決まっていない場所
「……どこに置けばいい?」
入口の近くで、男が立ち止まっていた。
背には荷。
手には修理途中の金具。
セレン村の者ではない。
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イルロは顔を上げる。
「どこでも大丈夫です」
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男は少し困った顔をする。
「どこでも、が困る」
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ノルが後ろで小さく笑う。
「慣れてないな」
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男は作業台を見る。
中央。
端。
少し外れた場所。
道具は散っているようで、
不思議とぶつかっていない。
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「決まってないのか?」
男が聞く。
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オルナが答える。
「決まってる」
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「どこが?」
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グラドが言う。
「戻りやすい場所だ」
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男はさらに困った顔になる。
「……分からん」
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ユルンが笑う。
「最初はそうだ」
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イセラが静かに言う。
「置いてみれば分かる」
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男は恐る恐る金具を置く。
棚に近すぎる。
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ノルが見る。
「遠いな」
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男が聞き返す。
「遠い?」
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オルナが歩いてみせる。
取る。
戻る。
また取る。
「往復が長い」
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男は少し考え、
今度は中央へ置く。
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グラドが首を振る。
「今度は寄りすぎだ」
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ユルンが笑う。
「全部そこに集まる」
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男が眉をひそめる。
「難しいな、この村」
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子どもが近づいてくる。
そして、
作業台の中央から半歩外れた場所を指す。
「ここ」
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男はそこへ置いてみる。
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イルロがその位置を見る。
「……いいですね」
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男が少し驚く。
「これでいいのか」
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ノルが頷く。
「戻りやすい」
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午後。
男は何度か道具を動かす。
最初より迷わない。
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「分かってきた」
男が言う。
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オルナが笑う。
「位置じゃない」
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グラドが続ける。
「流れだ」
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イセラが言う。
「止まっても、戻れる」
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男は作業台を見る。
決まりはない。
だが、
崩れてもいない。
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夕方、帰る前。
男がぽつりと言う。
「……この工房、
散らかってるようで静かだな」
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ユルンが笑う。
「ちょうど散らかってる」
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イルロは静かに道具を戻しながら呟く。
「……整いすぎないほうが、
人は動きやすいのかもしれませんね」
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完全には決めない。
だが、
戻れなくもしない。
その曖昧さが、
工房の空気を軽くしていた。
外から来た者にも、
少しずつ分かるくらいには。




