32 入団式の後で
本日二話目
最終話です。
あの騎士団見学以降、シリルとリアンの交流はそれまでより格段に増えていった。
アイリーンやデイジー達を通して品物や手紙を交換したり、騎士学校の仲間たちと王都警護騎士団の公開訓練の見学に行ったりと確実に二人の距離は近付いていった。
シリルが騎士団に入団して一年半ほど経った頃、良きライバルとして切磋琢磨し合って来たエイドリアンから大事な話があると夕暮れ時の騎士団の訓練場に呼び出された。
最近リアンが見学に来る度に特別な思いを抱いて親し気に話しているのをエイドリアンに気取られない方がおかしい。きっと自分の気持ちを確かめたいのだろうと当たりを付けて待ち合わせの場所に向かった。
待っていたエイドリアンはかなり真剣な面持ちをしており
シリルに緊張が走る。挨拶もそこそこにエイドリアンが切り出した。
「実は騎士学校に入学して間もなくして サイラスからボルドー辺境伯騎士団への入団の勧誘を受けたのだが 当時は二年後に知り合いの少ない王都に就学する予定でいるリアンの事で色々と危惧する事もあり
”妹のリアンが入学してから卒業するまでは他の地に移る事は考えられない”
と返答していたんだ。
俺の卒業時に辺境伯爵嫡男のサイラスも
”自分もまだ王都の騎士団でで学びたい事が有るから”
と一旦王都の騎士団に入団したんだが 今年リアンが卒業するタイミングで
”出来れば兄妹で辺境伯騎士団に入団しないか”
と誘われた。強い者は大歓迎だと……」
「リアンも辺境伯騎士団に誘われていると?」
「今までは辺境伯騎士団に誘われている事をリアンに話した事は無かったが
”出来ればリアンも一緒に” と本人には内緒で何回か誘いを受けている。
しかし俺がリアンの将来まで決める訳にはいかない。
俺自身は王都内で森や市街地など見回りと彼方此方と職場を移動する王都警備騎士団より魔獣警備の仕事に集中できる辺境伯騎士団の方が性に合っている。
だから最初からリアンが騎士学校を卒業して独り立ちしたら
サイラスの申し出を受けて辺境伯騎士団に移るつもりだったんだ」
「まだリアンは自分が辺境伯騎士団に勧誘されている事を知らないのか?」
「いや、最終学年になってすぐにリアンには一応そういった話が有ると伝えた。
リアンが卒業したら俺は辺境伯騎士団に移るという事も話した」
「彼女は俺には何も話してくれなかった……」
「あいつは 最初に話をした時に ”仲間や友人が王都に沢山いるから
心配しなくていい” と言って此処に残る事を迷う事なく決めたからな」
「少しも迷う事なくきっぱりと決められるなんて彼女らしいですね」
「君の存在が大きいのだろう。
ずっと一緒に育って来た兄としては寂しい限りだよ。そこでだ
シリル・リンゼイ殿 これから先、妹の事を任せても良いだろうか。
残していくのは心配だが此処にはあれの友人も沢山いる。何より頼れる君がいてくれるから」
「勿論。彼女が一番頼りにしている貴方にそう言って貰える事はとても嬉しい。
リアンさえそれで良いと言うのなら 喜んで引き受けさせて頂くよ」
リアンにはそんな話の場があった事は内緒だ。彼女は心身共に強いから
守ったり守られたりじゃなくて傍に居て一緒に笑っていられることが大切だって気付いたんだ。
リアンが無事入団試験に合格し騎士学校を卒業すると エイドリアンは
サイラスと共にボルドー辺境伯領へと向かった。
その後、リアンはシリルと同じ王都警護騎士団の入団式の日を迎えた。
先輩騎士や来賓が見守る中、挨拶をする為に新団員の代表の名前が呼ばれた。
「新団員代表 ジョゼリアン・リトレー」
「はい」
見守っていたシリルが一瞬呆けた後、息を飲む。
『ジョゼリアン・リトレー?!!!』
”ジョゼ” と ”リアン”
姉は ”ジョゼフィーヌ”
交流パーティーには家族そろって参加したという
”エド兄”
そのエイドリアンが可愛がっている ”妹” は ”ジョゼリアン”
ライラックの大きな瞳
シリルの中でずっと気になっていた事が繋がった。
今更本人に確かめる迄も無い。
好きなった人が偶々初恋の女の子だっただけ・・・
それでもやはり確信したかった。自分の初恋にけりがつく。
入団式が終わりリアンの元へと駆け寄った。
「名前、ジョゼリアンていうんだ」
「あれ? 話してなかった? 小さい頃はエド兄やメイドには ”ジョゼ”
って呼ばれてたんだけど 姉と同じ愛称だって気付いた母に私の事は
”リアン” て呼ぶようにって言われて。
えっと、どこかのパーティーに皆で行った時だったかな?
それまでは姉と一緒に遊ぶ事も無かったから」
平然として話すリアンとは対照的に目を輝かせたシリルが質問する。
「ジョゼ…… ジョゼってカブトムシは好き?」
「何? 入団式終わってからすぐの質問がそれ?
良く分からないけど勿論大好きだよ。大きいし強いし、虫の王様だよね。
何より ”カッコいい!” もん」
「だよね!! これからはリアンの事、”ジョゼ” って呼んでも良い?」
「何かいきなりで納得できないけど…… もちろんシリルは私の特別だから
そう呼んでもらえるのなら 私も嬉しい…かな」
「ジョゼ、今までも そしてこれからもずっとよろしく!」
シリルがジョゼを抱きしめる。
「何か今日のシリル 変!」
そう言いながらも笑顔が零れた。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
シリルの初恋が書いてみたかったけれど思いを文章にするのは
難しい・・・




