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第30話 残された地図④

 町で花を売り始めて数日。

 今日も広場で噴水を眺めながら花を売っていると、珍しい客が店を訪れた。商業ギルドのギルド長である。ここでは店の視察があるのだろうか?


「おはようございます、ルルアさん」

「ギルド長、おはようございます」


 ギルド長とは、出店許可証の手続きでギルドを訪れた際に偶然顔を合わせていたので、ルルアもロクも顔見知りだ。


「黒猫君もお手伝いですか。お店の看板猫ですね」

「えーと……視察か何かかな?」

「いえいえ、私も花を買いに来ただけですよ。町の人々の間でも、ルルアさんの花は話題になっていましたので。何でも、花から癒しの効果が得られるとか。ギルドでも飾ってみようかと思ったんですよ」

「花には癒し効果があるからね。ギルドに飾るなら……この辺りがおすすめかな」

「では、それをいくつか頂けますか?」


 ルルアは、ギルド内の内装を思い浮かべながら、花瓶に飾る花や鉢植えなどをいくつか見繕ってギルド長に渡した。花を受け取った後も、ギルド長はニコニコしながらルルアの顔を見ているので、ルルアは怪訝そうに首を傾げた。


「……まだ何か?」

「そうですね、ルルアさんにお願いと言いますか……依頼がありまして」

「依頼?」

「この広場の花壇、ルルアさんの花に植え替えてもらえます? あ、もちろん、報酬はお支払いしますよ」

「それは構わないけど……今咲いてる花は?」

「植え替え時期になったら植え替えてもらうとか」

「そんなにはこの町にいないと思う」

「そうですよねぇ。では、摘み取った花はお店で売っていただくとか」

「私の花じゃないから売れない」

「そ、そうですよねぇ……それでは、どうしましょうか」


 どうしましょうかって、それはそちらで決めてもらいたいことだ、ルルアが決めることではない。しばらく待ってみたが、ギルド長からの返答はなく。仕方がないので、町の人たちで花壇の花を摘んでもらい、その後にルルアが花を植えるという提案をしてみた。ギルド長はそれでお願いすると即答し、早急に町民に周知すると言って足早に立ち去って行った。


 この広場がルルアの花に包まれる――ルルアは広場を見回しながら、どんな花を植えようか考えた。こんな楽しい仕事ならいくらでも引き受ける。報酬ももらえるし。


 ギルド長が立ち去って数時間後、町の人々が次々と花を摘みにやって来た。さすがだ、ギルド長。どうやって周知したのかはわからないが、仕事が早くて助かる。このぶんだと、明日には花壇に新しい花を植えられそうだ。






 ******






 翌朝広場に行くと、ここ数日珍しくルルアたちとは別行動をしていた青年が待っていた。このまま永遠に別行動でも構わなかったのだが。


「おはようございます! ルルアさん、ロクさん!」

「……今日は用事ないの?」

「はい! 聞きましたよ、ここの花壇にルルアさんのお花を植えるんですよね! ルルアさんの魔法を見るまたとない機会なんですよ! 楽しみすぎて一晩中眠れませんでした!」

「眠れないほどのことじゃないけどね」

「そうそう、ルルアさんにお詫びをしないといけません」

「お詫び?」


 詫びられるようなことをした覚えはないが、いったい何を詫びるのだろうか?


「この町では、僕は別の宿屋に泊ることになったので、ルルアさんのお傍にずーっといることができないんですよ。本当に申し訳なく……」

「あ、それは大丈夫。てか、詫びることでもないかな」


 そもそも、傍にいて欲しいと頼んだ覚えもないし、弟子と認めたわけでもないので、ルルアたちと行動を共にする必要もないのだ。詫びられる理由もない。

 ルルアは、いつものように花屋の準備を終わらせると、杖を手にしながら花壇の前に立った。青年から送られてくるキラキラとした視線を感じてやりにくいが――早く終わらせないと店に客が来てしまうので、できるだけ気にしないようにして始めることにした。


 杖を花壇の上に向かって掲げ、目を閉じて魔力を送る。すると、花壇の上に魔法陣が描かれて光を放った。弾けた光の粒子が花びらへと変わり、ひらひらと花壇に降りていく。その花びらは土に触れるとともにふわりと消え、そこには花が咲いた。こうして一つひとつの花壇に色とりどりの花を咲かせると、広場は癒しの空気に包み込まれた。


 ロクは花屋の椅子の上で、その美しい光景を眺めていた。何度見ても飽きない、大好きな光景。

 ふと隣を見てみると、青年の目からは滝のような涙が溢れ出ていてギョッとした。確かに、感動的な光景であるが――そこまで涙を流すほどの光景でもない。

 それにしても……ロクは、噴水の向こう側に見える路地裏に目を向けた。この町に来てからというもの、時折感じる魔族の気配。おそらく、ここに来る途中の森で遭遇した魔族たちだろう。いったい、ここで何をしているのだろうか?


 花壇の花を植え替えた報酬が、想像していたよりもたくさんもらえたので、いよいよ王都に向かって出発することに決めた。さっそく、宿の部屋で旅立ちの準備をする。


「……ロク」

「何だ?」

「あの魔族たち来てるよね?」

「ルルアも気づいてたか」

「うん」

「この町に何かするって感じでもないし、気にしなくていいんじゃないか?」

「……うん、そうだね」


 いったい、魔族たちは何をしにこの町にやって来たのか? そもそも、すれ違った時には町の方から魔族たちが来たはずだが、なぜまた戻ってきたのだろうか? もしも、ルルアたちを追いかけてきたのなら、早々にこの町を出た方が良いだろう。

 明日は出来るだけ早めにこの町から出発することにして、今夜はもう就寝につくことにした。


 こうして迎えた翌朝。


 ルルアが目覚めると、部屋の中にロクの姿はなく。窓際のテーブルに1枚の置手紙と地図があった。


『必ず戻る。先に進んでろ』


 そこに書かれている文字は、紛れもないロクの字だった。一緒に置いてあった地図には、ルルアが迷わないように細かくいろいろ書き込まれていた。

 しばらくの間、呆然と手紙と地図を眺めていたルルア。今まで当たり前のように傍にいた相棒が、突然姿を消した。ルルアの心臓が、部屋の中に響き渡るかのように、ドクンドクンと音を立てた。






 ******






 町の近くの森の中に佇む魔族が2体。

 そんな魔族にゆっくりと歩み寄ったのは、1匹の黒猫。その黒猫は、魔族達の前でその姿を人間へと変えた。





 残された地図~Fin.~



 *

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

のんびりと更新中です。次回もお楽しみに!

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