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時しもあれ 秋やは人の わかるべき
紀の友則が身まかりにける時よめる
壬生忠岑
時しもあれ 秋やは人の わかるべき あるを見るだに こひしきものを
(巻第十六哀傷歌839)
※時しもあれ: ほかに時もあるだろうに、こんな時期に。
こんな時期に、よりによって秋に人と死別などありえるでしょうか。
生きている時にお逢いしていても、恋しくて仕方がないというのに。
どうして死んでしまったのか、他の時期もあるだろうに。
忠岑は、友則にもっと生きていて欲しかった。
秋に歌を詠み合いたかった、酒も酌み交わしかったのにと、嘆く。
人の死は、この世の定めとはわかっていても、好きな人には、ずっと生きていて欲しい、逢って語り合いたい。
そう思うのも、人の世の定めである。




