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世の中に たえてさくらの なかりせば
なぎさの院にてさくらをよめる
※なぎさの院:河内国(現大阪府)交野郡渚にあった文徳天皇の離宮。後に惟喬親王の御領となった。
在原業平朝臣
世の中に たえてさくらの なかりせば 春の心は のどけからまし
(巻第一春歌上53)
この世の中に、桜がまったくなかったとしたら、春の季節の心は、おだやかであると思うのですが。
桜は確かに美しい。
しかし、その美しい桜は、すぐに散ってしまう。
だから、不安で気持ちがおだやかではいられない。
人々が桜に寄せる想いを、逆説的に詠む。
この発想の意外さ、斬新さ、歌そのものの流麗さ、さすが業平様と思う。