第2話 花の魔法使い②
古書特有の匂いが漂う図書館。いくつもの本棚が並ぶ通路を通り抜け、奥まった薄暗い場所にある本棚の下の段。そこに、ルルアたちのお目当ての本が陳列されてある。
「昨日も思ったんだけどさ、何でこんな隅っこに……」
「忘れられてるくらいだからな、誰も興味ないんだろ」
「……そっか」
ルルアはとある日から過去の記憶がない。だから、魔女狩りのことは聞いた話しでしか知らない。でも、その時代を生きた魔法使いたちがいて、今だひっそりと隠れ住む魔法使いたちがいる。当時を知る者がいない人間たちにとっては物語の中の話となっても、当時から生きてきた魔法使いたちにとっては、紛れもない事実なのだ。
当時の人間が、魔法使いに対して行ったことを悔やみ、後世に残すために語り継いだはずなのに、その想いが今を生きる人間たちには届かなかった――ルルアの中で、モヤモヤとした気持ちだけが渦巻いていた。
「それにしても、少なすぎでしょ」
図書館にある魔女狩りや魔法使いに関する書物は、たったの4冊。昨日は本屋で物語の本を調べていた――まぁ、いわゆる立ち読みをしていたのだが(しかも半日以上)、図書館があることを知ったのが夕方近くだったから、1冊しか読み終えることができなかった。
残りの3冊を手に取り、通路を戻ってテーブルに運ぶと、ロクと並んで座り本を開いた。
昨日、本屋で物語を読んでわかったことがある。それは、どれも少しずつ内容が違っていて、どの話が真実なのかわからないということ。しかも、どの話も魔法使いから聞いていた話とは違っていた。きっと長い年月の中で、読みやすいように書き換えられ、人間にとって不都合なところは改ざんされてしまったのだろう。正しい歴史を伝えていくというのは、とても困難なことなのだ。
「ロク」
「なんだ?」
「他の文献読んだことないし、よくわかんないけど……内容が薄っぺらい気がするよ」
「まぁ、こんな小さな町だからな」
「……あのさ」
「ん?」
「本、開いてるだけだよね?」
「…………気のせいだろ」
ロクの前に開かれているのは、3冊の中で1番薄い本。ルルアが分厚い本を1冊読み終えた時点で、ロクが開いた本のページが変わっていないような気がするのは、きっと気のせいではない。ルルアは残りの1冊の本の表紙をめくると、文字に視線を落としながら言った。
「それ、ちゃんと読まなかったら、ロクのぶんのパンケーキは永遠にないからね」
「何!?」
こうして、図書館が閉館する時間までには、見つけた本を全部読み終えたルルアとロクだったが、収穫はほぼゼロと言っていいほどの成果だった。あ、この町には真実がなかったということがわかっただけでも、収穫はあったと言ってもいいかもしれない。
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ルルアとロクが図書館から戻って来ると、広場が様変わりしていた。そういえば、今夜は祭りがあるとか言っていたような気がする。
「夜ごはん、屋台で食べようか」
「そうだな」
祭りが始まるまでにはまだ時間がありそうなので、一旦家に帰ることにした。
ルルアとロクがこの町に来たのは約1か月ほど前のこと。最初は宿に泊まる予定だったが、滞在日数によっては小さな空き家を借りた方が安かったので、町はずれにあるこの家を借りた。部屋数は少なかったが、2人(1人と1匹)で過ごすにはちょうどいい広さの家だ。何よりも見た目が可愛かったので、ルルアは即決だった。そんな家ともそろそろお別れになりそうだ。
「こんな小さな町じゃ、大した情報はなかったな」
「そうだね」
「どの本もでたらめばっかだったしな」
「え、そうなの? 私にはどこまでが本当かわからなかったけど……ん? ってことは、ロクは真実を知ってるってこと?」
「……いや、俺が聞いてきた話とは違ってるってだけだ」
「あ、そっか。ロクはずっとあの魔法使いの集落にいたんだっけ」
「まぁな」
ルルアとロクが旅を始めて、この町はまだ最初に立ち寄った町だ。そんな町で旅の目的が達成されるなどあるわけがない。きっとこの旅は、長い長い旅になる。
「王都なら、古い文献も残ってるだろうな。見せてもらえるかは別として」
「じゃあ、王都に向かおう」
「王都の場所は知ってんのか?」
「知らないよ。でも、地図に……」
ルルアは、魔法使いの集落でもらった地図を、カバンから取り出してテーブルに広げた。手描きの、とても簡単な地図だ。
「おい」
「何?」
「これは何だ?」
「何って……地図だよ」
「……よくこれでこの町に来れたな」
「森で半月くらい迷ったけどね」
「やっぱり迷ってたのか! あれ!」
「……間違えた、迷ってないよ」
もはや、地図に印された町がこの町なのかも怪しいが、こうして滞在して調べ物ができたのだから良しとしよう。だが、残念ながら手描きの地図には王都の場所など描かれていないので、明日新しい地図を買いに行くことが決定した。
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