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杞憂

短いです。

「くひひ、〈呪いの祝詞(セレブレイトオブカース)〉」


 〈ジャヴァウォック〉の黒い叫びと同時に彼ら騎士の頭上に一文字の大きな梵字が浮かぶ。

 衝撃波が伝わり範囲的な攻撃であるがダメージはない。

 しかし、不気味に浮かぶその文字は騎士たちに動揺と焦りを抱かせる。


「デ、デバフ系か?!」

「ならばこちらはバフをかけるまでだ!」


 二人の騎士はそう判断して、自らに〈筋力強化〉のバフをかける。

 ダメージが無いと言うことはそういうことなのだ。

 その答えに間違えは無いのだが、迂闊であったと言うほかない。

 体が紅い光に包まれ、筋力が強化されたと同時に――。


 騎士たちの体は弾けた。


「っ! バフを中止しろ!」


 瞬間であったが、マルカは確かに視認した。

 バフをかけると同時に男たちの上にある――頭ほどの梵字が輝いたことを。

 それでも何人かの犠牲が出たのはバフをかけること自体、戦闘ではよくある常套手だからだ。


「バフを封じるデバフ」

「厄介だな」


 離れていたカルマとマルカは〈ジャヴァウォック〉を分析する。

 呪を使う竜種というのはカルマ、マルカにとって初めての相手だ。

 そうでなくても、初撃を許したのはその異形に臆したと言う他ない。

 だが。


「くひひ、挑みます? この(りゅう)に?」

「デバフは中々に面倒だ。距離を潰し、唱える前に潰す」

「というわけで――〈冷酷な叫び〉!」


 マルカが攻撃し、カルマは疾風のごとく距離を縮める。

 彼が抜刀すると同時に〈魔剣 ナイアナ〉から白い女が現れた。

 幽霊のように地に足が着かない半透明は冷気を携えて〈ジャヴァウォック〉に抱き着き、攻撃する。

 体の一部が凍るがそれだけだ。

 なんて事はない。

 そして、攻撃に転じる〈ジャヴァウォック〉の前にその巨体ほどの梵字が浮かぶ。


「〈第一(だいいち)(じゅ) (おん)〉」

「っ! 〈烈火の嘲笑〉!」

「〈零下の悲鳴〉!」


 文字がドロドロと溶け死者の波に代わる。

 カルマとマルカは各自それを笑う焔と叫ぶ氷で殺す。

 黒く粘つくような死者はヘドロが意志を持ったかのようにおぞましい。

 〈魔剣〉であるからこそ、それらを滅せる。

 無傷であるが、カルマはその濁流によって無意識の内に後退させられる。

 死者と焔と氷が混ざり爆発と同時に霜が発生した。


「くひひ、やりますね」

「〈魔剣〉だからな。それよりも……いいのか?」

「? 何がです?」


 炎と氷が混ざり霜を作る。

 急激な温度変化によって出来た自然の煙幕でイナバは見えなかった。

 戦っているのはカルマとマルカだけではないと言うことを。


「悪いが戦っているのは俺たちだけじゃない」

「俺たちは――騎士団だぜ?」


 視界が開け、怒号と同時に彼らは飛び込む。

 ザクザクと飛び込んできたのは八人の騎士たちでジャヴァウォック〉を直接刺す。

 全体重を乗せ、突き刺した剣は深く刺さり少なからずのダメージを〈ジャヴァウォック〉に与える。

 と同時に笑うのはイナバ。


「くひひ、あなたたちは〈穢れた福音(ザゴスペルイズシン)〉をご存じない?」


 生命が当たり前に持ち通常であれば吹き出すはずの血は――形が崩れた文字であった。

 異形の〈ジャヴァウォック〉は生物として当たり前に持っている血液を持っておらず。

 その体を構築しているのは穢れた文字と文章であった。

 だから、血ではなく〈ジャヴァウォック〉は文字を噴き出す。


「なんだこれは?!」


 当然の驚愕は理解できる。

 直接浴びることになるその文字を彼らは知らなかった。

 巻き付き、入れ墨の様に移動する文字は体を這う虫のよう。

 一部負傷した兵士が出たので、聖術を使うが――。


「さてさて、これで回復は使えませんね?」


 呟くイナバは曇天の下で黒く穢れた笑みを浮かべた。

 



「オリエスタ殿、ベガ様は大丈夫なのでしょうか?」

「……心配は要らないだろう。事実、今のこの戦況はベガ様が思い描いた通りなのだから」


 馬を走らせる千人規模の集団。

 フランシスとオリエスタが先頭でベガたちの心配をする。

 颯爽と駆ける彼らに付いてくる敵の集団はいなかった。

 心配するのはフランシスでその言葉に同意する。


「そうですよね、五千の〈スケルトン〉を率いるお方です。私の不安も杞憂に終わることだと思いますが……」


 馬が静かな荒野を走る。

 遠くにある曇天の雲は小さくなり、夕日が落ち始める逢魔が時。

 迫る闇は徐々にガルマン廃城を侵食する。

 ポツリと呟いたのはオリエスタ。


「……あれだけの……あの力は果たして、“リスク”なしで発動することが出来るものなのか?」

「……」

「私はどうしてもそうは思えないよ。あれは人の身に余る力だ。使い続けることが出来ないからこそ――“攻め込まなかった”のではないかと思う」


 嫌な沈黙が流れる。

 ザワリと吹いた風は不吉をはらみ、遠雷が落ちた。

 今も走り続けるフランシスは苦い顔を前方に――オリエスタから逸らす。


「それこそ、杞憂であってほしいものです。ともかく、私たちがすべきことは一刻も早く戦場から離れること」

「……」


 急いで馬を走らせた。

 日が沈むよりも早く、バーガル監獄に向かう彼らであったが。


「む?」


 オリエスタは目を細めてそれを視認する。

 前方より向かってくる馬の一団を。


少し改稿します。

さしたる変更はありませんが、場面転換に違和感があったので直します。

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