469 王都到着 (3)
4月3日は「異世界転移、地雷付き。」14巻の発売日です。
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「細々とは……ないわね」
「はい。今の生活レベルは維持したいですし、それには冒険者活動が必須です」
「ナオとあたしたちで四人、メアリたちを養子にしたら六人、子供ができたら一〇人以上。金貨一〇〇〇枚って多いようだけど、全然足りないよー」
……いつの間にやら、ユキの大家族計画が進行しているが、それはともかく。
美味しい料理に新品の服、毎日でも入れる風呂。一時期を除いて、元の世界と同水準の生活を維持してきた俺たちが、今更それを捨てられるかと言えば、絶対に不可能である。
「多少目立つことになろうとも、冒険者を続けるのは必須だな」
「それはオレも同じだな。冒険者活動自体、結構楽しいし。貴族のことについては――」
「そのあたりは私の役目だろう。まぁ、マーモント侯爵家の縁戚になれば、妙な手出しをしてくる者はそうはいないと思うが。高ランクの冒険者ともなれば、余計にな」
「お~、さすがリア、助かる!」
「ふふっ、そうだろう? ま、実家頼りなのは、ちょっと情けないが」
トーヤに褒められて、リアが機嫌良さそうに尻尾を揺らす。
だが実際、頼れる身内がいない俺たちに、侯爵家との繋がりは非常に大きい。
奥義修得の手伝いは少し大変だったが、それだけの価値は十分にあったということだろう。
それがなかったとしても、親友が幸せになってくれるのは俺としても嬉しいことだし。
「ただ、早々に王都から出るというのは、私も賛成だ。無事に叙爵されたならヴァルム・グレで、そ、その……私たちの、こ、婚礼もあるんだからなっ!」
「お、おぅ……、そ、そうだなっ」
少し口ごもりつつ、そんなことを言ったリアに、トーヤも恥ずかしそうに応じる。
そして二人は顔を赤らめたまま見つめ合うが――俺たちの視線に気付いてすぐに顔を背ける。
「トーヤ、イチャつくな、とは言わないが、場所が選べ? な?」
俺が肩に手を置くと、トーヤは顔を隠すように自分の額をパシンッと叩く。
「くっ、お前に指摘されるとは、このトーヤ、一生の不覚っ!」
「どういう意味だ、こら!」
「どういう意味も何も、お前とハルカは場所を選ばずイチャついているだろうが」
「は? いやいや、まさか。そんなことはないだろ? なぁ、ハルカ?」
「そうね。私たちは別にイチャついてないわね」
トーヤの意味不明な発言。ハルカもまた当然と否定したのだが――。
「そう思っているのはお前らだけだ。あまりに自然にやっているだけで」
「仲が良いのは、とても良いことだと思うぞ、私としては」
「もう慣れましたね。あまり気になりませんよ?」
「今更だよね~。むしろあたしにも構え!」
賛同が得られなかった。解せぬ。
そしてユキはニヤニヤ笑いながら、俺の脇腹をつんつんと突いてくる。
「そんな当たり前のことよりもさ~。ナオ、婚礼だって。結婚式だよ? 結婚式」
「リアは公爵家のご令嬢だからな。お披露目という意味でも、当然必要だろうな」
俺が真面目な顔で『うむ』と頷くと、ユキは呆れたように手をパタパタと振った。
「いやいや、貴族じゃなくても結婚式は重要だよ? メアリやミーティアだって憧れるよね?」
「えっと、結婚式をするのは普通、貴族かお金持ちぐらいなので……」
「うん、ミーもよく解らないの。でも、イリアス様やハルカお姉ちゃんは綺麗だったの!」
姉妹でシンクロするように、小首を傾げた二人の反応は微妙。
ユキは「そうだった……」と目を泳がせるが、すぐに気を取り直して続ける。
「二人が知っている結婚式はあれぐらいか~。それじゃ想像つかないよね。ちなみにね、ミーティア。結婚式に後には披露宴っていう、美味しい料理が出るパーティーが――」
「結婚式はやるべきなのっ!」
被せ気味に全身で頷くミーティア。しかし――。
「……いや、ユキ。それはなんか違うだろ?」
「うん、だよね。でもでも、ナツキなら同意してくれるよね?」
その問いにナツキは俺とユキ、そしてハルカの顔を見て、少し考えてから頷く。
「形式は様々でしょうが、神様やお世話になって人たちに結婚を報告し、決意を新たにするための儀式が結婚式です。幸せも実感できると思いますし、やはり必要では?」
「報告か。なるほど、そういう側面もあるよな、確かに」
リアとトーヤがやるであろう結婚式が、正にそれ。
派閥の人たちへの周知と顔見せ、人脈作りという意味でも重要な行為。
幼いイリアス様を名代にしてまで、ネーナス子爵がダイアス男爵の結婚式に参加したのも、貴族としてそれ必要だったからだろう――そういうのが嫌だから、俺は貴族になりたくないのだが。
「ハルカはどうだ? 結婚式は挙げたいか?」
一番重要なのは、やはりパートナーの意思。
どうしたいかと尋ねてみると、ハルカは迷うように視線を少し斜め上に向けた。
「私は別に…………余裕ができてからで良いわよ」
「そうか。なら、色々落ち着いてから――」
「は!? 違う、違うよ、ナオ!! ハルカが言いたいのは『すぐにでも結婚式は挙げたいし、綺麗なウェディングドレスにも憧れる。でも、私はナオの迷惑になりたくないから我が儘は言わない。ナオがその気になるまで健気にずっと待っているから』だよ? 解ってる? ねぇ? ねぇ!」
「お、おう……」
あ、圧が。ユキの圧が強い!
