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今はとて 君がかれなば 我が宿の
よみびとしらず
今はとて 君がかれなば 我が宿の 花をばひとり 見てやしのばむ
(巻第十五恋歌五800)
※今はとて:「これで最後」「これで終わり」。
※かれなば:離れてしまうなら、遠のいてしまうなら。花の「枯れ」を連想させる。
「これで最後」とあなたが私から去るならば、私の家の庭の花は、一人で眺めて偲ぼうと思います。
作者は、おそらく女性。
愛人が通って来なくなったのだと思う。
今後の逢瀬も期待できず、せめて家の花が咲くのを、かつて一緒に眺めたことを思い出しながら、偲び続けると詠む。
下手に迫って、相手に嫌な顔をされるより、楽しい思い出に浸る。
これも男女の愛の形なのだと思う。




