もう一人
ダラダラと戦闘が続きます。
雨水が天井から滴る。
古城であり、老朽化した玉座は朽ちてなお威厳と尊厳ある場所だ。
柱に巻き付く蔦やボロボロになりながらも飾る国旗がそれらを引き出しているかもしれない。
そんな古びた――豪華な場所で踊るのは一人の少女と三人の騎士たち。
音楽は剣が火花を散らす音と少しの会話だけ。
否、外から聞こえる戦の音も追加しよう。
「なるほど、目的は時間稼ぎか……」
「どういうことかのぅ?」
「援軍が来るまでの時間稼ぎが目的なのだろう? だからこそ、この無駄な会話に参加し、攻撃をしない」
あちらこちらに斬撃の跡が残るそこで、ロンドルと距離を取ったベガは答える。
他の二人もベガの言葉に耳を傾ける。
「その通りじゃよ。と言うが、少ししゃべりすぎたか?」
「自分が優位であればしゃべりたくなる心理を利用した。逆に聞くが――これが本気だと思ったのか?」
「かかか、そう思ってはおらんよ。ただお主らの会話が楽しかったのもあるし、我も手を抜いていたこともある……」
扇子を広げたベガはその端からロンドル、アガレス、ヴァルカを覗く。
対してロンドルは〈魔剣〉を抜いた。
金に光り、光沢を宿す美しき魔。
それは丁度落ちた雷もよりも鋭かった。
距離を少し詰め、尋ねるロンドル。
「それともう一つ分かったことがある……」
「? なんじゃ?」
「“その力”、制限があるのだろう?」
ドオオン!
と雷が落ちた。
近くに落ちるそれは一瞬であったが城を白と黒の世界に変える。
光による目の錯覚で一瞬であるがモノクロに代わった。
今も睨む合う彼らに変化などない。
けれども――少女は白々しく黒く笑った。
くひひ。
「ようも、そこまで見抜いたものじゃ」
「……だからこそ、攻めさせてもらう」
色彩は戻る。
落雷の匂いと遠くから聞こえる雨音が近づいた。
ポツリポツリと落ちる滴は適時ロンドルの髪を濡らす。煩わしく思わないのはロンドルがそれだけ集中しているから。
薄っすらと〈魔剣 金獄のヘルメス〉がロンドルを飾り、マントのようなものが形成する。
濡れる色男、飾るは白銀の鎧の金色の剣、加え金銀光る王者のマント。
これぞ正しく英雄なり。
「……なんじゃそれは?」
「〈金色近衛屏風〉……貴様の言葉、これからは――禁だ」
「? 何を言って――!?」
ベガは術を唱えようとした。
したのだが、それは唱えられなかった。
困惑するベガは一歩下がり。
改めて視認するのは彼のマントが召喚したと同時に辺りに満ちた金粉。
苦く笑い口元を隠す。
「沈黙は金。詠唱は……妨害させてもらう」
「くひひ、中々にやりおる」
それと同時にステータスが上昇したロンドル。
一足でベガの元に迫り、煌めく魔法妨害の粉を撒く。
風の軌跡を辿る金粉は剣を振るたびに追従する美しきもの。
ロンドルの金髪が動くたびにそれらは更に輝く。
ただ茫然とベガは見ることしかできない。
ザン。
「!」
斬られたのは伏兵として待機させたベガの〈スケルトン〉だ。
間一髪のところで身代わりの役割を果たしたが、一回きりでありベガが防戦的であることに変わりなし。
余裕でロンドルから距離を取るベガ。
されど、ベガは三対一であると言うことを失念していた。
「っ!」
「〈空斬〉!」
「〈旋風〉!」
側面からヴァルカとアガレスの斬撃がベガを襲った。
直撃し、顔を思わず和服の袖で隠す。
軽いベガはその石柱をも削る斬撃で飛ばされ、風穴がある――雷が見える場所に寸でのところで立ち止まる。
未だ、顔は袖で隠したまま。
バサリと落ちたのはベガの髪留めが壊れ、髪が下ろされたから。
雷が背後で光り暗くベガの安寧を照らす。
けれど。
「――努力したのじゃろうなぁ?」
「?」
「その歴史に惚れ惚れするぞ。誰かのために戦い、誰かを殺して作られた歴史よ。迷いも葛藤も乗り越え出来た正しきものだが――」
袖を下ろしたベガは――。
笑う。
笑う。
ただ残酷に冷酷に笑った。
「残念じゃが、お主らが歩む歴史もこれで終まいじゃ」
不気味に笑うベガは追い詰められたまま。
そんな少女に向けて一閃。
「〈空斬〉」
先制攻撃の空飛ぶ斬撃は前にいるロンドルから放たれたもの。
〈スケルトン〉を盾に防ぐベガ。
その側面からヴァルカとアガレスが追撃する。
同時に振ったそれをベガは難なく。
「無詠唱はその類ではないのだろう?」
「「?!」」
カランと下駄が鳴る。
〈転移系召喚術〉でヴァルカの大剣の腹に立ち乗る。
最初に触った時、既に印はしていた。
振り切った大剣に驚愕を見せるヴァルカとアガレス。
