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33話 古代語……なのか?

「どう? 美味しい?」


「ああ……はい……」


 現在、私達4人と残りの分隊の3人とで、食事中である。だが、正直に言おう。美味しいはずの料理の味が全くしない。

 それもそのはず。この場所とこの料理。どう考えても高級レストランのそれである。

 その中にジャージの女子高生が1人。私のことである。知っていたなら、もっとまともな服を着ていたのに。明らかに場違いだ。この世界に来たばかりの時、ジャージでリムジンに乗ったこと思い出す。


 その上、隣に座っている景と正面にいる沙月さんと渚さんはナイフとフォークを使い、作法を守って優雅に食事をしている。沙月さん達はは当然だが、景も金持ちの御曹司か? というほどの育ちの良さを感じてしまうのは気のせいだろうか。


 1つ救いがあるとするのであれば、私達の他にはお客さんがいないことである。つまり、貸し切り。……それはそれでやりにくい気はするが。後は——


「美味い!」


「何これ、めちゃウマ!」


 そんな空気の中、作法も何も気にせず食べ進める2人。鬼塚さんと例の女である。この2人がいるから、少々やりやすい……気はする。

 ……そういえば、女の名前を聞いた覚えがない。流石に名前くらいは知っていないとマズいだろう。仲間かどうかはいまいち微妙だが、同じ分隊だし。


「そういえば私、名前聞いてないよね?」


「私? あー、そういえばあんた達に言ってなかったっけ。名前は……というか、本名はソフィア。苗字は小さい頃に親に捨てられたから知らないし、当時知っていたとしてももう覚えてないわ」


 そう言うとソフィアと名乗った女は、行儀なんて相変わらずお構いなしで料理を貪った。

 ちょっと待て。さらっと言ったけど、そんな呑気に言っちゃっていいことか? そ、それに……言いにくいけど——


「ソフィアって柄じゃねえなあ」


「ゲホッ、ゲホッ」


 鬼塚さん、言っちゃったー! 思わずむせちゃったよ! それは私も思ったけど……うん。


「でしょ? だから二つ名で呼ばせてた。昔は好きだったけど、今思えば超恥ずかしい。もう使いたくないわ」


 要するに二つ名については「聞くな」ということなのだろう。ソフィアは皿に目を向け、口いっぱいにしながら食べる。発言からして恐らく、中二病っぽいものなのではないだろうか。


「用件は何だ」


 景はナイフとフォークを皿の上に八の字に置き、そう沙月さんに尋ねた。その問いに対し、沙月さんは微笑んだ。そして、同じようにナイフとフォークを皿の上に置いた。


「用事があるのは光ちゃんだけ。内容は分かってるよね」


 ああ、あれか。通りで他に誰もいないのか。確かに、他の人に聞かれては困るような内容かもしれない。


「それに、用事があるのは景の方だよね?」


「……」


 何の事だ? と一瞬思ったが、景の表情で察した。

 そして、沙月さんは立ち上がった。まだ食事は終わっていない。……食事しながらやるのか。作法的にはよろしくない気もするが、その方が気は楽かもしれない。


「さて、古代語の件なんだけど!」


 やっぱり。先程までの雰囲気とはガラリと変わって、にこやかな笑顔でそう言う沙月さん。何やら大きな機材まで持ってきた。ここまで必要なのか……?


「これ聞いて、分かる?」


 沙月さんの手でその大きな機材にある1つのボタンが押される。そして、雑音混じりの音が流れる。その中にはっきりとした声が流れてくる。


「Flame, gather in my hand.Then become a spear and pierce my enemy!」


「……魔法の詠唱かよ」


 思わずそうツッコんだ。特に早口というわけでも、文法が難しいというわけでもない。非常に聞き取りやすかった。


「分かるの!?」


「ま、まあ……?」


 沙月さんの気迫に押されて、疑問形で答えてしまった。いやいや、簡単だろ。と一瞬思ったが、考え直した。沙月さんは先程「古代語」と言った。

 まさか、この世界では英語は古代語……?


