ひよっこ皇帝とサイコパス皇子
姿を変える程度しか能力のないチンケな刺客。
オレのことを、きっと第4皇子はそう思っているだろう。
だからこその、この余裕。
そしてオレは──いや何人もの人間や魔物を始末してきたオレだからこそわかる。
こうやって本性を見せるのは、オレを生きて帰すつもりがないからだと。
さて、出会い方は最悪になてしまったが、どうやって皇子をこちら側に引き込むか。
うん、せっかくこっちを侮ってくれてるんだ。
まずは下手に出てみよう。
「あいたたた……。ちょっと酷いじゃないですか、なにするんですか皇子~」
すっとぼけておちゃらけてみる。
そんなオレを冷めた目で見つめて観察を続ける皇子。
「わかった、わかりました。今【変身】を解きますから、そんなに警戒しないでくださいって」
そう言いながら、いつもの女性の姿に変身する。
黒髪ボブで細身、目が大きくて職業がアイドルのフィード。
この姿なら大抵はオレのことを侮ってくれるはずだ。
そう、先日の執政集団との初顔合わせの時のように。
しかし、皇子は警戒を緩める様子もなく「違うな」と小さく呟いた。
「その姿も偽りだな。真の姿を見せよ、ころころと他人に成りすますペテン師」
へぇ。
さすがは皇子、といったところか。
人を見る目がしっかりしてる。
これじゃザリエルくんを言い負かしたときのような小細工は通用しなさそうだな。
久々にオレは本来のアベルの姿に戻る。
「これがオレの本当の姿だ」
オレは両手を広げて敵対心がないことを示す。
通常なら跪きでもするところなんだろうが、こっちだって自称皇帝。
ここまでは先手を取られて様子を伺ってたが、こっからは第2ラウンドだ。
巻き返してやるぜ。
と、オレが意欲を見せた瞬間。
「おお、それがキミの本当の姿か! 随分可愛らしいな! 背丈も私と変わらないぞ!」
急にフレンドリーになった皇子に困惑するオレ。
「え、あ、うん」
「で、キミはなんだ? 私を殺しに来た暗殺者とかか? 誰の差し金だ? 次男……いや、やっぱり長男か!?」
無邪気な様子でガンガン質問を投げかけてくる皇子。
なんだこいつ……?
これが本来の第4皇子なのか……?
それとも邪悪が行き過ぎててサイコパスの領域にまで足を踏み入れてるんだろうか?
極端な性格の振り幅、普段は善人を装っていて愛されている存在、思い切りのよい行動や言動、過剰に溢れ出る自信などなど。
オレが暇つぶしに見た【博識】でのサイコパスの項目に当てはまりすぎてる。
マズいな……だとしたら道理の通用する相手じゃないぞ……。
「ふむ……どうやら全部違うみたいだな……。キミは一体何者なんだ……?」
目を細めて残念そうに皇子は言い切る。
(ん? これは、なんらかのスキルで真偽を判断してる……のか? よし、それならこっちも“視”てやろうじゃないか)
オレの右目に宿った【鑑定眼】で皇子を“視”る。
ベリタ
種族 エルフ
職業 エルフ国第4皇子
レベル 3
体力 11
魔力 21
スキル 【真実の眼】
職業特性:カリスマ性++
やはりスキル効果か──スキル【博識】発動。
なるほど、『投げかけた質問に対する真偽が判る常時発動型のスキル』か。
これでオレの正体も最初から見破ってたってわけだな。
よし、なら嘘はなしだ。
直球勝負でいってやろうじゃないか。
まず相手と同じ立ち位置にまで状況を押し戻す。
「まずは、姿を偽って近づこうとした非礼を侘びたい。どうしても人目につかず皇子に会う必要があった故、民に紛れる必要があった」
「では、変装したのがゴルドだったことに特に意味はないと?」
「ああ、たまたま見かけたから姿を使わせてもらっただけだ。あまり特徴がなくて目立たなさそうなのがよかった。もちろん本人には何も影響はない。ただオレが彼そっくりに変身しただけだ。そういうスキルだ」
オレはそう丁寧に説明すると肩をすぼめておどけてみせた。
どうだ、嘘は言っていないだろう?
お前が真偽を判別出来るってんなら、こっちは真実のみを話してお前との交渉を成立させてやろう。
「うん、では改めて聞こう。なんで私に会いに来た? お前は何者だ? なぜ人目を忍んで会う必要がある?」
「オレは、エルフ国第一皇子のエレクに命を狙われている」
「エレク……? 我が国の第一皇子はデイルだが?」
「ああ、エレクというのは人間界で第一皇子が名乗っている名前だな。オレは奴と一時期パーティーを組んでたんだ」
そういえばエレクを【鑑定】した時に見えた名前がデイルだったことを思い出した。
本人がエレクだって言い張ってたから気にしてなかったけど、あぁたしかにこっちが本名か。
そら偽名も名乗るわけだ。
エルフでデイルと名乗ってたら「「自分は第一皇子だ」って喧伝して回ってるようなもんだからな。
「で、キミは何か理由があって兄に狙われた。それで庇護を求めて私のもとにやってきたと。簡単に言うとそういうことだな?」
「その通りだ」
「なら、答えは決まってる。NOだ。私は兄弟とは争わない。キミが兄に狙われたのなら狙われただけの理由があるのだろう。自業自得だな。なんなら私が兄の代わりにキミを討ち取ってもいいわけだが?」
やはりこの皇子は駆け引き慣れしてる。
自分の優位を決して崩そうとはしない。
「ん~、でもそれがそうとも言い切れないんだよな。なんてったって──」
だが、こっから逆転してやる。
気づかれないようにスキル【狡猾】を発動させる。
「オレは魔界の一部、ゴブリン国、そしてこれから王都をも統べることになる皇帝だからな」
どうだ?
今のが嘘かどうか判定してみろよ、お前ご自慢の【真実の眼】で。
オレは皇子の顔をじっと見つめる。
「なに……? そんな……まさか……いやいや……ああ、でも……」
動揺を隠そうともせず頭をフル回転させて状況を飲み込もうとする皇子。
オレにはわかるぞ、お前が今何を考えているのか。
オレがスキルの抜け道を見つけて嘘をついてるのではないか。
もしオレが真実を言っていた場合、自分はどう対応するのが一番いいのか。
敵対?
抹殺?
懐柔?
それとも。
──同盟?
すると皇子はポンと手を打って「うん」と言うとこう続けた。
「なんだ、そうか、そうだったのか、皇帝! あはは、皇帝ね! なるほどなるほど! まぁまぁ立ち話もなんだ、座ってくれ。あ、酒はぶどう酒でいいか? 今年のぶどう酒は出来がいいぞ。外部へは流通してないエルフの秘伝の酒だぞ?」
おちゃめな笑顔を見せながら陽気にオレを席に案内する皇子。
う~ん、この切り替わりよう。
おそらくはとりあえずもっと話を聞いてみてから考えることにしたんだろう。
まぁ、オレとしては対等に近い状況まで立場を盛り返して、議論をテーブルに乗せることが出来た。
第1ラウンドはやられたが、第2ラウンドはオレの勝利だな。
さて、お次は第3ラウンド。
決着つけようぜ、イケメン皇子さま。
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