怯んだ俺がハルカにちらりと視線を向けると同時に、ユキもギンッとハルカを見る。
「だよねっ! ハルカ!」
「そ、そこまでは思ってないけど……」
「ほら、ハルカも『当然のことを訊くな』だって!」
ユキの通訳が個性的である――微妙に捏造も混じっている気もするが。
だが『そこまで』ということは、ある程度思っているのは間違いないのだろう。
そうなると、俺としても真剣に考える必要があるわけで……。
「結婚式と披露宴か……」
当然ながら、相応の資金がなければ実行は不可能だ。
神殿で式を挙げるならお布施は必須だろうし、ウェディングドレスを作るにも、披露宴で料理を振る舞うにもコストは掛かる。更にお色直しや引き出物、式の内容次第で青天井だろう。
ついでに問題になりそうなのは、結婚指輪。
俺がハルカに渡した婚約指輪はミスリルを使用した高価な物。それよりも高いものが必要と言われるとマジでシャレにならない金が掛かるので、そこはハルカと相談したいところである。
俺としては二つも指輪は要らないのだが、ハルカの気持ちが優先だからな。
――と、言いたいところだが、ユキとナツキのこともあるわけで。
二人への婚約指輪、ハルカも含めて三人への結婚指輪。
俺の物もペアで買うとなると、比較的節約している俺でも厳しい――というか、無理じゃね?
これ、マジで話し合った方が良いな。本気で人生設計に影響しかねない金額だし。
あとは、どこで結婚式をやるか、だが――。
「……やるとすれば、ラファンに帰ったときか?」
一番お世話になっているのはアドヴァストリス様であり、あそこの神殿である。
結婚の報告をするのに、あそこ以上の場所はないだろう。
だがネックは、交渉相手があのやり手のイシュカさんということ。そんなものがあるのかは知らないが、“盛り盛りフルコース・ウェディングプラン”とか提案してきそうでちょっと怖い。
などと、俺が考え込んでいると、上品に笑ったナツキがハルカの顔を覗き込む。
「良かったですね、ハルカ。ちゃんと考えてくれているみたいですよ?」
「う……。そ、それよりも、早く宿を探しましょ。埋まってしまったら大変よ。安全で綺麗なところが良いけど、大通り沿いは高そうよね。リアはどこか良い宿を知らない?」
頬を染めたハルカが話を逸らすように水を向けると、リアは不思議そうに小首を傾げる。
「生憎、私が王都で宿に泊まることはないからなぁ。だが、別に宿を取る必要はないだろう? ウチの屋敷は十分に広い。お前たちが全員来ても十分に泊まれるぞ?」
「良いのか? トーヤはまだしも、俺たちが泊まっても」
「当たり前だ。パーティーメンバーをのけ者にするほど、私は狭量じゃないぞ」
どれぐらい滞在することになるか判らないことを考えると、ありがたい提案ではある。
だが当然ながら、提案を受け入れる利点もあれば欠点もあるワケで。
俺たちは額を合わせてコソコソと相談する。
「(……どう思う?)」
「(宿代は浮くけど、あたしとしてはちょっと気疲れしそうかも?)」
「(はい。折角の王都、頻繁に外出すると思いますが、どうしても他人の家だと……)」
「(きっと、面倒事というオプションもあるわよ。リアを溺愛する兄と弟がいるんでしょ?)」
「「「(あ~)」」」
揃って声を上げた俺たちは顔を見合わせてコクリと頷き、リアに向き直る。
「リア、俺たちは宿を取るから、マーモント侯爵家の屋敷にはトーヤだけで――」
「いやぁ、助かるぜ! ありがとう、リア!」
当然のように謝絶しようとした俺の言葉を遮り、トーヤがリアにニカッと笑みを向ける。
そして、強引に俺と肩を組んでくると、笑みを貼り付けたまま低い声で続ける。
「――おい、親友。まさかオレのことを見捨てたりはしないよな?」
「……その親友、最近は面倒事しか持ってこないんだが、そのへんはどう思う?」
「その親友はきっと、退屈しない充実した毎日をサポートしているんだ」
「確かに退屈はしないが……。サプリメントの胡散臭い宣伝文句かよ」
俺が『仕方ないな』とため息をつくと、リアは苦笑して獣耳をプルルッと動かす。
「ハハ……。気持ちは解るが、先に上下関係を明確にしておいた方が、後々面倒はないぞ?」
「あ~、聞こえていたか」
「まぁな。それなりに耳は良いんだ。だが宿を取ったところで、私の婚約を知ったオルスク兄上やルシアンはそちらに突撃するだろうな。兄上が言っていた通り、ほぼ確実に」
やっぱり、そうなるよなぁ……。
本筋を言うならば、これはトーヤの問題、トーヤ自身で対処すべきだろう。
だが、俺の肩に回された腕は『放すものか!』と力強く、離脱するのは難しそうだ。
「リアとしては、それで良いのか? たぶん、流血沙汰だぞ?」
「父上も『良い機会だ。しっかり鼻っ柱を折ってもらえ』と言っていたし、治る範囲の怪我なら全然問題ない。屋敷では自由に過ごしてくれて良いし、出入りも宿より楽だと思うぞ?」
自分を慕う兄と弟のことなのに、リアは平然とした顔で肩を竦める。
さすがは、武を重んじるマーモント侯爵家ということか。
「ま、手合わせをするのはトーヤになるんだし、別に良いんじゃない?」
「うんうん。堅苦しさを求められないなら、あたしも別に。お金は節約したいし」
「……それもそうだな。それじゃ、リア、泊めてくれるか? 迷惑じゃないのなら」
「お前たちが迷惑なものか。こっちだ、付いてきてくれ!」
リアはどこか嬉しそうに笑い、俺たちを先導して歩き出した。