「こ、これが古代語? でもそれなら、ソフィアも言っていたはずでは……?」


 彼女が雷を落とす時、確かに英語を言っていた。2度ほど聞いた覚えがある。1度目は私のフィギュアを盗んだ時、2度目はあの怪盗を倒そうとした時。2度目に関しては昨日聞いたばかりだ。忘れるはずがない。


「無意識に勝手に口から出てるだけ。意味なんて全く分からないわよ」


「ええ……」


 勝手に口から出てくるものか? と思ったが、そういうものだと思うことにした。魔法の詠唱文は頭の中に流れ込むなんて作品もある。これもそういうものなのだろう。


「で、どういう意味!?」


 沙月さんは机を乗り越えてきそうな勢いで上体を前に突き出し、両手を机に叩きつけた。驚いて、慌てて先程の英文を脳内で再生する。


「え、ええと……詠唱っぽく言うなら……『炎よ、我が手に集え。そして槍となって我が敵を穿(うが)て』とか?」


「つどえ? う、うげ……うぐ……? 何だっけ?」


「集えは集まれと、穿ては貫けと同じ意味です」


 沙月さんには一部、意味が伝わらなかったようだ。

 ……沙月さんは科学以外の点においてはバカだということも、ちゃんと頭に入れておかないと。


「じゃあ、これは!?」


 沙月さんがボタンを押すと、次の音声が流れる。


「アインザッツ!」


「え、ドイツ語かよ」


 てっきり英語だけかと思っていたが、そうではないらしい。その上、想像以上に短かったために間抜けな声が出てしまった。詠唱というよりは技の名前っぽい気はした。


「意味は!?」


「え、ええ……? 音楽用語としても使われていることくらいしか……」


 英語以外は完全に専門外。単語だけであれば一部分かるものもあるが、ほぼ分からない。後は発音で何語かが分かる……かもしれない程度のものだ。


「でも、何故沙月さんが古代語に興味を?」


 それが不思議なのだ。英語やドイツ語などが古代語だとするのであれば、沙月さんがここまで興味を示すのは変だ。古代語と科学に関係があるとは思えない。


「これ、超能力者が使ってるんだよ。ソフィアが言ってたみたいに、無意識に。興味がある、っていうか研究を進めたら、超能力者についてもっと知ることができるからやってるって感じ。私が直接研究してるわけじゃないしね。古代語って呼んでるけど、本当に古代語かは断言できてない」


 私からすれば信じられない話だ。あの英語が古代語? と思うと、不思議な感覚がする。

 ……いや、待て。そう考えると疑問が出てくる。


「外来語は……? あれは古代語じゃない?」


「古代語の名残り的なやつなら、あるとされてるけど……」


 一瞬で解決した。なるほど。完全に消滅したというわけではなく、残ってはいるのか。だから外来語であれば通じた言葉もあるのか。だが、まだ疑問はある。


「超能力者のS級、A級、B級……あれは、どこから?」


 これもおかしな話だ。普通はABCDE……と続く。1番上がA級であるのであれば、ローマ字が残っているとして納得する。だが、S級が最初なのは変なのだ。あれはSpecialの頭文字、Sから取ったものだ。


「確か、過去にそう分類していた人がいるんだよ。S級、A級、B級って。超能力者だって言われてるけど。何故最初がSなのかはよく分かってない。順番はABC……と続いたはず。26文字あったと思うんだけど。超能力者が使う文字として扱われてるよ。だから、超能力者の階級はこれが使われてる」


 ……意識して英語が使えた超能力者がいるのか? それなら、特級から思い付くことはできるか。

 その中でも私が元いた世界、あるいはその並行世界の人によるものの可能性もある、か。根拠がないため、どちらの人間によるものかは断定できない。


「ローマ字……えっと、ABCと続くやつですけど、あれって一般的に使われてます?」


「全く。さっき言ってたような超能力者に対する階級の使い方しかしないから、研究者とか興味のある人でもない限り、そもそも誰も知らないと思うよ」


 確かに、古代語に興味がある人なんて限られているか。それくらいしか知らない、ってことか。


「……まさか、ローマ数字も? えっと×(ばつ)とか1とか、さっき言ってたローマ字みたいなやつで構成されている数字——」


「まさか、これ!? 数字なの!? これ読める!?」


 そう言うと、どこからかタブレットを取り出して、画面を見せる。

 表示されている文字はⅪ。間違いなくローマ数字だ。


「これは11ですね」


「おおおおお……!」


 歓喜する沙月さん。一方の私は考え込む。この2つは異世界でも見たことはあるのだ。あの建物も、あの問題も、作ったのはあの人しかいない。



 ……景のお父さん、一体何者?

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