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175 報酬は?

前回のあらすじ ------------------------------------------------------

2層目の奥で場違いな扉を見つける。他の場所も探索するが、何も無し。

扉の奥にいたのはタイラント・ピッカウだったが、外の魔物に比べれば弱い。

比較的あっさり斃すと、部屋の奥に扉が出現した。

 扉を開けたその先は、これまで居た部屋と比べて、随分と小さな部屋だった。


 10畳に満たないような横長の部屋。


 その奥には下へと続く階段が見え、その両脇に1つの宝箱と怪しげな魔法陣。


「宝箱、ありましたね」


「そうね。長い時間かけて探索したんだから、報酬がありそうなのはありがたいわね」


「ここに来てミミックとかだったら、最悪だよな」


「さすがにそれは……大丈夫じゃないか?」


 【索敵】に反応は無いが、偽装が命のミミックだけに、【索敵】では判別できない可能性はもちろんある。


 だが、この場面でミミックなんて、性格悪すぎだろ?


「取りあえず、調べてみましょう」

「だな」


 俺とナツキで調べてみるが、やはり罠の形跡は無し。


 鍵も掛かっていないようで、ちょっとした期待を胸に、俺が注意しながら開けてみると……。


「これだけ……?」


 タイラント・ピッカウの強さ的に、溢れるような金銀財宝は期待していなかったが、一抱えもありそうな宝箱の中に転がっていたのは、小さなペンダントが1つだけだった。


 金属製のチェーンに親指の爪ぐらいのペンダントトップ。薄いブルー、やや水色に近い宝石が金属の台座に固定されている。


「宝物は嬉しいが、なんかショボいなぁ。取りあえずトーヤ、【鑑定】よろしく」


「えーっと……コランダムのペンダントだと」


「コランダム?」


「サファイアの一種ですね。正確にはサファイアがコランダムの一種ですけど」


「ルビーなんかもコランダムの一種だね」


「あぁ、そういえば聞いた事あるな」


 確か、不純物の種類によって色が変わるんだっけ?


「で、高いのか?」


「値段は判らん」


「多分、それなりに高いでしょうね。だけど、このペンダントの場合、魔力が感じられるから……」


「何かの効果があるよね。判らないけど」


 トーヤの【鑑定】では、そこまで詳しい事は判らないようだ。

 やはり、この世界の【鑑定】スキルはシビアである。


「身に着けると呪われるとか?」


「可能性としてはそれもあるわね。でも、ポジティブな効果がある確率の方が高いと思うけど」


「当然、単なるアクセサリーよりも価値は高いよ? 適正レベルの冒険者なら、この1ヶ月あまりの労働に見合う以上に」


 このダンジョンの適正レベルなら、ゴブリン以上、オーク未満の敵が倒せるぐらいだろうか。


 そのぐらいの冒険者5人で、1ヶ月以上の労働と考えれば、金貨100枚あまりは稼げる?


 いや、上手くやらないとそこまでは稼げないか。


「俺たちのレベルなら?」

「……ちょっと安いかも?」


 俺の疑問に、ユキは困ったように小首をかしげ、そう言う。


「それもこのペンダントの効果次第だけどね。呪いなら問題外、良い効果なら私たちでも大儲けという可能性もあるから」


「確か、冒険者ギルドで調べてもらえるんですよね?」

「一応ね。ラファンで対応できるかは判らないけど」


 建て前としては、どこの冒険者ギルドであっても鑑定を受け付ける、という事になっているようだが、実際問題としては、ラファンのような町の冒険者ギルドで鑑定が必要な機会なんて、殆ど無い。


