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村人の日々  作者: 昼の月
421/424

決まっていない場所

「……どこに置けばいい?」


入口の近くで、男が立ち止まっていた。


背には荷。

手には修理途中の金具。


セレン村の者ではない。


*****


イルロは顔を上げる。


「どこでも大丈夫です」


*****


男は少し困った顔をする。


「どこでも、が困る」


*****


ノルが後ろで小さく笑う。


「慣れてないな」


*****


男は作業台を見る。


中央。

端。

少し外れた場所。


道具は散っているようで、

不思議とぶつかっていない。


*****


「決まってないのか?」

男が聞く。


*****


オルナが答える。


「決まってる」


*****


「どこが?」


*****


グラドが言う。


「戻りやすい場所だ」


*****


男はさらに困った顔になる。


「……分からん」


*****


ユルンが笑う。


「最初はそうだ」


*****


イセラが静かに言う。


「置いてみれば分かる」


*****


男は恐る恐る金具を置く。


棚に近すぎる。


*****


ノルが見る。


「遠いな」


*****


男が聞き返す。


「遠い?」


*****


オルナが歩いてみせる。


取る。

戻る。

また取る。


「往復が長い」


*****


男は少し考え、

今度は中央へ置く。


*****


グラドが首を振る。


「今度は寄りすぎだ」


*****


ユルンが笑う。


「全部そこに集まる」


*****


男が眉をひそめる。


「難しいな、この村」


*****


子どもが近づいてくる。


そして、

作業台の中央から半歩外れた場所を指す。


「ここ」


*****


男はそこへ置いてみる。


*****


イルロがその位置を見る。


「……いいですね」


*****


男が少し驚く。


「これでいいのか」


*****


ノルが頷く。


「戻りやすい」


*****


午後。


男は何度か道具を動かす。


最初より迷わない。


*****


「分かってきた」

男が言う。


*****


オルナが笑う。


「位置じゃない」


*****


グラドが続ける。


「流れだ」


*****


イセラが言う。


「止まっても、戻れる」


*****


男は作業台を見る。


決まりはない。


だが、

崩れてもいない。


*****


夕方、帰る前。


男がぽつりと言う。


「……この工房、

 散らかってるようで静かだな」


*****


ユルンが笑う。


「ちょうど散らかってる」


*****


イルロは静かに道具を戻しながら呟く。


「……整いすぎないほうが、

 人は動きやすいのかもしれませんね」


*****


完全には決めない。


だが、

戻れなくもしない。


その曖昧さが、

工房の空気を軽くしていた。


外から来た者にも、

少しずつ分かるくらいには。

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