470 厄介兄貴が現れた! (1)
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さすがは一国の首都、アルシェグリムの大通りは活況を呈していた。
クレヴィリーほどの騒がしさはないが、とにかく店の数が多くてバリエーションも豊か。
珍しい物を売る店も多く、俺たちでも興味を惹かれるのだからメアリたちは言うまでもない。
それでもメアリの方は時折遅れそうになるだけだが、きょろきょろと落ち着きのないミーティアの手は俺がしっかり確保、迷子にならないように目を離せない状態である。
「丘の上からも見えたと思うが、王都は壁で仕切られた二重構造になっていてな。内区と外区に分かれている。この大通りを真っ直ぐに進めば、内区に入るための門があるんだ」
「ふ~ん。内区と外区に違いはあるの?」
「内区は貴族の屋敷や高級店が多くて治安も良い。外区はその反対で、平民が多く賑やかな傾向にある。壁が二重になるのでより安全なのも内区だな――今まで王都に敵が侵入した例はないが」
マーモント侯爵家の屋敷があるのは当然のように内区で、冒険者ギルドがあるのは外区の方。
庶民が気軽に入れる店も外区に多いので、俺たちの主な活動場所は外区になるだろう。
「行き来は自由なのか? 毎回止められるようだと、ちょっと面倒なんだが……」
「明らかに怪しい人物や物乞いは内区に入れないが、身形がまともなら大丈夫だぞ。何回か通れば顔を覚えられるし、冒険で多少汚れていても怪しまれることはないだろうな」
階級で分けられているわけではなく、町を外に拡張した結果、古くからある貴族の屋敷は中心部の内区に残り、増えた人口は新たにできた外区に住んでいるというのが歴史的な経緯である。
なので、平民でも内区には入れるのだが、普段の生活が外区で完結する上に、貴族との余計なトラブルを避ける意味でも、用事のない平民が内区に来ることはほとんどないらしい。
「汚れについては、『浄化』があるから大丈夫だけど……」
「ま、何かあればマーモント侯爵家の名前を出せば良い。ほら、あそこが内区に入る門だ」
その門は俺たちが最初に通った門に比べると、一回りほど小さかった。
町がまだ小さかった頃の名残か、壁も少し低いが、それもまた歴史が感じられて良い感じ。
そんな門の左右に立って警備をしているのは、鎧を身に着けた数人の兵士たち。
門を向けようとする俺たちをじっと注視してくるものの、自由に出入りできるというのは本当のようで、特に止めようとすることも、声をかけてくることもなかった。
「…………ふゅぅ~。ちょっぴり、緊張したの!」
息を詰め、俺の手を少し強く握っていたミーティアが、門から離れて大きく息を吐く。
王都の門を守る兵士だけに、決して粗暴な感じはしないのだが、大柄で鍛えられた体躯は威圧感があり、ミーティアのように小さな子供からすれば上から見下ろされるようなもの。
何ら疚しいところがなかったとしても、緊張してしまうのは仕方ないだろう。
「はははっ、ミーティアを怪しむ門番はいないさ。せいぜい迷子の心配はされるぐらいだな」
「むむっ、ミーはもう大人――じゃ、ないけどっ、迷子になったりはしないの!」
大人と主張しないあたりが逆説的に大人である――まだ子供なのに。
「ミーったら。変な意地は張らないの。初めて来たんだから、お姉ちゃんだって道に迷うかもしれないんだよ? もし迷ったら、素直に兵士さんに訊ねること。良い?」
「もちろん解ってるの。しろーとが焦ると、状況は悪化しかしないの!」
何の素人かは知らないが、ミーティアは『ふすんっ』と鼻息も荒く胸を張った。
そんなミーティアの姿にリアは目を細め、微笑みながら頷く。
「そうだな。少なくとも内区の兵士なら、ウチの名前を出せば案内してくれる。だが、大通りから外れなければ、迷子になることもないと思うぞ? あそこを見ろ。あれがウチの屋敷だ」
「どれ…………おぉ……」
「す、すげぇな……」
リアが指さしたその屋敷は、大通り沿いにあった。
王城のすぐ近く、走れば数分で着くような一等地に立派な門構え。