彼らを笑うベガは呟く。
「装備スキル〈殺戮と憎悪の英影〉」
ベガの影が広がり、ヴァルカとアガレスを覆うように襲う。
吹き飛ばされる二人にチラリとベガは見る。
「生きたか?」
「ぐっ!」
「ごほ!!」
アガレスの鎧に罅が入るが直接的なダメージは少ない。
それでも鎧が無ければあるいは……と言ったところ。
逆に至近距離で受けたヴァルカの方が問題。
「ま、まだ!やれる!!」
血が絡んだ声で叫ぶように宣戦。
額からも血が滴り、鎧も欠片だけが衣服にくっついているだけ。
動けないヴァルカに代わり、攻撃するのはロンドル。
上段からの攻撃で背後から。
けれども。
「無駄じゃ。その程度で我の影を超えることなどできぬ」
「っ!」
紅い眼と人影が〈ジャンヌ〉と〈独眼の竜〉を形作る。
シルエットだけだが、その力は紛れもなく本物だ。
ロンドルの縦切りを旗と刀で防ぐ。
再び距離を開けるロンドルでヴァルカとアガレスを庇いながら前に立つ。
一旦影らは消えるが。
「……召喚しているのは影か?」
「ああ、そうじゃよ。事情あって数人しか使わないが……それでも些か寂しいものじゃ」
「そうか……やはり“それ”は幻ではないか」
ベガは背後にいる“沢山の影たち”に向かって微笑んだ。
紅い眼を向ける殺戮の影だが、この時はただベガを慕う臣下であるように見えた。
かつての盟友が王の元に集うように、小さな魔術師や騎馬隊を指揮する武将など、円卓の騎士と戦国の武将たちが交わる。
それはこの玉座が見せた一瞬の輝きであったかもしれない。
幻想的に豪華展覧に戻る玉座とそこに集う色とりどりの英雄たちはかつての栄光そのもの。
煌びやかさに彼らの笑顔に目を細めるアガレス、ヴァルカだが。
パチン。
その音が幻想を消し去り、対峙する少女とその背後に参列する〈スケルトン〉を映した。
現状は未だ、殺し合いの最中なのだ。
「なんじゃ? どうかしたのか?」
「……」
「……」
ヴァルカとアガレスは仕掛けなかった。
それはただ単に不意打ちを騎士道的に許せなかっただけか、それともその一瞬の光景に目を奪われただけかは定かではない。
仕切り直す。
「ではいかせてもらおうか?」
再び扇子は鳴らされ、それが開戦の合図となる。
突撃する〈スケルトン〉たちを斬り捨てるヴァルカ、ロンドル、アガレス。
ポーションを飲み少し回復したヴァルカは痛みに耐えながら必死に振る。
だが、未だ先手を取り続けるのはベガ。
ベガの影が拡大し竜の形になった。
〈独眼の竜〉の竜形態で、咢を開くそれは大地を削りながら彼らに向かう。
「〈旋風〉!!」
「〈金閣の一刀〉」
黄金を纏う閃撃と風が竜を討ち消す。
相殺されるそれらは最後に爆発を起こし視界を塞いだ。
一瞬の時間が猶予となりそのせいでベガが有利になる。
「放て」
煙が晴れ、彼らを囲むは五十数体にも及ぶ〈スケルトン〉。
全てが弓を引き絞り、発射する。
とは言っても所詮は矢である。
完結に簡単にそれは防ぐのは黄金の障壁。
「〈金城門〉!!」
「〈殺戮と憎悪の英影〉」
ベガが扇子を振り、影たちは斬りかかる。
〈スケルトン〉などは結局のところ数合わせで攻撃を継続させるために出したに過ぎないものだった。
矢と影の猛攻がしばし続く、ロンドルのスキル――金の城門で守られるが消え去り、無理して脱した三人。
守りはいつか敗れるもので防戦一方な状況を脱するため。
ボロボロになりながらスキルを発動。
「むっ」
困り苦悶の表情を浮かべるベガを影は守る。
「〈道を切り開く〉!!」
「〈スマッシュ〉!!」
「〈金格の十字〉」
十字光と轟音が玉座を揺らした。
パラパラと小石が落ち、激戦は柱と床に傷を残す。
閃光と舞い上がる砂で陰影がはっきりしない今。
ジリリ。
と鳴るのはこの世界に無い――電子音。
「くひひ、『抵抗するか』」
それらすべての攻撃を英雄たちの影が受け止める。
光が消え視界がはっきりする今、ベガの左目に宿る“ノイズ”は幻ではなかった。
電話を通したようにかすれた声が響く。
『我はチーターじゃ。全てを否定して、この孤独を謳おう』
幾多の無理が続き、知らない内に少女は徐々に……徐々に――意識を奪われた。
フラグは回収しました。
ここでスキルと魔法の違いについて説明します。
スキルは闘気というものを消費して使い、魔法は魔力を消費します。
違いはそれだけです。
呪術については魔力以外の力を消費して発動するもので、”誰でも”唱えることが出来るものとしています。
そのせいで、禁術として指定されています。




