第11話 オムライス 前編
センパイ達との飲み会から三日後の夕方…俺は自宅のソファに寝そべっていた。
「はぁ。」
あの日、コーハイから言われた言葉が頭に巡る。
飲み会以降、水国さんとも連絡も会うことなかったため余計に彼女との関係性について悩んでいた。
「…いや、もう…どうしたいかはわかっているんだ。」
コーハイが言った「シゲ先輩はこれから水国先輩と、どう過ごしたいか…。」…この言葉の答え自体はもう出ている。
しかし、この答えは…水国さんにとって、恐らく不義理なものだ…。
下手すれば彼女に嫌われ、この関係性が終わってしまう。
そう…なんとも情けない話だが、俺は彼女がいなくなってしまうのが怖いのだ…。
「でも…言わなくちゃいけないんだよな。」
遅かれ早かれ決着をつけなくてはならない。
問題なのは、いつ話すかなんだが…
俺が悩んでいると、突然スマホに通知が鳴った。
「…!?水国さん!?」
通知に驚き。スマホを覗くと水国さんからのLIBONが届いていた。
俺は慌ててアプリを開くと、たった一言で『日本酒』と書かれていた。
「…くっ。くく…あ〜はっはっはっ!」
この少し懐かしくシンプルな内容に、思わず大笑いしてしまった。
そうだ。何も深く考える必要なんてなかったんだ。
俺が望んでいるのは…ただ彼女と一緒に居たい…それだけだ…。
そのためなら…恥でも何でも、しっかり味わってやる。
「水国さんがわざわざ連絡してくれたんだ。手によりをかけないとな。」
俺はさっきまでの憂鬱な気分から一転、軽い足取りで台所へ向かう。
「さて、何を作ろうか…。」
冷蔵庫を見ると、鶏肉と玉ねぎ…卵数個があった。
「このラインナップなら親子丼か…?」
親子丼なら和食の定番でもあるし、間違いなく日本酒と合うだろう…が、何となく親子丼を食べる気は起きないんだよなぁ。
「ちょっと検索してみるか。」
俺は日本酒と合うメニューをスマホで検索する。
しばらく探していると、気になる記事を見つけた。
「オムライス…?」
その記事にはオムライスが意外に日本酒と合うと書かれていた。とろとろふわふわな卵が爽快な日本酒と合うのだそうだ。
「せっかくだし、オムライスにするか。」
材料もあるし、丁度いいだろう。
そう思った俺は早速、チキンライス用の米を研ぎ炊飯器に入れてスイッチを押した。
「これで米は終わりだな。次は玉ねぎでも切るか。」
まな板と包丁を取り出して、次に玉ねぎを洗って準備を終える。
玉ねぎを半分に切った後、その半分をみじん切りにする。もう半分スライスして冷凍すれば十分に保存できる。
「次は鶏肉だな。」
一旦、まな板を洗った後、鶏肉を並べできる限り小さめに切る。小さめにした方が後に卵を巻く際に巻きやすくなるので、そっちの方がオススメだ。
「よし、炒めるか。」
フライパンの中に鶏肉を入れ、いつもの要領で弱火で焼く。
両面に焼色をつけたら、玉ねぎを投入しじっくり炒めていく。
ある程度、炒め終わったらケチャップを入れて煮詰める。
こうするとケチャップの甘みが増し、水分を飛ばすことでチキンライスがベチャベチャになりにくくなるのだ。
ちなみにケチャップの量はお好みだが、後にケチャップをかけることを考えるとバター多めにしてケチャップはそこまで入れなくても良いかもしれない。
「あ、米炊き終わったな。」
しばらくケチャップを煮詰めていると、炊飯器の音が鳴る。
炊飯器の蓋を開けると、俺はご飯二杯分の量をフライパンに入れた。
「よし、後は炒めるだけだな。あ、その前に」
酒を取り出し大さじ一杯ほどご飯に入れ、ほぐしていく。これは酒の水分と具材の水分でご飯の粘着性を弱める効果があるのだとか。
その後、溶かしたバターをかけ回し、絡ませてパラパラになるまで炒め、コンソメや塩胡椒で調味したらチキンライスの完成だ。
「ここからが本番だな。」
そう。ここからがオムライスにおいて一番難しいといって良い工程だ。
俺はあらかじめ出しておいた卵を割り、塩を入れ菜箸でかき混ぜていく。
ちなみに箸で卵を混ぜるのが苦手な人は円を書くようにではなく、左右に切るように混ぜると良い感じに出来るぞ。
「さて…やるか。」
別のフライパンを取り出して油を塗り、強火で熱する。
フライパンが温まったら、バターを投入して溶け切る寸前になったら卵液を投入して一気にかき混ぜる。
半熟くらいになったなら火を止めて30秒ほど放置して、熱を通しライスを乗せる。
「はぁ…。ここが一番緊張するんだよな…。」
フライパンの端をVの字になるように皿につけ、フライパンを傾ける。
こうすると遠心力で綺麗に巻けるのだが…
「あっ」
久しぶりにやるからか、巻きが甘いオムライスになってしまった。
俺はため息をついて、ラップを取り出すとラップをオムライスにかけ手で整形した。
ある程度の失敗はこれでリカバリー出来る。
俺は巻いたオムライスこそ何よりも好きなのだ。
「よし、これで良いな。後は水国さんの分か。」
俺は先程の工程をもう一度繰り返す。
一回巻いたからか今回はちゃんと綺麗に巻けた。
「良かった…。何とかできた。」
だが、まだ完成はしてない。
