再び村長の家で
僕が持っているテヒブさんのポール・ウェポンを恐れているのか、村長のもとへと連れて行く夜道でも、男たちはリューナに手荒なことはしなかった。
そこは女の子だから、歩くのは遅い。早く歩けというふうに後ろから小突くこともあった。でも、後ろから僕がポール・ウェポンを突き出すと、すごすごと手を引っ込めた。
松明の灯がたくさん見えてきて、村長の家に着いたのだと分かった。男たちが、庭の前の道に出て、何やら話し合っている。
ピリピリした雰囲気だった。また、リューナを捕まえて閉じ込めようとしているのかもしれない。
僕はポール・ウェポンを構えて、いつでも戦闘態勢が取れるようにした。
……来るなら、来い!
リューナを連れた男たちは、松明を持った男たちに向かって何か言った。
「……!」
リューナの名前は出てこなかったし、返事も帰って来なかった。
だけど、僕は明るい所に近づいてくると、ポール・ウェポンを高く掲げた。これを見れば、絶対にビビるはずだと思ったからだ。
でも、誰も相手にしなかった。こっちを見てもいない。
男たちは、道の向こうからやってくる松明の灯を気にしているみたいだった。やってくる方は結構せかせか走ってたし、向こうに行く男たちもいた。
松明を掲げて行ったり来たりする方には、確か、壁があったはずだった。
異世界に来た次の日に、僕が朝から山へ木の切り出しに連れて行かれたのは、この壁のためだった。
丘が低く連なっているところが崩れて道になっているのを、わざわざ壁で塞ぐのはなぜか。
山の上から見たとき、遠くに城が見えた。これが吸血鬼ヴォクス男爵の城だとすると、道を歩いてこられないようにするためだとしか思えなかった。
つまり、この世界の人たちは、吸血鬼がコウモリや霧に変身できることを知らないんだろうと僕は思っている。
それどころか、吸血鬼が十字架やニンニクに弱いことも知らないらしい。
だから、ヴォクス男爵を倒せるのは僕しかいないのだ。村の人たちも、それが分かってれば僕やリューナをもっと大事に扱うはずだった。
でも、今は何か違う。ひどいことをするどころか、完全無視だ。
連れにきた男たちもそれにイラついたのか、何か怒鳴った。
「……! リューナ……!」
呼び止められた男が、振り向いて何か言い返した。
「……! ……! ……!」
つかみ合いの喧嘩になりそうなのを、僕らを連れに来た方と、こっちにいた方から男たちが出てきて止めた。
それが収まったところで、家の庭でひそひそ話す声が気になった。
女たちが何人か固まって、こっちを見ていた。松明の灯に照らされた顔はどれもオバケ屋敷みたいで不気味だった。
男たちは、壁の方へ行ったり、村長の家の方へ走ったりと忙しい。
でも、そんなことは気にもしていないかのように、リューナは女たちを見つめ返していた。赤い光の中に揺れて見える金色の髪が格好良かった。
やがて、男たちが戻ってきて、固まってリューナを眺めている女たちを引き戻した。
何が起ったのか分からないうちに、別の女が出てきてリューナの前に立った。何かの邪魔をしようとしているようにも見えたし、かばってくれているようにも見えた。そのどっちだということは、見覚えのない女だったから分からなかった。
リューナもきょとんとしているうちに、その女は別の男に引っ張って行かれた。何が何だか、さっぱり分からない。
ただ、見えたのは、家の中から手枷を持ってくる男たちだった。
……またやる気だな!
リューナが手を動かせないようにして、またあの部屋にカギをかけて閉じ込めるつもりなんだろう。
僕はポール・ウェポンを構えた。
……こんなもの、ちょっと脅せば!
そう思ったけど、ちょっと考えてみた。
男たちは、庭にも結構いる。道に出ている分も数えたら、何人かポール・ウェポンで脅している間に、他の誰かがリューナを村長の家の中へ連れて行ってしまうだろう。
僕が戸惑っているうちに、おかしなことが起こった。
ひとりの女が、手枷にしがみついたのだ。
男たちが、何か言って引き剥がそうとする。
「……!」
でも、女は手枷を離さなかった。男たちとお互いに、押したり引いたりする。そんなことを続けているうちに、手枷は何かのはずみで地面に落ちた。
……やった!
女は、それ以上はなにもしない。その場に、呆けて突っ立っているだけだ。リューナへの手枷を、男たちが拾おうとする前に奪い取らなければならなかった。
僕が駆け寄ろうとすると、ひとりの男が僕の前にやってきて立った。
手には、棍棒を持っている。
……邪魔だ!
ポール・ウェポンを構えたけど、向こうは気にもしてないようだった。無表情で、棍棒を振り上げる。
……やるしかない!
正直言って、怖かった。だって、人にケガをさせるんだから。
……ひょっとすると、殺しちゃうかもしれない?
思わず、身体が固まった。棍棒はもう、男の頭の上まで振りかぶられてる。
……やられる!
でも、両手を広げて僕の前に立ってくれた人がいた。
リューナだった。
僕が守るはずのリューナが、逆に僕をかばってくれていた。
……だめだ!




