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この川に もみぢ葉流る 奥山の
よみびとしらず
この川に もみぢ葉流る 奥山の 雪げの水ぞ 今まさるらし
(巻第六冬歌320)
※雪げ:雪解け
この川に紅葉の葉が流れている。
奥深い山の雪解けの水が、おそらく今は増えているのだろう。
雪解けの水が増すのは、通常は初春。
しかし、紅葉の葉が流れているのだから、冬の初めと思われる。
思いがけず、冬の初めに雪が多く降り、奥深い山の紅葉を散らし、それが川に落ち、今見ている川に流れて来たと詠む。
万葉集を思わせるような、素直な自然描写である。




