↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/41

34話 ステーキのお味は?

評価、ブクマありがとうございます!

「よし、私の用事は終わったよ。次は景の番だ。訊きたいことは?」


「俺が原因でこれまでにどれだけの被害が出ている」


 間髪入れずに景はそう言った。それを聞いた沙月さんは戸惑った表情を見せた。私だってそうなるだろう。

 悪気がなかったとはいえ、その被害の全貌は果てしないだろう。それを当事者に話してよいものなのか。私にも分からない。


「……変わるね」


 そう言うと、沙月さんの雰囲気が変わった。もう1人の人格の方の沙月さんだ。

 そして、景の目をまっすぐに見た。


「いいだろう。まだ全貌は分かっていないが、現時点で死者は7万人。怪我人も含めたら15万人。これからもっと大勢出てくる」


 私が記事を見た時よりも死者数が増えている。このペースであれば、死者数がもう1桁上になるのは間違いないだろう。


「それでも魔女よりはマシだ。あっちは桁違いだ」


「い、一体どれくらいの被害が……?」


 恐る恐る、沙月さんにそう訊いた。そして、ため息をついた。どことなく、嫌そうな顔だった。


「行方不明者が約1億人」


「……」


 絶句した。確かに、国一つが滅んだのだからそうだろう。だが、実際にその数字を聞くととんでもないことだと改めて実感した。人口だけで言えば、日本が滅んだようなものだ。


「あれ、それ行方不明者だったの? 死者数じゃなくて?」


 ソフィアがそう訊いた。言われてみればそうだが、察しはついた。


「遺体がない」


「あー、なるほどね。跡形もなく消えてたしね」


 ソフィアはあっさりと笑いながらそう言った。そして、何気ない顔で食事を続ける。

 私は何も言えなかった。これが彼女にとっての普通だから。


「んで、そこの大量殺人犯はこれからどうする気?」


 そう言って、ソフィアは右手に持っていたフォークで景を指す。誰も言い返すことはできなかった。その上、あまりに唐突な問いだからか、景は答えられない。


「私の経験とあんたの表情からして、あれは暴走でしょ。しかも、分隊長がずっと一緒ってことは未だに力の制御もできない。でも、あんたは今現在、少なくとも7万人を殺した大量殺人犯。そんなやつがこれからどうやって生きるっていうのさ」


 誰もが食事を止める中、ソフィアは喋りながら1人食べ続けている。

 ソフィアの言うことは全て事実だ。景の罪は重い。到底、許されることではないのは私も承知している。でも、被害者から責められたら——


「まあ、私も人のこと言えた義理じゃないけどさ。人を殺したことはないけど、盗みは散々してるし。うーん、美味い」


 そう言いながら、ソフィアはステーキをステーキを一気に頬張った。


「……なら、俺が殺した分だけ救う。命がけで」


「ふーん。ま、頑張りな」


 そう言うと、ソフィアは興味をなくしたのだろうか。こちらには目もくれずにステーキを食べ続ける。

 私は横にいる景の方をチラッと見た。何とも言えない表情だった。


「あのさ、訊いていい?」


 自分の皿の上に乗ったステーキを見ながら、私は景にそう言った。ステーキのタレのいい匂いがする。


「何だ」


「ローマ数字の計算式……あれ、どうやって解いたの? 私でも最初はローマ数字だって気付かなかったし、意味不明だって思ったし。そもそも、ローマ数字を知らないんでしょ?」


 あれを知識なしで解くことができるのか? 少なくとも、私がローマ数字への知識は何もなかったならば、解けなかっただろう。あの問題で詰んでいた。


「それまでの問題が1桁の時点で、これも1桁だと察していた。答えからどういう仕組みか理解した」


「え、ってことは答えは出したのに、そこから解き方を……?」


 解き方まで調べたのか? それが彼のプライドなのか? 推測から解いただけでは満足しなかったのか?

 一体、どれだけの時間がかかったのだろうか。凄すぎて、逆に恐ろしくも感じる。


「2809−1411−1389。それが問題の式で合ってるか?」


「いや、覚えてねえよ。……まあでも、そんな感じだったはず」


 あまりの景の記憶力に、そうツッコんだ。だが、恐らく合っている。そんな感じの数字だったはずだ。だから、言い直した。

 本当に合っているかは、あの問題をもう1度解いてみなければ断言できない。だが、私が残っている記憶によると、おおよそは合っているはずだ。


「あの問題が解けて、最終問題が解けなかった理由も納得した。あれは無理だ」


 ローマ字が知られていない上に、そもそも、ヘボン式ローマ字というもの自体を知らないのだろう。名前読みはできているようだが、音読みは知らないはずだ。

 その状態であの問題を解け? 無理だ。例えローマ字を全て知っていて、解こうとして答えの文字が出てきたとしても、この世界の人からすれば意味不明な文字の羅列だ。読むことなんて、不可能だ。


「景のお父さんって、何の仕事してるの? それとも、超能力者?」


 そう訊くと、景は考え込んだ。しばらくの沈黙の後、口を開いた。


「……分からない。俺と両親の間でそんな話はしたことがない」


「……ごめん」


 訊くべきではなかったか。景に一言謝って、もう1度考える。

 これ以外の可能性はある。私と同じで異世界から来た人だということだ。だが、これでも全ての説明はできない。


 景のお父さんからの私宛の手紙——あれが、謎だ。

 私の名前などは書かれていないが、内容は私宛で間違いないだろう。間違いなく、赤の他人である誰かがあそこに辿り着くことを想定している。そうなると、何か超能力が関わっているとしか思えない。


「沙月さん、景のご両親との関わりはないですか?」


「——苗字は水瀬、だったか? 私との関係は、特にないはずだが」


 少し考え込んだような表情をしてから、沙月さんは答えた。ということは、沙月さんから情報を得たというわけでもないようだ。

 未来視と同系統の能力を持っていた……とかか? やはり、それしか思いつかない。でも、相手は既に故人だ。これ以上、知ることは難しいような——


「さっきからなに辛気臭い顔してんの? こういう席では好きなだけ食べるものでしょ。ほら」


 ソフィアはそう言うと、私のフォークを取る。そして、自分の皿の上に乗っているステーキにそのフォークを突き刺し、私に渡してくる。


「?」


「何してんの、ほら」


 戸惑いつつもそのフォークを手に取り、口にした。少しして、慌ててコップに入った水を全て飲み干した。


(から)っ!」


「あ、ごめん。自分で辛いやつかけてるのを忘れてたわ」


 とてつもなく辛かった。水を飲み干しても、まだ口の中がヒリヒリする。

 あの辛いステーキを平気で食べているところを見ると、ソフィアは辛いものが好きなのだろうか。


「あー……(から)かった」


 水がないので、代わりに自分のステーキを頬張り、辛さを和らげた。

 私のコップに水がないのを見たウェイターさんが水を入れると、それも一気に飲み干した。


「もう良さそうだね。じゃ、好きなだけ食べようか!」


 その言葉を聞いて、私は疲れたのかどうでも良くなって野菜を貪った。

 そして、出されたものを全て完食した。もはやある意味、ヤケ食いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。