467 王都到着 (1)
お久しぶりです。お待たせして申し訳ありません。
書籍の作業などが忙しくて書けていませんでしたが、ボチボチ更新を再開していきたいと思います。
なお、Web版と書籍版では内容が一部(けっこう?)異なるのですが、以降に関しては違和感の少ない部分については、書籍版の設定を採用している部分もあります。ご了承ください。
(すべて書き分けるのが大変すぎて……。すみません)
俺たちの主な移動手段は徒歩である。
大半の時間は走っているような気もするが、それも広い意味では徒歩。
一般的な馬車を利用しない一番の理由は、運用する手間やコストを考えてのことだが、現実として馬車を利用するよりも、徒歩の方が早く移動できるということもまた大きい。
加えて、馬車が通れない場所も人ならば関係ない、という汎用性の高さも徒歩の利点である。
一応、馬車があれば荷物を多く運べるというメリットはあるが、マジックバッグがある俺たちには関係がないことだし、野宿のときにテント代わりに使えるという点も、他のデメリットを帳消しにできるほどではなく、これまで馬を購入を本格的に検討することはなかった。
だが、侯爵令嬢であるリアが一緒に行動するとなると、それも変えるべきかもしれない。
そう思って、尋ねてみたのだが――。
「ほぅ、徒歩での移動。なるほど、ナオたちはそうやって日々鍛えているのだな」
「そういうわけじゃない――とも、言えないか。普段は毎朝の訓練前に走り込みをしているし」
「もちろん私もそれで問題ないぞ。今までは守られて移動していたが、これからは襲撃への警戒も、野営の準備も自分たちでやることになるのだな。なかなかに新鮮だ!」
さすがはあのマーモント侯爵の娘、思った以上に反応が良いな?
現実を知らないだけかもしれないが、やる気があるだけでもありがたい。
「それじゃ、別に馬車を買う必要はないか?」
「もちろんだ。私は入れてもらう立場だからな。ナオたちに合わせる」
「そう。受け入れてくれて助かるわ。やっぱり最後に頼りになるのは自分の足だから」
「うんうん。あたしたちはいざとなったら魔物からも逃げるからね。その点、リアは大丈夫?」
リアはサルスハート流を背負って立つ剣士でもある。冒険者である俺たちとは少し立場が違うだけに『敵に背を向けるなんて、士道不覚悟!』とか言われるとちょっと困る。
そんな懸念があったのだが、リアはむしろ不思議そうに小首を傾げた。
「ん? 勝てなければ逃げる。自分たちの命を最優先にするのは当然だと思うぞ? 騎士団なら社会的に逃げられない状況もあると思うが、冒険者は違うんだしな」
「そう言ってくれると助かる。『命大事に』が俺たちの基本方針だから」
馬よりも速く走ることができれば、大抵の魔物からは逃げ切れる。
逃げ道を塞がれないように気を付ける必要はあるが、俺たちの【索敵】を潜り抜けて包囲を完成させるのは簡単なことではなく、現実的にはそこまでリスクは高くないだろう。
問題となるのは、どれぐらいの距離を速度を維持して走り続けられるか。
持久力が足りなければ、多少速く走れたところで意味はない。
「リアは走るのが得意な方か? 俺たち、移動中はかなりの時間、走ってるんだが」
「ふっ。これでも私は狼の獣人だぞ? 得意に決まっている」
俺の懸念に、リアは『ふふ~ん』と顎を上げて豊かな胸をポンと叩いた。
「それにミーティアだって走るのだろう? 私が付いていけないことなどあるものか」
◇ ◇ ◇
王都アルシェグリム。
その近郊にある小高い丘から、俺たちは町を見下ろしていた。
これまで見てきたどの町よりも広い面積と、それを囲む高く分厚い防壁。
それに加え、町の中心部を守るように高い壁がもう一層存在するが、それは防衛のためか、それとも町を拡張した痕跡か。理由は不明ながら、ここから見る限りはしっかりとした壁に見える。
そして、その内側の壁の中心部分にあるのが王城。
いか、形状からすると、王宮と言う方が正確だろうか?
