閑話 メルのプレゼント4
これで終わりです。
誤字脱字を修正しました。
内容に変化はありません。
「皆さん。隊列を組んでください!」
メルの声は凛と戦場に響いた。
コカパスに擽られ放置……沈黙する者や悲鳴を上げる者が多くいる中、それはやけに響きハーフエルフたちの意識を一瞬であるがメルへと向けさせる。
「敵の攻撃は上下左右から襲ってくる触手のみです! 距離を開けて、密に声を掛け合ってください!」
「「「了解!」」」
その言葉は確かに戦場へと届き、距離を開けて応戦する。
それだけでも犠牲者はかなりの数減った。
とは言えそれだけでは攻略できないのは事実。
鞭のようにしなり、距離感を狂わせるその触手は未だにコカパスの有利を告げる。
不利とは言わなくても決定打が無いのは明白であった。
(時間を稼いで敵の体力を削る。いや、相手は魔物ですしこちらの体力と集中力が切れるのが先です。触手を斬り落とす。――無理です。触手の動きが早い上にあのヌメリが邪魔です)
幾つもの考えが浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返した。
思考したのは数十秒にも数分にも満たない時間であったのかもしれない。
だが、高速で回転するメルの頭ではとても長い時間に感じた。
走馬燈のように、自分の世界に捕らわれるメルはある一つの会話を思い出した。
(メルよ。タコという生き物を知っておるか?)
(タコ……たこ……聞いたことないですね)
(ある食材の名前じゃ。ヌルヌルしていて、触手を持つ生き物なのじゃが……)
(すいません……。それって美味しいのですか?)
(かかか、ヌメリを取りちゃんと料理できるのであればな)
そう言ってヌメリを取る方法と料理をベガはしっかり、メルに教えていた。
何気ない会話で、戦闘において必要無いと思われていた知識なのだが――。
「皆さん! 塩は持っていますか?!」
「シオ?」
「しおってあの料理に使う塩ですか?」
「はい!」
元気よく肯定するメルに奮闘するスコットは塩の入った袋を投げた。
他の者たちも塩をメルに託す。
そして。
「……無茶はしないでね」
「我らの分はこれほどしかありませんが」
意識を戻したレオジーナはよろよろとメルに塩を渡し、スレインもまた剣を杖代わりに立ち上がり塩を送った。
この塩は一般的なものでこの世界でも出回っている普通の物だ。
塩……なんの変哲もないそれであるが、これはタコのヌメリを取る際にとても役立つものだった。
振りまき、よく揉む必要があるのだが今は”斬る”だけなので完全にヌメリを取る必要が無い。
「ありがとうございます。皆さん。そして――いってきます」
沢山の塩袋を抱えて走るメルはコカパスの死角から塩を投げる。
小さな袋であり、貰った貴重なもの。
皆に託されたものを惜しみも無く投げた。
「コケコケ!」
コカパスは今も剣を向けるシュタイヤとスコットを無視してメルにその視線を向ける。
トテトテと一生懸命に走るメルだが、その速度は魔物にしてみればあまりにも遅く簡単なものだ。
ヌル!
腹に触手が巻き付き、メルを持ち上げる。
気付いた時には既に全身を触手が捉えており、その巨大な吸盤はメルの腕力では引きはがすことはできない。
加えて。
「コケ」
メルは身長も小さく、コカパスにとっては丁度“食べること”が出来る大きさであった。
……その巨乳は確かに丸飲みにするコカパスにしては邪魔であるのだが、それでも可能だ。
きつく巻き付き、うめき声を上げる上げたメルであったが最後の抵抗を見せる。
バフン。
塩が舞い、困惑するコカパスを白く染める。
「はぁはぁ、あなたの歩む歴史もこれでお終いです」
投擲した姿のまま、苦しそうにしながらメルは睨むように呟く。
そして。
斬!
「コケーーーーー!」
飛び出した影が触手を一刀両断する。
解放されたメルを抱きかかえるのは触手を斬ったシュタイヤ。
何故切られたのか、何で斬ったのかコカパスは理解していないが、斬ったシュタイヤを一番の脅威と考えた。
全ての触手を使いシュタイヤを捉えようとしたが。
「あなたの武器は既にない」
尻尾にあるはずの触手がボトボトと音を立てて崩れ落ちる。
若い男、スコットの声。
と同時に聴こえたチンと剣を鞘にしまう音はコカパスを通り過ぎる二人の男と女から聞こえた。
「鶏の分際で」
「止めを刺さなかったことを後悔してください」
何故この二人は背を向けるのだろう?
その疑問を抱いたコカパスであったが、彼らが三歩歩いた時にはコカパスの首は落ちた。
「これで食材は十分に揃いましたね」
「ああ、そうじゃな。森で手に入れた食材も含め十分に……過分に用意できたのじゃ」
ハーフエルフの里に戻ったメル一行は普段着に着替えた。
確認するのは広場に広げられた今日の戦果。
食材が彩り、中でも目立つのは巨大なコカパスの体である。
道行くハーフエルフの誰もが足を止め、獲物の巨大さとメルの勇敢さを知る。
「過分にあっても仕方ないので……半分はハーフエルフの皆様に分けたいと思います」
「いいのですか?」
「シュタイヤ様やシュワルツ様のおかげ――いいえ、ハーフエルフの皆様の協力あってのことです。私たちだけでは到底倒すことのできない魔物でした」
ニッコリと笑ったメルは族長のシュワルツ、代表に礼をする。
揃えるように礼をするのはベガも含め、メルに従事する者たち。
彼らもメル同様ハーフエルフの協力に感謝しているのだ。
パチパチ。
小さな手で一生懸命に拍手する者がいた。
偶然通りかかり、メルの勇姿に感銘を受けたハーフエルフの子供だ。
つられるように、まばらに拍手の音は大きくなっていく。
一人、また一人と拍手喝さいは大きく響いた。
「……ありがとうございます。皆さん」
英雄姫にまた一つ英雄譚が追加された瞬間であった。
誰もが英雄と認め、笑顔が咲く。
皆が英雄の帰還に喜び謳ったのだ。
「後は帰るだけですね。メル様」
「ええ、そうですね。スコット。帰るだけです!」
元気に答えたメル。
だが、彼らは忘れていた。
英雄が一番やってはいけないことを――つまり仲間を見捨てること。
そして、その英雄譚の終わりは決まって“裏切り”で終わると言うことを。
「イ、イナバめーーー! 計りおったな!」
冒頭に戻り台所でメルを抱きしめるベガ。
書類仕事を押し付けられたイナバはその腹いせか、大量の子どもたちを砦に呼び寄せたのだ。
周りの村々の子どもたちだけだと思っていた企画は既にその許量を超え、過労で倒れるものが後を絶たない。
後に残ったのはベガ一人、首謀者であるイナバは書類に埋もれる形で筆を持ったまま気絶していた。
「じゃが我はチーターじゃ! この程度の苦行、造作もない! 乗り切ってみせるぞ!」
彼らの戦いはまだ続く。
そこに空腹の子がいる限り、世が満たされない限り、ベガの――メルたちの戦いは続くのだ!!
完。
「終わらぬわ!」
次の更新がいつなのか予定していませんが、今後ともよろしくお願いします。
ごめんなさい。
書き加えたのはタコのヌメリを塩でとれると言う説明だけです。




