ルミエル伯爵
ダンテ達に笑顔が戻った。そしてダンテ達は避難している仲間の竜人族を急いで呼びに行った。しばらくして、気絶していた帝国兵達も徐々に目を覚まし始める。みんな自分達の首についている輪を不思議そうに触っている。オレは風魔法で全員に伝えた。
「お前達は捕虜になった。今日からお前達が破壊したこの竜人の里を復興してもらう。その首の輪は逃げようとしたり、悪事を行おうとすると勝手に締まるようになっている。生きて帝国に帰りたければ、素直に従った方がいいぞ!」
オレの闇魔法を体現した兵士達の顔は恐怖で引きつっている。オレは彼らのロープをほどいたが、逆らおうとする者は一人も現れない。全員がその場に座ったままだ。そこに、ダンテに連れられて竜人族達が帰ってきた。
「ダンテさん。海にいる船も処分しましょう。」
「はい。ケン様。」
すると、ルミエル伯爵が言った。
「我が国の文明は世界最強だ。すでに、この戦場での出来事は戦艦だけでなく、本国も知っているだろう。すでに戦艦は撤退したと思うぞ。」
「お前達を見捨ててか?」
「そうさ。我が国では役に立たない者は必要としないのだ。」
「酷いにゃ。」
オレ達は再びダンテ達の背中に乗って海を目指した。だが、ルミエル伯爵の言った通り、すでにそこに船はなかった。オレ達は再び竜人の里に戻った。
“リン。帝国のことを調べてくれるか? 特に、異世界から来た人間のことを知りたい。”
“畏まりました。眷属に調べさせましょう。”
竜人族達は久しぶりの我が家とあって歓喜に満ち溢れている。
「ケン様。今日は竜人の里で祝勝会を開きます。皆さんも参加してください。」
「ええ、喜んで。」
祝勝会と聞いて、ミレイもミサキもローザも大喜びだ。浮かない顔をしていたのは捕虜達だった。
「帝国兵の諸君。君達も祝勝会の準備に参加してもらうから。」
全員が項垂れている。捕虜と竜人族の男達が広場にテーブルや椅子を用意する。当然足りないので、森で木を伐り、即席のテーブルと椅子を作る。キャンプファイアーのように広場の中央には大きな木の櫓が積み上げられていた。女性達は一生懸命に料理を作っている。そこでオレは市場で買った食材を惜しげもなく、空間収納から取り出した。
「ケン様。これは家畜の飼料ではありませんか?」
「見ててください。」
大きな鍋を利用して、オレはご飯を炊いた。そして、大きな実を粒状にして胡椒を作り、塩と一緒に焼いている肉に振りかけた。そしてすべての用意が整った。今、オレとミレイとミサキとローザが正面に立っている。司会はダンテのようだ。前の方には竜人族が立ち、その遥か後ろに帝国の捕虜達が座り込んでいた。
「この戦いはケン様がいたから勝てたのだ。みんな、ケン様に感謝しようぞ!」
「オオ————————!!!」
そして、オレは壇上に立った。敢えて少し魔力を解放する。すると、オレの身体から神々しい光が出始めた。竜人族も帝国の捕虜達も全員が驚いている。
「オレはこの戦いに勝ったとは思っていない。そもそも、人族も竜人族も、ここにいるミレイやローザのような獣人族もエルフ族もみな等しく神によって創造されたんだ。みんな兄弟なんだ。兄弟同士で殺し合いをしたら、親はどう思うだろうか。オレなら悲しいな。ここにいる竜人族と人族が力を合わせてこの里を復興し、この里を世界の模範にしたいんだ。正直、オレは帝国兵の諸君を殺すこともできた。でも、彼らにも親や兄弟がいるんだ。悲しむ存在がいるんだ。それは、竜人族も同じさ。オレはこの世界を戦争のない世界にしたいんだ。ルミエル伯爵! オレは間違えているだろうか?」
すると、帝国兵がみな泣き始めた。そして、ルミエル伯爵が立ち上がり、泣きながら大声で言った。
「竜人族の皆さん。申し訳ありませんでした。我らはすでに帝国の人間ではありません。皆さんに許していただけるように、精一杯お手伝いさせていただきます。」
すると、ルミエル伯爵の首の輪が眩しく光り、『パーン』と音を立てながら光の粒子となって消えた。帝国兵もルミエル伯爵も驚いている。
「ルミエル伯爵。あなたは正義の心を取り戻したんだ。許されたんですよ。その気持ちを忘れずに、みんなで平和な街を作りましょう。」
「オオ———————!!!」
その後、竜人族達と元帝国兵達が同じテーブルで食事をした。当然、オレとミレイとミサキ、ローザは果実水だ。ダンテとルミエルがオレ達のところにやってきた。
「ケン様。しつこいようですが、あなたは何者なんですか?」
すると、近くにいたローザが答えた。
「ケン兄は記憶がないから、聞いても答えられないよ。ねっ! ケン兄!」
「そうなんだよね。でも、人族だとは思うんだけど、最近自信なくしてるかな~。」
すると、その場に笑いが起きた。竜人族達も帝国兵達も過去のしがらみを忘れて、宴会を楽しんでいる。すると、ルミエルさんが教えてくれた。
「ケン殿。帝国も昔はこんなふうに人々が楽しく暮らす国だったんです。ですが、20年ほど前に先代の皇帝がなくなって、今のブルータス様が皇帝になられてから軍事国家に変わってしまったんです。すべてが実力主義の階級社会になったんです。」
「あの武器は誰が考え出したの?」
「ブルータス様がご自身で考えたんです。」
「ブルータス皇帝ってどんな人?」
「はい。統治者であり、研究者であり、武人でもあります。それに、すべての属性魔法が使えます。まるで、神のような存在です。」
ここで、酒を飲んだのか、酔っぱらったミサキが聞いてきた。
「ひっく、ケンとどっちがちゅよい?」
「わかりません。ケン殿の金属を溶かす雨の魔法。それにあの演説の時の神々しい光を見ると、今まで神のような存在と思っていたブルータス皇帝がそれほどにも見えなくなります。」
「ちょう。ルミチェルは見どころがありまちゅね。」
「ミサキ。お前酒飲んだだろ? ダメだから!」
「もう、おちょいでちゅ。ひっく。」
隣を見るとミレイもローザも酒に酔ったらしく、目を回して寝ていた。
「ダンテさん。オレ達そろそろ失礼します。明日また来ますから。」
「どうやって帰るんですか?」
「ああ、オレのうちすぐ近くなんで。」
「えっ?!」
ダンテは2日かかってここまでオレ達を連れてきた。オレ達の家が近いはずがないと思っている。オレは亜空間のドアを出して、亜空間の中に3人を運んだ。
「じゃあ、また明日!」
何が起こったのかわからないダンテとルミエルは、大きな口を開けたまま固まってしまった。
「ケン様。貴方は一体・・・・」
「あの方はこの世界の救世主なのかもしれませんね。ダンテ殿。」
その頃、オレはミレイとローザとミサキをベッドに寝かせた後、ソファーで一人ゆっくりと寝た。