周辺を囲む壁こそ見えるが、防衛戦に向いた城塞という感じではない。
「王都だけあって広いな。どのぐらい栄えているのかは……ここからじゃ判らないが」
「それなりには繁栄しているんじゃない? ほら、門の所。結構長い行列ができているもの」
「あー、確かに結構並んでるな。寂れているってことはなさそうだ」
ハルカが示す先。俺たちが走ってきた街道の終着点には、人と馬車で列が形成されていた。
それだけでも十分な人の数だが、王都は南側にも門があり、東側に隣接して流れる川には港も存在している。そこからも同じように人が入ってきているなら、人や物の流通量はそれなり以上にあるのだろう――ラファンとか、門が一つなのに待ち時間なんて存在もしなかったし。
「けど、王都に出入りする度にあれに並ぶとなると、ちょっと面倒じゃね?」
「冒険者としては大変そうだよねー。街中での仕事ならともかく、外で魔物を斃して稼ごうと思うと、待ち時間も考慮して狩りを切り上げないといけないし。住む場所としては微妙?」
「ヴァルム・グレでもそうでしたが、人が多いとお肉を狩るのは大変そうです」
ヴァルム・グレから王都まで、数日ほどかけた移動。
それは普段よりものんびりペースだったため、俺たちの間に漂う空気は緩い。
だが、そんな俺たちとは対照的に――。
「はぁ、はぁ、はぁ……。よ、ようやく着いたか……」
あの時とは別の意味で顎を上げ、息遣いが荒いのはリアである。
さすがはトーヤのパートナーと言うべきかだろうか。
フラグの回収がとても早い。
「大丈夫か? リア」
「も、問題ない、狼の獣人だからなっ。ミ、ミーティアは大丈夫か?」
「むぅん? 全然大丈夫なの。このぐらいならまだまだ走れるの」
小首を傾げ『どうして?』と言わんばかりのミーティア。
当然ながら強がりなどではまったくなく、むしろ元気いっぱい。
俺たちの隣で背伸びをしたり、ぴょんぴょんしたり、遠くに見える王都に興味津々である。
ミーティアが元々優れていたのか、それとも俺の『恩恵』の影響を受けて成長が早いのか、もしくはその両方なのか。小柄な身体と年齢に反して、ミーティアの身体能力はとても高いのだ。
そして、平然としているのはメアリも同じ。
そちらにも目を向けたリアは、若干ショックを受けたように肩を落とす。
「そ、そうか、なら良いんだ……。くっ、鍛錬不足だったか」
「長距離走は慣れもありますからね。そこまで気にしないで良いと思いますよ?」
俺たちが先を走っていたのでペースが乱れることはなかっただろうが、呼吸法やフォームなどは長距離走と短距離走、そして戦闘時の走り方とではまったく異なる。
ナツキのフォローを受けて、リアは気を取り直すように「ふぅ」と息を吐いた。
「そうだな。今後慣れていくしかないな。――あ、ちなみにだが、門の待ち時間は気にしなくて良いぞ。貴族であれば優先的には入れるからな」
「それは助かるが……問題はないのか? 貴族なのはリアだけ、しかも徒歩だが」
「はははっ、ウチは曲がりなりにも侯爵家だぞ? 言いがかりを付ける門番などいないさ」
むしろ、侯爵家のご令嬢が歩いてやってきたこと自体、疑われる要素にならないか?
そんなことを思ってユキたちの顔を窺えば、やはり微妙な表情である。
「……う~ん。取りあえず、行ってみよっか?」
「そうね。疚しいことはないし、大きな問題は起きないと思うわ。――たぶん」
「だと、良いんだけどなぁ……」
言うまでもなく、貴族を騙ることは大罪である。
俺たちの場合は騙りではないが、疑われれば面倒になることは必定。
門番からしても、侯爵家のご令嬢が馬車ではなく、徒歩で門を訪れるなんて想定外なワケで。
「ようやく、私が役に立つ場面が来たな。さあ、行くぞ! ――私の実力じゃないのがちょっと引っかかるが、私もちょっとは良いところを見せないとな」
俺たちの懸念もなんのその。さっきまでヘタっていたリアが、小声でフラグを立てながら意気揚々と歩き出し――顔を見合わせた俺たちは、肩を竦めてその後に続いた。
書籍版の第14巻が2026年4月3日に発売予定です。
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