温泉の街イサワ
オレ達はエルフの里に向かう途中で、温泉の街イサワによることになった。温泉があるということは近くに火山もある。その周辺には貴重な鉱物があるはずだ。
「見えて来たにゃ。あの火山の麓にゃ。」
「急ぐなよ。ミレイ。そんなに急ぐと転ぶぞ!」
「ドテッ」
「痛いにゃ~!」
「ミレイ。ケンの言う通りよ。温泉は逃げないからゆっくり行きましょう。」
「わかったにゃ。」
イサワの街に入るとすごい活気だ。通りの中央には食堂や宿屋の呼び込みらしき人達がいて、何回も声をかけられた。
「お兄さん。モテるね~! 羨ましいよ。うちの宿に来ないかい? 5人部屋も用意するよ。」
なんか誤解されている。客引きの男は嫌らしい目つきで見ている。
「宿はもうちょっと街を見学してから決めますから。」
「そうかい。待ってるよ。」
街の中には様々な店がある。裏通りには歓楽街のような場所もあった。
「ケン。あんな店にはいかないでね。」
「ねぇ。ミサキ姉。あの店って何なの?」
「ローザちゃん。あそこは危ない店なの。ケンのような男の人が行くと、帰って来れなくなるのよ。」
「えっ?! あんなに強いケン兄でも?」
「そうよ。」
その隣でドリエとミレイがクスクスと笑っている。オレは体の小さなローザを肩にのせた。
「どうしたの? ケン兄?」
「ローザはいい子だなって思ってさ。」
理由の良くわからないローザもご機嫌だ。すると、屋台からいい匂いがしてきた。
「お兄さん達。旅の人かい? イサワ名物の黒卵にレッドボアの肉串だよ。どうだい?」
全員の目がオレに向いた。
「おじさん。それ、5個ずつ頂戴!」
「まいど~!」
オレはお金を払って商品を受け取り、近くのベンチで座って食べることにした。
「美味しいね。ケン兄。でもどうして卵が黒いの?」
「そうね。不思議ね。ケン知ってる?」
「全員がオレの顔を覗き込んだ。」
ここで悩んだ。たしか、温泉の硫化水素と鉄が反応するんだよな。でも、みんなにそんなこと言ってもわからないだろうしな。オレが困っていると、ミレイが場の空気を読んだようだ。
「美味しかったら何でもいいにゃ。それよりもう1セット食べたいにゃ。」
「他の店も見るから、ここでお腹いっぱいになると後で食べられなくなるぞ!」
「なら、我慢するにゃ。」
しょぼくれたミレイが凄くかわいかった。思わず、頭を撫でてしまう。
「ケン。宿に泊まるんでしょう?」
「どうせ、ミサキは温泉のある宿がいいんだろう?」
「ケン兄。私も宿に泊まりた~い!」
「なら、みんなで宿を探そうか?」
「ケン。冒険者ギルドで聞くのが早いにゃ。」
「そうだな。じゃぁ、最初にギルドに行こう。」
オレ達は冒険者ギルドに向かった。行く途中に街を眺めると、やはり店が多い。珍しいことに、魔石を扱っている店もあった。
「ミレイ。素人が魔石なんか持ってて意味があるのか?」
「何言ってるにゃ。属性魔法以外は魔石を使うにゃ。」
「そうなの?」
オレは何も気にせず魔法を使っていたので知らなかったが、この世界の人々は大抵1つか2つの属性しかないようだ。それ以外の魔法を使いたいときは、魔石を利用して魔法を発動するしかないらしい。
“リン! オレってやっぱり属性魔法は戦闘に使えないのか?”
“封印が解除されましたから、すべての魔法が使えるはずですよ。”
“なら、魔石は必要ないよな。”
“はい。”
「意識してなかったけど、ケン兄はどの属性なの?」
「今までは無属性の魔法が中心だったけど、今度確かめてみようかな。」
「ケンは自分の属性を知らないんだ~。」
「生活するレベルだったら、属性魔法も使ってたけどね。」
「そうなんだ~。」
そんな話をしながら歩いていると、冒険者ギルドに到着した。ここのギルド内は不思議と酒臭くない。中を見ると、酒場には誰もいなかった。
「なんか、冒険者が少なくない?」
「ケン様。他のギルドはもっと多いんですか?」
「そうか~。ドリエは王都のギルドしか知らないもんな。普通はもっと酒臭くて、酔っ払いがいるんだよ。」
「そうなんですね。」
オレ達は受付の女性のところに行った。兎耳族の女性だ。
「何か御用ですか?」
「はい。温泉付きの宿屋を探してるんだけど。」
「なら、この道を北に行った最初の交差点を、火山の方に向かって進むといい宿がありますよ。」
「何て名前?」
「えっ?! ジョナンですけど。」
なんか受付の女性がもじもじしながら答えた。どうやらオレが彼女の名前を聞いたと誤解されたらしい。
「ジョナンさん。宿の名前は?」
自分の誤解に気付いたようで、白い顔が真っ赤になっていた。なんか可愛い。横を見ると、女性陣がオレを睨んでいる。
「ああ、宿は『イサワノ湯』です。看板が出ているのですぐにわかると思いますよ。」
「ありがとうございました。あと、ここのギルドって冒険者がいないんですか?」
「みんなアタゴ山に行ってますよ。」
「何しにですか?」
「鉱物を取ったり、魔物を討伐したり、それぞれですけど。」
「鉱物が取れるんですか?」
「はい。ミスリルが取れたこともあるんですよ。ほとんど、鉄ですがね。たまに金を取ってくる人もいますよ。」
すると、冒険者らしき男が慌てて飛び込んできた。