敷地も非常に広く、王都内にあるにも拘わらずネーナス子爵の屋敷よりも大きく見える。
また、周辺を見回しても同等の大きさを持つ屋敷、及び敷地はほとんどなく、この国に於けるマーモント侯爵家が占める地位の高さが如実に表されていた。
「これはまた……随分と立派ですね」
ナツキが少し驚いたように漏らすが、リアは若干面倒臭そうなため息を吐く。
「あぁ、無駄にな。ここまでの屋敷を必要とする機会は、実際にはほとんどないんだが……。しっかり活用されるのは、派閥の者を集めてパーティーをするときぐらいだな」
「パーティーか。俺とハルカはダイアス男爵の披露宴に参加したが、楽しめそうにはなかったな」
「それはそうだろうな。内輪で開催するものを除けば、貴族のパーティーなど一種の戦いだ。楽しむことなどできはしない。――まぁ、父上ほど傍若無人に振る舞えるなら話は別だが」
「へー、やっぱそんな感じなんだな。大変だなぁ」
どこか他人事のトーヤに、リアは再びため息をついて呆れ混じりの視線を向けた。
「一応言っておくが、私と結婚したらトーヤも呼ばれるからな?」
「……あ。そ、そうだった」
「もちろん、トーヤが私との結婚を諦めるなら話は別だが?」
揶揄するように、しかしどこか遠慮がちにそんなことを言うリアだが――。
「そんなワケねぇ! 戦いなら望むところだ。リアの敵はオレが薙ぎ倒してやるっ」
「いや、パーティーで薙ぎ倒されても困るのだが……。あ、ありがとう」
威勢の良いトーヤの言葉と、頬を染めるリア。
見つめ合った二人の距離は、ゆっくりと近付いていく。
俺たちは息を呑んで――今回はユキも大人しく見守っていたのだが。
「ほぇ~~~」
残念。素直なミーティアが声を漏らしてしまい、二人はハッとして距離を空けた。
「こ、こほん。そういうわけだから、トーヤ、頑張ってくれっ」
リアは恥ずかしさを誤魔化すように、咳払いを一つ。
トーヤの背中をパンッと叩いて門に向かった。
「……続けても良かったんだぞ?」
「できるかっ! 良いからさっさと行け!」
中途半端に終わった腹いせか、トーヤが俺の背中を強く押す。
そんなトーヤに肩を竦めてリアに近付くと、彼女はちょうど門番に声をかけたところだった。
「アルトリアお嬢様、お帰りなさいませ」
「うん、ただいま。門を開けてくれ」
「……かしこまりました」
俺たちを一瞥しつつも、何も言わずに門を開けた門番の隣を通って敷地の中へ。
そして目に入った光景に、俺たちは思わず感嘆の息を漏らした。
「うわ~、貴族のお屋敷だねー」
そんな当然のことを言ったのはユキだったが、その気持ちはよく理解できた。
門から真っ直ぐ続くのは、手入れの行き届いた綺麗な並木道。その道は馬車も悠々と通れそうな幅があり、並木の間からは庭園も見え隠れ。道の先には噴水らしき物まで存在している。
ウチのような家庭菜園など当然あるはずもなく、以前訪れたネーナス子爵の屋敷と比べても数段上。『貴族のお屋敷』と聞いてイメージするような、正統派のお屋敷がそこにあった。
マーモント侯爵家のお屋敷はヴァルム・グレでも見たが、あそこを防衛も考えた実用的な屋敷とするならば、こちらは完全に見栄え優先。社交用のお屋敷と言ったところだろうか。
「なぁ、トーヤ。お前はこんなお屋敷のお嬢様と結婚するわけだが……大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ、問題ない。――婿入りじゃないし?」
グッと親指を立てるトーヤだが、微妙に震える指先に動揺が見える。
現代で生まれ育ったこともあり、普段は身分というものをあまり意識しない俺たちだが、この屋敷の存在が、解りやすくこの国に於ける侯爵家の『重さ』を感じさせる。
見方によっては逆玉の輿だが、現実になると嬉しさより気後れの方が先に立つよなぁ……。
加えてトーヤには、直近で乗り越えないといけない試練がいくつかあるワケで。
俺としては『ガンバレ』と応援することしかできない。
「リア――っ!!」
あぁ、早速か。









