水が減る速さ
朝、橋の上の桶はすでに満たされていた。
誰が置いたのかは分からない。
だが、水は冷たい。
イルロが手を入れる。
「……早いですね」
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見回り役のノルが橋を渡りながら言う。
「今日は暑くなる」
「光が強いですね」
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畑番のオルナが土を踏みながら言う。
「朝のうちに終わらせる」
水路番のグラドが川を見て頷く。
「昼は長い」
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午前中、
村の動きはさらに早くなる。
ユルンが言う。
「焼き場、もう終わった」
イセラが布を広げながら言う。
「乾きが早い」
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昼前、
桶の水にもう変化が出る。
表面がぬるい。
ノルが指を入れる。
「温いな」
グラドが言う。
「減りも早い」
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昼、
橋は静かだ。
だが、
桶の水は半分ほど減っている。
誰もいないのに、
減っている。
蒸発だ。
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午後、
最初に橋へ来たのは子どもたちだった。
「水、少ない!」
「もう半分!」
ノルが笑う。
「今日は減る」
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ユルンが手を入れて言う。
「ぬるい」
オルナが頷く。
「朝とは違う」
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イセラが布を湿らせる。
「すぐ乾く」
グラドが桶を持ち上げる。
「替えるか」
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桶が一度下ろされ、
新しい水が足される。
冷たい水が混ざり、
表面が揺れる。
ユルンが言う。
「途中で替える日か」
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夕方、
橋の上に人が集まる。
水はまた使われ、
また減る。
子どもたちが笑い、
大人が手を冷やす。
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ノルが言う。
「今日は二回だな」
グラドが頷く。
「足りない日もある」
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日が傾き、
桶の水はまた少なくなる。
イルロはそれを見ながら呟く。
「……夏は、
同じ量では足りませんね」
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春は一度で足りた。
だが今は、
途中で足す。
セレン村の初夏は、
同じ習慣を、
季節に合わせて少し変えていく。
明日は、
最初から多めに入れるかもしれない。
それでも、
決まりにはならない。
ただ、
足りるようにするだけだ。
それで十分だった。




