。
さすがは馬車だ。その日の夜にはノースタウンの街についた。夜ということもあり、オレ達はジャネット親子と宿をとることにした。新たなダンジョンが発見されたこともあって、どこの宿も冒険者で一杯だった。そこで、ミサキが王女の権力を使って何とか宿を確保した。
「ミサキ様は王女様だったんですね。知らなかったは言え、ご無礼をお許しください。」
「大丈夫ですよ。今は冒険者ですから。」
「ジャネットさん。ケン兄もダンデライオン伯爵なんだよ。」
「そうだったんですか? 大変失礼しました。」
「気にしないでください。それより、マイケル君が眠そうにしていますよ。早く食事を済ませて休ませてあげた方がいいですよ。」
「ありがとうございます。」
翌日、オレ達はジャネット親子と一緒に冒険者ギルドに行った。ジャネットの夫のリチャードの情報を確認するためだ。ギルドに到着すると、ギルド内にはほとんど人がいなかった。新しく発見されたダンジョンにでも行っているのだろう。オレ達は受付に行って話を聞いた。
「すみません。聞きたいことがあるんですが。」
「何でしょうか?」
受付には20代前半の人族の女性がいた。
「王都からの冒険者で、リチャードさんって方を探しているんですが知りませんか?」
「そういえばリチャードさんの姿をここ最近見かけないわね。」
「なら、最近まではここに来ていたんですね?」
「そうよ。いつも『女房と子どもために頑張るんだ』とか言ってましたよ。」
「そうですか。」
ジャネットの顔が少し安堵の表情になった。
「良かったね。マイケル。お父さん生きてるみたいよ。」
「当たり前だよ。母ちゃん。父ちゃんは強いんだから。」
オレ達の前でほとんど口を利かなかったマイケルが、力強く言った。恐らく、父親のことが心配で緊張していたんだろう。
「ジャネットさん。オレ達はダンジョンに行きますけど、ここにいればリチャードさんにも会あえるかもしれませんよ。」
「ありがとうございました。ダンデライオン伯爵様。」
ジャネットの声を聴いて受付の女性が考え込んでしまった。
「ダンデライオン? 伯爵?」
オレは慌ててジャネットに言った。
「ジャネットさん。オレのことはケンと呼んでください。」
「ああ、申し訳ありませんでした。」
「いいんですよ。じゃあ、オレ達はダンジョンに行きますから。」
「気を付けてくださいね。」
オレ達は新しいダンジョンに向かった。