俺はオムライスにケチャップをかけていく。オムライスの角の部分にかけるとケチャップが下に垂れて良い感じの見た目になるのだ。
後はお好みでパセリをかけて完成だ。
◇
オムライスや他の器をテーブルまで持って行き、並べる。
その器に今日の晩ごはん用として買っておいたサラダを盛り付けて終わりだ。
準備を終えると、俺はそのことをLIBONで水国さんに連絡した。
もう少し時間がかかると思ったものが、連絡して直ぐにインターホンが鳴った。
「は…早いな。」
俺は少し驚きつつ、ドアを開けるとレジ袋を持った水国さんがいた。
「…こんばんわ。」
正直、少し緊張している。
今日告白するべき…ということだろうか…。
俺はそんな思いを隠しつつ返事する。
「いらっしゃい。もう出来てるぞ。」
俺がそう言うと彼女はペコリと頭を下げながら「…お邪魔します」と言って中に入った。
テーブルまで案内し、二人で座った。
彼女は少しキョロキョロと落ち着きのない挙動をしながらもテーブルにある皿を見た。
「…美味しそうですね。」
水国さんは料理を見て、微笑みながら呟く。
彼女がそう言うと、少し頬が熱くなった。
「ありがとうな。そう言ってもらえると嬉しいよ。…それじゃあ食べるか。」
「…そうですね。あ、その前にお酒注ぎませんか?」
彼女は持ってきた袋から酒瓶を取り出す。
「あ、そうだな。グラス持ってくるよ。」
俺は台所まで戻り、棚からグラスを持ってくる。
水国さんは酒瓶の蓋を開け、グラスに酒を注いだ。
「ありがとうな。」
俺がお礼をで言うと彼女は俯きながら「…いいえ」と言った。
「これで酒も大丈夫だし食べるか。冷めてしまうだろうしな。」
「…はい。」
俺達は手を合わせて、いつも通り「いただきます」をした。
俺達は早速、グラスを傾ける。
酒が口に入ると日本酒の爽やかな香りと鼻の奥を突き抜けるような辛味が口の中に広がった。
彼女の要素を見ると俯きながら良く味わっていた。
しばらくすると飲み終えたのか恍惚とした表情を見せる。
思わず俺はそんな彼女の顔にドキッとしてしまった。
「ふぅ…あ〜美味しい…。」
その、いつもとは違う静かな声に少し違和感を覚えるも、突然彼女が元気になり、
「さぁ…それではメインを食べましょうか!!」
と言った。
いつも通りの彼女だとわかった俺は思わず吹き出してしまう。
そんな俺の様子に気づいたのかジト目で
「…どうしました?」
と聞いてくる。
俺は慌てて誤魔化した。
「いや、何でもない。」
彼女は疑うような目で見ながらも「まぁ良いです。」と言ってオムライスを口に運んだ。
しばらく咀嚼していると、彼女は目を瞑りながら顔を上げ叫ぶ。
「はぁ〜…最っ高です!!」
今までにないパターンの感想に驚きながらも喜んでくれたようで、頬が緩んでしまう。
そんな俺に構わず、彼女は感想を言い続ける。
「このトロっとした玉子は勿論、バター風味の強いチキンライスが美味しいですね!優しい味で食べやすいです!」
彼女はそう言って再びオムライスを食べる。
「う〜ん!ケチャップをつけて食べると元々の優しい味から一転、トマトの風味が強いパンチのある味になりました!どの味もたまりません!!」
彼女はそう言って俺に笑顔を向ける。
そんな風に言ってもらえると喜びのせいなのか彼女の笑顔のせいなのか、このオムライスがより美味く感じた。
「さて!お酒も飲まなくちゃですね!」
彼女はグラスを手に取りグイッと飲む。
「はぁぁぁぁ…。この深い香りと飽きを感じさせない辛味こそ日本酒が美味しい理由ですねぇ。高橋さんもそう思いません?」
「そうだな。この酒、辛い割りには飲みやすくてゴクゴク飲める。…正直かなり美味い。」
俺がそう言うと彼女は満足気に「エヘヘ〜」と頬を掻きながら笑う。
「そう言ってくれると私も嬉しいですねぇ。」
彼女はそう言うとオムライスと酒を交互に口に入れた。
しばらく彼女が味わっていると驚きの表情を見せる。
「オムライスと日本酒って、こんなに合うんですね…。玉子のふんわりとした甘みと優しいチキンライスのおかげで、辛味を抑えつつ爽やかな日本酒の香りがより感じられます…。」
今までで最高レベルの食レポに舌を巻きつつ、俺もオムライスを食べて酒を飲む。
「確かに…。玉子と日本酒は定番だが、こんなに合うなんて…想像以上だ。」
「トマトケチャップには日本酒が中和してくれて塩辛さが薄まりますし、断然食べやすくなりますね!これはお酒が進みます!!」
彼女はそう言って酒を飲む。
俺はその光景を見て、微笑みつつオムライスを食べる。
こうして、この楽しい夜が更けていった。
こんにちわ味噌漬けです。今回はリクエストにあったオムライスをメインにしました。オムライスといえば最近ではオムレツを乗せるタイプが有名ですが、私は生粋の包む派ですので今回は包むタイプのオムライスにしました笑 ですが、フライパンをとんとんして包むのは難しいんですよね。というわけで少し簡単な包み方で作りました。それでも、それなりに練習は入りますけどね…。
今回は読んでくださってありがとうございます。ご感想やご意見、料理のリクエストなどコメントで書いてくださると嬉しいです。




