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泣き虫天使

 天使は、く。

「泣く」でも「鳴く」でもない。

 哭くのだ。


 権天使カミルは、その巨体を震わせてオンオンと激しく慟哭どうこくしていた。

 そして部屋に入ってきたオレたちを見つけると、泣きじゃくりながらカミルはこう叫んだ。


「お前たちには、全員──死んでもらう!」


 どうしてこうなったのか。

 少し前に時間を戻そう。


 白銀騎士ラベルの部屋を出た後。

 ラベルをドミーとズィダオに任せたオレとリサは、城の反対側にある権天使の部屋へと向かっていた。


「え、なにこれ!? 城が歩いてるんだけど!?」


 空を飛ぶオレに抱えられているリサが驚きの声を上げる。


「ああ、なんかさっき急に動き出した」

「どうりでなんか揺れると思ってたら~……ってこれ、どうするの……?」

「ああ、一応フィード皇国の方に任せてる」

「任せてるって……どうにかなるわけ、これ?」

「さぁ?」

「『さぁ』ってね~、あんた……」


 不意に、リサは過去にフィードに抱えられて飛んだ時のことを思い出す。

 一度目は、夕焼けに包まれた王都の上空。

 そして、二度目はゴブリン国の大洞穴だいどうけつでの宴を2人で抜け出した時。


「どうした、急に黙って?」

「な、なんでもないわよっ!」


 真っ赤になった顔を見られないようにリサは顔を背ける。


「うわっとっと! 危ないって! 急に体勢変えるなよ!」

「う、うるさいわね! し、心配ならもっとしっかり抱きしめときなさいよ!」

「いやいや、最初から動かなかったら済む話だろ~」


 そんなやり取りをしながらオレたちは城の反対方向、権天使カミルの部屋の前に降り立った。


「さてと、もうセレアナ達が着いてるはずだが……」


 扉の向こうから漂ってくる怪しい雰囲気を感じ取ったオレは、リサに目配めくばせをする。


「リサ……」

「ええ……」


 静かに息を合わせると、扉を開けて同時に中に飛び込む。


「…………!」


 目に入ってきたのは粉々に破壊しつくされた部屋。

 そして、傷を負って倒れているセレアナ、ソウサー、天使ザリエルの姿だった。


「フィード……来るのが随分遅かったじゃなぁい……?」

「フ、フィードさん! 気をつけてください……!」

「え?」


 ザリエルの視線の先には、小さい小山……いや、背を丸めてうずくまっている巨大な筋肉の塊があった。

 これが権天使カミルだ。


 ここで冒頭のシーンへと繋がる。


「ウォ~ン、オンオンオン……」


 小刻みに震えるその塊が、ゆっくりとこちらを振り向く。

 その目からは涙が滝のように溢れて出している。


「こいつ……泣いてるのか……?」


 部屋に入ってきたオレたちを見つけると、その筋肉の塊は泣きじゃくりながら叫んだ。


「お前たちには、全員──死んでもらう!」


 オレととっさに身構えながらザリエルに聞く。


「どういうことだ!? 洗脳は解けなかったのか!?」

「いえ、解けたことは解けたんですが……」


 ゆっくりとカミルが立ち上がる。

 その両手には神的な雰囲気をかも戦鎚ウォーハンマーが握られている。


「ああ、お前たちにも知られてしまった……。オレの恥が……。消さなくては……オレの恥を知っているものは……すべて……消すッ!!!」


 戦鎚を振りかぶって猛烈な速度で突っ込んでくるカミル。


「リサ!」

「わかってる!」


 竜騎士のリサが宙に飛び、オレはその場に留まってスキルを重ねる。


 ──石化、剛力、腐食!


 ドッガッ──!


