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閑話 百合はこうして生まれる 中

つ、次で終わらせます。

「これから作戦会議を始めます!」


 大きな声でそれは広い部屋全体に聞こえるように上げたもの。

 フワリとシャンデリアの炎が揺れ、白い布が掛けてある大きな机に集まるのはメルを含めて5人。

 レオジーナは大きな拍手を送り、イナバは周りを伺いながらビクビクとする。


 そして残った二人は。


「ふぁああああ~」

「……」


 大きな欠伸をするシフォンに対してスコットは頭を抱えながら無言になる。


「……どうしてこうなった?」

「仕方がないよスコット。この中で一番の常識人は君なのだから」

「そもそもなぜシフォン様はここに?」


 ニヤリと笑うシフォン。

 シフォンはシュレインゴール家の専属魔術師であり、古くから生きるエルフ種である。

 確実にこの中では年が上であるが、それ故に退屈していた。

 未だに精神的な幼さと好奇心残る研究者であるから。


「面白そうだから」


 その一言でスコットは納得した。

 ガタン。

 メルが椅子を引く。


「はぁ、それでメル様。何をするのですか?」

「スレインさんたちを元に戻します!そしてあの忌まわしき教会を取り壊すのです!」


 席を立ちビシッと指をさすメルは外にある教会を睨む。

 正午太陽が純白の――メルの像を輝かせる。笑顔の像に対してメルは険しい顔をしており、対立しているように火花を散らしていた。

 メラメラと闘志を燃やすメル。

 その瞳には確固たる決意と羞恥の感情が見えた。


「あの~?」

「何でしょう?イナバちゃん」

「スレインさんたちが何かをしたわけではないんですよね?」

「……まあ、そうですね」

「ならば放っておけばいいのではないですか?」

「「それはダメだ(です)!!」」


 レオジーナとメルは共に反対する。


 それと同時にメルは初めて自分のことを真剣に考えてくれる人と出会った気がした。

 思えばレオジーナはいつもメルの面倒を見ていた姉貴分。

 幼いころからの知り合いで育った仲の彼女は一番メルのことを理解しているのは勿論、それ以上に親密な関係なのは疑うまでもないこと。

 秘密を共有し時には喧嘩し時には喜び合った年の離れたレオジーナは確かに――事実上、メルの姉と言っても差し支えない立場と思い出があった。


「……レオジ「あんな蛆虫どもをメルちゃんに触らせるわけには行きません!たとえ危害を加えてなくても万死に値します!」……」


 ――そして、メルは思い出すのであった。

 昔からレオジーナは過保護であったと言うことを。




「では案がある人は挙手をお願いします~」

「「「……」」」


 会議は今も続いている。けれどもそこには若干のグダリと諦めがあった。


 会議を初めて一時間。

 最初こそ勢いのあったメルたちであるが、それは徐々に勢いを失わせ、メルの否定的な言葉がゆきかうようになった。


「ですから!スレインさんたちに暴力はいけないんです!」

「薬を飲ませる?!そ、それって安全なのですか?!」

「ベガちゃんは私たちの敵です!頼むことはできません!」


 レオジーナ、シフォン、イナバを順にその意見は否定される。

 知恵を絞りつくした案はことごとく否定され、そのせいで不機嫌になるのは勿論、空気は悪くなった。


「では、最後にスコット……」


 机に倒れ込み、力を抜く。

 液体のようにぐんにゃりとしながらメルは最後の意見を聞く。


「はい……。自分としましてはスレインさんたちの認識を変えることがいいと考えます……」

「認識を変える?」


 緊張した趣でメルに意見するスコットはピシリと背筋を伸ばす。

 それに応えるようにメルの目をもまたしっかりとスコットに向いていた。


「……メル様は神様ではないと言いうことです……」

「?」


 意味が分からないのか首をコテンと寝かせるメル。

 それに対して合点がいったのはシフォンで。


「なるほど……。つまりはメルちゃんを幻滅させると言うことだね」

「幻滅させる?」

