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村人の日々  作者: 昼の月
422/422

崩し方を真似する

「……昨日の感じで置いたんだが」


男は少し困った顔で立っていた。


工房の作業台の上が、妙に散らかっている。


*****


散らばっている。

だが――


昨日までの空気と違う。


*****


ノルが作業台を見る。


「崩しすぎたな」


*****


ユルンが笑う。


「分からなくなってる」


*****


オルナが一つ道具を持ち上げる。


「遠い」


*****


グラドが別の道具を見る。


「重なってる」


*****


イセラが静かに言う。


「戻れない」


*****


男は腕を組む。


「昨日はもっと自然だった」


*****


イルロは少しだけ周囲を見る。


道具の位置。

人の立つ場所。

手の流れ。


*****


「……“崩れているように見える”のと、

 本当に崩れているのは違います」


*****


男が顔を上げる。


「違うのか」


*****


ノルが頷く。


「昨日は流れていた」


*****


オルナが言う。


「今日は止まる」


*****


グラドが続ける。


「行き先が切れてる」


*****


男は作業台を見る。


確かに、

どこへ手を伸ばせばいいか迷う。


*****


子どもが近づいてきて、

一つの道具を少しだけ動かす。


ほんの半歩。


*****


「……近い」


*****


ユルンが笑う。


「分かってるな」


*****


イセラが別の道具を重なりから外す。


「見える」


*****


オルナが中央を少し空ける。


「流れる」


*****


少しずつ、

作業台が変わる。


整列はしない。


だが、

手が迷わない。


*****


男が試しに動いてみる。


取る。

置く。

戻る。


今度は止まらない。


*****


「……ああ」


男が小さく息を吐く。


「空いてるんだな」


*****


イルロが頷く。


「全部を埋めないんです」


*****


ノルが言う。


「余白だ」


*****


グラドが笑う。


「水も詰めすぎると流れない」


*****


イセラが静かに言う。


「布も同じ」


*****


男は作業台を見回す。


昨日より道具は多い。


なのに、

軽い。


*****


夕方近く。


男が帰る前に言った。


「……整ってないんじゃなく、

 余白を残してるのか」


*****


ユルンが笑う。


「詰めない工房だ」


*****


イルロは作業台の中央に残った小さな空間を見ながら呟く。


「……人が動く場所まで埋めると、

 苦しくなるのかもしれませんね」


*****


道具だけではない。


手も、視線も、考える間も。


少し空いているから、

人は自然に動ける。


工房の空気は、

そんな余白で静かに保たれていた。

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