戦車の街ペロン(2)
港町セサボでも気になったが、このペロンでも検問や城壁のようなものはない。恐らく、この大陸に国が一つしかないからだろう。ペロンの街に入るとやたらと軍人が多い。ただ、職業軍人達ばかりでなく、どうみても一般市民と思われる人達も軍服を着ていた。すれ違いざまに魔法で話の内容を聞いてみた。
「いつまで軍人やらされるんだ!」
「声が大きいぞ。徴兵の任期は3年だ。もうすこしだ。我慢しようぜ。」
「お前よく我慢できるな。妻や子どもに会えないんだぜ。それに、畑もどうなってるか心配だ。」
「そんなこと言っても仕方ないだろうが。あと少しの辛抱だ。」
この国には徴兵制があるようだ。やはり、帝国兵を殺さなくて正解だった。好き好んで兵隊をしている者もいれば、無理やり兵隊にされている人達もいるんだ。オレはこの街に入った時から複数の視線を感じている。どうやら怪しまれたらしい。
「ミレイ、ローザ、ミサキ。ちょっといいか?」
「何?」
「どうやらオレ達は見張られているようだ。言動には注意するように。」
「了解にゃ。」
「うん。」
オレ達はそのまま宿をとって、宿屋で夕食を食べた。
「あなた達、本当に部屋は一つでいいのかい?」
「ええ、オレ、一晩中大変なんですよ!」
「人は見かけによらないね。あんたはそんなに女好きには見えないんだけどね。」
ミサキもミレイも真っ赤な顔をして下を向いている。ローザだけは何か誤解しているようだ。
「ケン兄。何が大変なの? もしかして、ミレイがイビキをかくの?」
「僕はイビキなんかかかないにゃ!」
「あれは方便だから。ローザ。」
するとミレイがポツリと言った。
「な~んだ! つまんないにゃ。」
オレ達は宿の部屋に入った後、亜空間の家に行った。亜空間の家には何といっても風呂がある。オレはゆっくりと風呂につかりながらこの先のことを考えた。
“リン。やっぱり、オレには人は殺せないな。”
“マスターの優しさです。ですが、必要になる時も来ます。覚悟はしておいて方が良いかと思います。”
“そうだよな。”
その日は3人に囲まれながらもぐっすり寝た。そして翌朝、オレ達は普通の旅行者のように街を散策して、お土産屋や衣料品店、武器屋なんかを覗いていた。すると、突然兵士達に囲まれた。
「お前達はどこから来た?」
「・・・・・」
「答えられないのか? 怪しい奴らだ。ちょっと、衛所まで来てもらうぞ。」
ここでどうしようかと悩んだが、ひとまず兵士達について行くことにした。衛所に行くと、上官らしき人物が出てきた。
「お前達はどこの出身だ? 調べればすぐわかることだ。答えよ。」
「オレ達は田舎から出て来たんですよ。街が珍しくて迷子になりそうでした。よかったです。」
「田舎とはどの街だ? 答えよ。」
ミレイもローザもミサキも下を向いたまま黙っている。すると、上官らしき男がミレイの腕を引っ張る。
「キャー。何するにゃ?」
「『にゃ』?! お前は本当に人族か?」
「見ての通りにゃ!」
上官が薄汚い笑いを浮かべて言った。
「怪しい奴だ。こいつを連れてこい。服を脱がせて確かめてみる!」
「やめるにゃー。放すにゃー。」
ミレイは抵抗しながらオレの顔を見た。どうやら限界のようだ。
「ミレイ、ローザ、ミサキ。ここから出よう。」
「うん。」
「何だと~! どうやって出るつもりだ! この建物は兵士達に完全に包囲されているんだぞ!」
「別に簡単なことさ。」
「ミレイ、ローザ、ミサキ。おいで。」
3人がオレの手をつかんだ。その瞬間、4人の姿はその場から消えた。
「どこに行ったんだ? あいつらを探せ! この街の全兵士に伝えろ!」
「ハッ」
オレ達は街の外の戦車がある建物付近に転移した。
「どうするの?」
「時間が経てば余計に面倒になる。このまま一気に制圧するぞ!」
「了解にゃ。」
「うん。」
「ケン。聞いて言い?」
「危なくなったら本気出していいんだよね?」
「ああ、その通りだ。みんな、自分の命を最優先してくれ。」
「あと、この指輪を渡しておくよ。」
「結婚指輪かにゃ?」
「違うから! これは魔法の指輪さ。頭の中で念じれば、オレと通信ができるようになるから。」
「便利だにゃ。」
「それだけじゃない。レベルの低い魔法攻撃や物理攻撃を通さないように、みんなの周りに結界ができるから。」
「さすがケン兄!」
「なら行くぞ!」
4人はそれぞれ別々の建物に向かった。それぞれの建物の周りには兵士達が巡回している。そして、建物の中では、兵士達が一生懸命戦車に樹脂をコーティングしていた。
オレ達は巡回している兵士達を次々と倒していく。致命傷を与えないように倒していくのは骨が折れる。それでも、なんとか全員を無力化することができた。そして、建物の中に入っていった。