 そんなケースでは、引き受けてはもらえても、鑑定結果が出るまでにかなりの時間が必要になるらしい。


「ちなみに、鑑定料金は? まさか買い取り価格と同じって事は無いよな?」


「そんなボルタックな――もとい、ボッタクリな事は無いだろ」


 鑑定したら売り払っても利益が出ないとか、冒険者にとって厳しすぎる。


 まぁ、それならそれで、鑑定料金の見積もりを訊くことで、そのアイテムを鑑定する価値があるかどうかの目安にはなるだろうが、利益が出ないのはなぁ。


「正確な鑑定料金は覚えてないけど、定額だったはずよ? 逆に言うと、赤字もあり得るって事だけど」


「それは確かに。厳しいなぁ……」


「鑑定する人も仕事だからね」


 安い物でも、鑑定する以上、コストは掛かるか。


「それじゃ、ペンダントはひとまず置いておくとして。次はあの魔法陣だな」


 階段を挟んで宝箱とは反対側にある魔法陣。


 床に描かれた直径2メートルほどのそれは、よく見るとほんのりと光を放っていた。


 その効果は不明だが、何となく時空系の魔法に近いようにも感じられる。


「素直に考えたら、上に乗ったら帰還できるのかな? って思うけど……」


「まさかここまではっきり見えるのに、トラップって事は無いと思うが……」


 転移罠とか、状態異常になる罠なら魔法陣は隠すよな、普通なら。


「一応、ダンジョンにはこういう事例があるみたいだから、多分大丈夫」


「たまに、より深い場所に飛ばされる事もあるみたいだけどね~」


「大丈夫じゃ無いじゃん!」


 悪意無く、ショートカットとしての転移、という可能性もあるわけか。


 帰りたい俺たちからすると、ちょっと困るわけだが。


「そっちの階段を降りてみるってのは……ねぇよなぁ」

「無しでしょ。1層から2層に降りたときの事を考えれば」


 トーヤの言葉に、ハルカが困ったように苦笑する。


「進むにしても、一度、帰りたいですね」

「同感だね。少し休暇が欲しい」


 食料にはまだ余裕があるが、出来合いの物は殆ど残っていないので、今後は調理の手間が掛かってしまう。


 それは地味に、探索時間や休息時間を圧迫する事になるわけで……。


「万全を期すなら、一度戻ってあの通路がどうなっているか確認すべきだよなぁ」


「ちょっと遠いのがネックね。この魔法陣が許容できるリスクかだけど……多数決。あそこまで一度戻るのがいい人」


 悩んでいても決まらないと思ったのか、ハルカがスパッと多数決を決断する。


 そして全員の顔を見回すが、誰の手も挙がらない。


「次に、魔法陣に……って決を採るまでも無いわね」


 先に進むという選択肢が無い以上、戻って確認するか、リスクを承知で魔法陣に入るかのどちらか。


 戻ったところで道が開通していると限らない事を考慮に入れれば、消極的ながら魔法陣を選ぶのは仕方の無いところか。


「それでは、全員で手を繋いで、同時に入ってみましょう。万が一、別々の場所に飛ばされたりするとことですから」


「だな。そこまでヤバい物じゃないとは思いたいけど」


 ゲームなら敵の強さ的に、そこまで難易度の高い物は無いだろう、と判断できるのだが、この世界のダンジョン、判らない事が多いからなぁ。


「それじゃ、せーのっ!」


 俺たちは魔法陣の周りで手を繋いで輪になると、ユキのかけ声と同時に魔法陣の中に足を踏み入れた。


 ……ん? 何も起こらない。


「………不発?」


 まるでハルカのその言葉を待っていたかのように、突然、魔法陣が強い光を放つ。


 瞬く間に視界が白く染まる。

 あまりのまぶしさに目を閉じる俺。


 そして、数秒後。


 再び目を開けた俺の視界に飛び込んできたのは、緑の森と太陽の光だった。


「ここは……廃坑の入口か!」


 辺りを見回すと、見覚えのある景色。


 しばらく前に、スケルトンやゾンビたちとやり合った広場。

 その中でスケルトン・ナイトが陣取っていた場所に、俺たちは立っていた。


 後ろを振り返るとそこにあるのは廃坑の入口。


 ――いや、今となってはダンジョンの入口と言うべきか。


「やったぁぁ!」

「ふぅ……」


 喜びと共に声を上げるユキと、安堵したように息を吐くハルカ。


「おぉ!! 久しぶりの太陽! 新しい空気! 今ならこの暑さも愛おしい!」


 トーヤは空を見上げ、手を広げて大きく息を吸い込む。


 今は暦上でも夏真っ盛り。

 立っているだけでも汗ばむほどの気温。


 戦闘にでもなれば、滝のような汗を流す事になるのだろう。


 それでもダンジョンから無事に出られたという開放感は、かなり大きいようだ。


 口々に喜びの声や安堵のため息を漏らす俺たち。


 ダンジョン内ではそれぞれが互いに遠慮してか、不平不満を漏らすような事は無かったが、やはりストレスは抱えていたのだろう。


 全員が久しぶりに、心からの笑顔を浮かべている。


「はぁ……ほっとはしたけど、魔法陣は一方通行だったみたいね」


 暫し喜びを噛み締め、少し落ち着いたハルカが俺たちが最初に立っていた場所を調べて、少し残念そうに言う。


 転移してきた場所には何の痕跡も残っておらず、その場所に立っても何も起こらない。


 つまり、もう一度あの場所に行くには、再度ダンジョンを数日にわたって歩く必要があるわけで……面倒いな。


「もし、例の道が復活してなければ、もう入れないって事になるんだが……」


「それは大丈夫じゃない? 普通の洞窟ならともかく、これ、ダンジョンだし」


「うん。ダンジョンの罠は復活するみたいだし、入れなくなったらダンジョンじゃないし」


 よく解らない存在だよな、ダンジョン。


 ゲーム的ダンジョンとは一致しない部分もあれど、不思議な部分もやっぱり存在するわけで。


「もっと知識が必要だな。本格的に潜るなら」


「だねぇ。あと食べ物も、もっと用意しておこう。安心感が違う」


「はい。続きはそのあたりを解消してから、で良いですか?」


 1ヶ月以上閉じ込められたこの状況で、『早く探索したい!』と言う人はさすがにいなかった。


 ナツキの提案に揃って頷いた俺たちは、久しぶりの自宅へと向けて、足早に歩き出したのだった。

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