虚ろな策
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ロンドルは思った。
これはいつから仕組まれたことだったのだろうと。
昨晩から、一昨日から。
否、ベガが宣戦布告した時からだ。
「――状況が悪い。既に籠城する意味は無いか」
援軍も望めず、加えこれ以上の時間経過は相手の有利となる。
ロンドル、アガレスが動かなかったからこそ、戦局はベガの有利になった。
何がいけなかったのか。何が敗因なのか。
敵の策が見事だったのか。
いや、そもそもこれは“策”と呼べるものだろうか。
「敵は我らの救援を利用したのですか?!」
慌てるヴァルカは敵の狙いに気付く。
敵の狙いは終始こちらの足止めが狙いであったのだ。
本隊がクロルセンを攻略するまでの時間稼ぎであり、クロルセンを攻略を気付かせないための足止めだった。
ギリリとロンドルは歯を噛みしめる。
ロンドルは王国騎士団長、戦歴は誰よりも多く数多の策をめぐらせ戦ってきた男だ。
そんな男がなぜベガに敗北したのか。
「敵はクロルセンの援軍を撃破しそのままクロルセンを強襲。カウンターと言ってもいい戦法だ」
「な、ならばあの六千の兵は?!」
それこそがベガがこちらを足止めした核である。
メルが持つ軍はおよそ六千。
本隊は既にクロルセンにいると言うのに今ある包囲網はと疑問を持つ。
ロンドルは戦争を盤上として見ている。
マチェスが趣味である彼らしい捉え方ではあるのだが、その表現を使わせてもらうのならばベガが持つ 六千の兵は盤外からもたらされたものだ。
その考えに行きついたのは敵が夜しか姿を見せなかったことと、攻撃してきた千体の死者。
「あれはメルの兵ではない。盤外からもたらされた“違う駒”……〈スケルトン〉だよ」
正しくそれは〈スケルトン〉。
――それも総数五千体もの。
フランシスとオリエスタの千人を合わせて六千になる。
あまりにも常識外で非常識な答え。
所謂、彼らの足止めはチートによるところが大きい。
「“反則手”だよ。あれは……だからこそ、“策”と呼ぶことを私はしない」
握る拳が力強くなる。
事実ベガがやったことはこちらを騙すことだけ。
攻めていたことも、話ことも全てが。
「正しく表現するならば――虚だ」
「――かかか、我もあれを策とは呼ばんよ。誰もが出来ることでないし、我がやったことは嘘を大きくしたことだけ」
くひひ。
とベガが笑う。
宣戦布告し、攻めたことも全て嘘。
毎晩チラつかせた兵士たちも全て嘘。
相手を騙し誑かす。
ただそれだけであるからこそ、“無策”であり相手は足を踏む。
“策”でないから“対策”が出来ない。
軍師であっても、詐欺師には騙されるのだ。
「籠城させ、敵の情報を絞る……」
「その上で戦況を変え、最善手を悪手に変える……」
「恐ろしい……あなたはただただ――恐ろしい」
いや、真に恐ろしいのは三日間、都市丸ごとを騙し続けたこと。
フランシスもオリエスタも〈ジャンヌ〉もそのような芸当は誰にもできない。
「三日もあれば戦場などいくらでも変わる。敵将はそのことに気付けなかったようじゃな」
「で、でも、敵もそのことに気付いたのではないですか?」
イナバの問いにベガは笑う。
「勿論じゃ、援軍が来なかったことで少なからずの動きはあることじゃろう。強引な突破かあるいは」
ベガは自分の首に扇子ですっと線を引く。
「どちらにせよ、我らがやることは敵の足止めよ」
「――とはいえ、後れを取っただけのこと。この三日を取り戻せばいいだけの話だ」
「……三日を取り戻す?」
執務室にロンドルとアガレスの言葉が木霊する。
簡単に言ってくれるが、それは並大抵のことではない。
無茶を前提にしたこと。
〈スケルトン〉は並の兵士よりも強くないが、運用次第でどこまで化けるのか分からない。
弱兵よりも更にお粗末な者であるが、ベガは〈スケルトン〉の運用方法が上手い。
しかし、勝つにはこれしかないのも事実。
「……こちらから打って出る。敵将を下し早急にこの戦を終わらせる」
籠城戦から敵との交戦を選んだロンドルはこの盤面で正しい選択をした。
そしてその選択しかなかったのも事実であるし、代わりベガが守勢にロンドルは攻勢に出ることとなった。
百人単位の騎士団がソルムードに向かって走っていた。
先頭は金髪の少女でその後ろに赤髪の女騎士とスポーツ刈りの男騎士が従う。
月下に映える見事な衣装とその姿。
今宵は満月であったが今の少女にそれは映らない。
「待っていて下さい……」
急ぎ足で慌てるように馬を走らせる少女は華麗なドレスを纏ったメルであった。
ネタ晴らしで策でないと書きましたがどうでしょうか?
自分としては誰でも出来ることを策と呼びたいです。




