フリフリすぎるのも布面積が少ない服も嫌です!
「それでどうして俺も貴様の買い物に付き合わねばならない」
「だって、まだ不慣れだし、お金溜まってないし。ちょっとくらい付き合って」
ルシウスはため息をつく。私は今ルシウスと一緒に、怪盗に関係ある支援組織に張り込むために女装グッズを集めている。まぁ私半分女なんですけれども。ルシウスを誘った理由は発言の通りだが、それらよりも優先される理由は、私が今向かおうとしている場所は一人ではいけないからだ。何故なら。
「出た変態! もう二度と来ないでって言ったでしょう!? ルシウス様、どうしてこの人をまた」
そう。例の性別判明事件が起きた仕立て屋。私は店長の彼女に目の敵にされているのだ。
「すまない、店主。少し仕事でな。こいつを女の恰好にしなければならなくなったんだ。どうか、服を用意してやってくれないか」
「あはは。また来ました葵です。お世話になります」
ペコリと頭を下げて顔を上げるが、彼女の顔は引きつっている。だが、ルシウスもいることが功を奏したのか彼女はしぶしぶ了承する。そして、心底嫌そうな顔をした店長が私に尋ねた。
「どういうのがいいとかありますか?」
「女好きが好む格好でお願いします」
「へぇ~~~」
店主のひどく嫌そうな顔を見て、バイト先で怪盗の話をしていた二人の男性客を思い出す。店長にとって、私は彼らと同じような存在なんだろうな。働く立場になって初めて、彼女の気持ちが良くわかる。でも、あの人たちは本当にクズだったけど、私は勘違いから生まれた誤解なんです。許して頂きたい。
彼女は2着の異なる様相の服を手にとり、私の前に交互に掲げる。
「まぁ、女好きっていうのはちょっと曖昧だけど。フリフリの女性らしい服か、体のシルエットがはっきりとわかるような服の2択になるけど、どうする?」
私の目の前には、どちらも着たことがないような服が2着。どんなに見比べても、指を指したくないほどの、大きく広がるフリフリと面積が少ない布だ。
「その2択はちょっとなぁ。もっと、スッキリしていて布がある服がいいな」
「はぁ……。我儘ね。じゃあ、これを試してみましょう」
私は以前起きた悲惨な事件の現場である、フィッテングルームに恐る恐る足を入れた。彼女の用意した服は膝上のタイトスカートに、フリルの付いたシャツにジャケット。まるでOLのような格好だ。最初に提示されていた服よりフリフリしておらず、布面積がありよっぽど良い。
「似合ってますかね?」
「まぁ、いいんじゃない? あぁ、これコレ」
彼女は胸にパットを差し入れる。この行為はいろんな意味で、ものすごく恥ずかしい。私はモジモジしていたが、彼女はあんなに嫌っている私に対して、今は仕事モードで私に対応している。暴言も忘れてしまっている。どうしたんだ、店長。そんなことを考えている間にも、店長は私に10㎝は高さのありそうなパンプスを履かせる。
「別に髪の長さはそれでも良いと思うけど、折角だしウィッグを用意しましょうか」
彼女は一度カーテンから出て行き、手にウィッグを持って戻ってくる。彼女は私と鏡の間に立って、髪の毛を押える網とウィッグを被せてくる。
「これでよしっと」
こげ茶のロングストレート。生まれてこの方胸元まで伸ばしたことのない髪の長さが、私を別人のように見せる。少し左右に動かすだけで髪が揺れるのを感じ、まるで自分から生えているようで感動する。それに、染めたことがない自分には新鮮な色だった。
「ふうん。まぁまぁ似合っているじゃない」
後ろから覗き見ている店長が、少し感心したように頷く。
「ついでにメイクもしてみましょうか」
「え、そこまで」
「うるさいわね。どうせ自分でできないでしょ。黙ってなさい」
彼女になされるがままあれよこれよと塗りぬられ、鏡に映った自分は大人の女性。こんな自分は見たことがない。日中で身体は男であるが、今の自分の姿はどう見ても女性そのものだった。
「ありがとうございます」
「……。じゃない…」
店長の言葉が聞き取れず、彼女の方へ振り返る。
「え?」
「男のくせに可愛いじゃない! くやしいいいい!! ド変態のくせに!」
「ええ……」
店長はまるでハンカチを噛んでヒステリーを起こすような勢いで、顔を歪めている。仕事モードはどこに放り投げてしまったんだ、店長!
「それに、段々と貴方を着飾るのが楽しくなった自分が許せないわ!」
「そうだったんですね」
あの仕事モードは楽しかったんだ。たしかに、あんなに罵詈雑言を浴びせていた彼女は途中から優しかったように思う。私は店主の暴走を宥めながら、フィッティングルームから出る。座って待っていたルシウスが、私を下から上まで眺めた後、「ふぅん」と一言だけ言った。
「ちょっと、ふぅんって何さ。どう? 何か言うことない?」
「別に」
彼はすぐ目を逸らし、用事は済んだと店長と二言三言話して、出て行こうとする。私は慌てて店主に告げる。
「あの、二日後にまた来てもいいですか? 実はこの恰好をしないといけないのが二日後で。自分ではメイク出来そうにないので、お願いできますか?」
「仕方ないわね。いいわよ」
「ありがとうございます!」
もう! ルシウス、何か感想くらいいってくれてもいいのに!
私は既に出て行ったルシウスを追いかけるように、ドアに手をかけた。
-----------------------------------------------------------------
仕立て屋を出てからルシウスと一緒に歩いていると、一軒の立派な屋敷が目に入る。
「すごい立派な建物だね」
「あぁ、伯爵の屋敷だからな」
「へぇ」
「次に怪盗が狙う可能性がある屋敷だ」
「え、そうなの? じゃあ、今からこの屋敷で聞き込みする?」
「いや、今日はいい。それよりこっちだ」
私たちはその屋敷の通りを抜け、角を曲がった近くの店に入る。どうやらそこは武器屋のよう。私が店内を見渡し、ルシウスは店主と話している。一度奥に入った店主が小ぶりのナイフを持って店内に戻ってくる。
「ルシウス、このナイフ買うの? その腰に立派な剣があるのに?」
「馬鹿。これは貴様のだ」
「私の?」
「武器の一つくらい持っておいた方がいいだろう」
「でも私使ったことないし、使いたくないし…」
「護身用だ。黙って、持っておけ」
ルシウスにその剣を渡され、仕方なく受取る。重さはないが、その存在は重く感じられた。
「他に行く場所はある?」
「いや、今日はいい。今日のお前は一層足が遅いからな」
「え?」
「歩きなれていないだろう。その靴」
彼の言う通りヒールの高い靴は履きなれず、歩きにくかった。気付いてくれたのか。
「帰るぞ」
私と彼はいつもよりゆっくりとした速さで、宿に帰っていった。
【簡単なあらすじ】
女性ものの服を買いに、ルシウスと買い物に出かける葵。仕立て屋の女性店長とは少し仲良くなる(?)
【登場人物】
・葵
本作主人公。日中身体が男に変わるが、一応女の子。
・ルシウス
王国騎士。女性アレルギー持ち。
・仕立て屋の店長
葵を変態だと思っている。ちょっと仲良くなる(?)
【お知らせ】
1章の1話目を少し書き換え、下記の設定を加えました。
・葵は高校卒業後、幼いころから夢だった動物園で働く予定だったが、結婚のせいで夢が潰える。
設定ふわふわ状態でのスタートだったので、また追加設定をどこかに加えるかもしれません。ご了承ください。