 音を置いてきたかのような爆発的突進から繰り出される戦鎚の一撃。

 オレは【石化】した両腕でガードするも、軽々と吹き飛ばされてしまう。


「くは~、重量差。これは受け流したほうがよかったなぁ~、いてて……。でも、【腐食】のおかげでかなり勢いを殺せたな」


 カミルの持つ戦鎚の平面が錆びつき、ボロボロと崩れ落ちていっている。


「貴様……なぜ抵抗する……なぜ素直に消されてくれないんだ……」


 そんなめちゃくちゃなことを言うカミルを目掛け、宙に跳んでいたリサが天井でググッと反動をつけるとものすごい勢いで飛びかかっていく。

 気配を察知したカミルは、筋骨隆々の姿からは想像のつかない流れるような動きで戦鎚を華麗に回転させると、の部分をスッと背後に突き出した。


 トンっ……。


 リサの伸ばした三節棍。

 その先端とカミルの戦鎚の柄が音もなく衝突する。

 衝撃を完全に吸収されて、リサはその場にストンと着地した。


「う、うそでしょ……なんの手品よ……」

「くぅ~……。これは……達人の域だな……」


 あまりの美技に思わずオレもうなる。

 しかし、その隙を逃さずセレアナが叫ぶ。


「ウンディーネ!」


 セレアナの声に呼応し、水の精霊ウンディーネがカミルの周りを水の膜で覆う。


「なぜだ……なぜまだわからぬ……」


 カミルを取り囲んだ水の膜から無数の水刃が生成されていく。


穿つらぬけ──無限水刃ウォーターブレード・インフィニティ


 カミル目掛けて一斉に無数の水刃が襲いかかっていく。


「グスっ……無駄だというのになぜわからん……」


 カミルは涙を拭いながら、ひと薙ぎで水刃を払い落とす。

 そして「ふむ、ここか……」と呟くと、一滴の飛び散る水滴を手で掴んだ。


「ぐっ──!」


 核を掴まれてたまらず人型の姿に顕現したウンディーネ。

 首を締め上げるカミルの手を振り払おうとするも……。

 

 プシャッ……。


 叶わず、そのまま握りぶされてしまった。


「うおおおおおお!」


 ウンディーネの作った隙を逃すまいと、セレアナとアオオニのソウサーが上下に分かれて背後からカミルに襲いかかる。


 ヒラリ。


 カミルは戦鎚を足をかけると、それを踏み台にして軽やかに宙に舞う。

 そのまま空中で一回転したカミルは、セレアナの背中に強烈な蹴りを入れてソウサーに叩きつける。


 ドカッ!


「ぶはっ! ちょっとぉ! 痛いんですけどぉ!」


 おちゃらけた様子でボヤくセレアナ。

 しかし、その口調とは裏腹に彼女の体はすでにボロボロだ。

 その一連の戦いを物陰に隠れて見ていた天使ザリエルが、申し訳無さそうに口を開く。


「ご、権天使は天界においても右に出る者はいないほどの格闘の天才です……。正直、ボクも見るのは初めてで……ま、まさかここまでとは思ってませんでした……ス、スミマセン~……」


 うん……。

 たしかにザリエルくんが言うように天才、だな……この泣き虫筋肉ダルマ天使は……。

 オレは【鑑定眼】でカミルを“視”ながら改めてそう思う。


 名前:カミル

 種族:天使

 職業:薔薇騎士

 レベル:102

 体力:80118

 魔力:226

 運命値:63

 スキル:正義の鉄槌

 職業特性:審判


 体力8万超え。

 これはオレや最上位悪魔のデーモンロードより圧倒的に上だ。

 これは……武力でまともに相手にしてたら、いつ終わることになるかもわからないな。


 あ、あとなんか運命値とかいうのが見えるようになってるけど、さっきデーモンロード倒したからレベルが上がったのかな?

 この戦いが終わったら後で確認してみよう。


 そして、オレは今まで最も頼りにしてきたスキル【狡猾】を発動させる。

 このスキルが「完全に勝ち目がない」と判断した時、オレは自然と土下座して命乞いを始めてるはずだ。

 それはゴブリン国で【狡猾】を持ったゴブリンと相対した時に実証済みだ。

 さてさて……ここで【狡猾】に判断を任せるのが吉と出るか凶と出るか──。


 結果。

 自然とオレの視線がある方向に向けられていく。

 その視線の先に映るのは。

 部屋の隅っこで物陰に隠れて自分の背中から生えてる羽にくるまりながら青ざめた顔でガタガタと震えているザリエルくん。


 おいおいおいおい……。

 ボクっ子天使ザリエル──。

 お前がこの最強権天使を倒す切り札ってわけなのか。

「ザリエルくんの活躍を早く見たい」と思っていただけた方は↓の【★★★★★】をスワイプorクリックしていただけると作者の励みになります。

さらに、よければ【いいね】【ブクマ登録】などもいただけると、とても嬉しいです。

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