「イメージと違うことをするってことだよ。そうすることにより彼らの崇拝は偶像ではなく、メルちゃんという本人になる」


 それはつまり彼らにリアルを知ってもらうと言うことだった。

 宗教の本質は偶像の崇拝であり、それを元に考えるとメルという架空の偶像を本人の手で消し去る必要があった。


「メルちゃんのことを妄信しているんだよ」


 シフォンとスコットのその一言でメルたちは大きな一歩を踏み出すのであった。




 中庭で公開処刑をされるように一人の男が拘束され膝をついていた。

 皆から注目され中、その舞台に立つのはメルとレオジーナ。

 頭巾を被せられたその男に対してメルは罪状を読む。


「あ、あなたは…………」

「「「……」」」


 羊皮紙を広げるメルにレオジーナはどうしたのかと視線を送る。


「あの~、これって実際にこの人がやったことですか?そして読み上げなければいけませんか?」

「勿論です」

「……死刑ですか?」

「万死に値する罪ですね」


 ハハハと軽く笑うメルに対してハハハと剣呑な目でレオジーナは笑う。

 そもそも、どうしてこうなったのか。

 考えることを放棄しかけたメルは後ろで蒼い顔をするスコットを見て思い出す。


 メーテル教の撤廃。

 それがメルの目指すところであり目標だ。


 事件の発端はベガの悪意と偶然が重なった故の奇跡、それはメルを崇拝すると共にメルに対して羞恥と平和的欲求を渇望させた。

 つまり、メルはアイドルというものになりたくなかったのだ。


「ええ、分かっています。分かっていますが……」


 そのためにはまず、彼ら信者の目を覚ます必要があり、偶像的なアイドル的なメルのイメージを払しょくする必要があった。

 基本的なメルのイメージは明るく元気で活発な子である。

 これは勿論、信者たちも共通なイメージを持っているだろうし、それ以上に妄信しているのは確かだ。

 だからこそ――。


「この冷酷で残虐な英雄姫があなたたちに罰を与えるのです!」

「えっ!ちょっと!」


 もたもたしていたメルに代わりレオジーナはメルのセリフを読んだ。

 止めることが出来ないメル。

 進行は着々と進み、そして。


「罪状!あなたはメル様の風呂を覗こうとしました!」

「え?」

「それに加え、階段を上がるメル様のパンツを覗こうとしたのもまた重い罪です!」

「ちょっと!なんで読み上げるんですか!」


 メルは羞恥により顔を赤くする。

 狼狽えだすメルにレオジーナは無視。

 罪を読み上げるにつれ、野次馬たちの声もメルの恥ずかしさも大きくなる。


「よって!彼に死刑を言い渡す!」

「やっ!やめてーーーーーー!」「「「うおおおおおおおおおおお」」」


 扇動するレオジーナはメルを無視して刑を決める。

 膝をつくメルはこれが良くないことだと理解しているが、止めることはできない。

 それに本当にこのままだと彼はメルの手によって裁かれてしまう。

 そしてそんな罪状で裁くのも裁かれるのもメルは良しと思っておらず、なるべく穏便に済ませたいメルは――。


「イナバちゃんのそれって……?」

「浄化の鞭だそうですよ。効果のほどは知りませんが、べg「ちょっとそれ貸して!」……」


 そう言ってひったくる様にイナバの鞭を手に取る。

 処刑場は首つりで観衆の目が届きやすいように高くしてある。

 寸前のところで躍り出たメル注目を浴びる様にそこに立つ。


「皆さん聞いて下さい!」


 ざわざわ。

 多少のざわつきはこの処刑台の様子が見えない後ろにいる者たち。


「聞いて下さい!!」


 ビシッと鞭が鳴る。

 鞭は奴隷や刑罰のために使われることが多く、空気を斬る音は恐怖心を煽るために大きな音がする。

つまりその音は観衆に聞き届いたのだ。

 それに加え、突然の異音は彼らに興味を与えるには十分であり。


「これは浄化の鞭と言います!つまりこれで叩かれたものは心身が清められ、罪を償うことが出来るのです!」


 宗教的によくやる手口であるのだが、今回はこれに救われた。


「死刑などという軽い罪ではダメです!これからは私がこの鞭で清め、奴隷としての服従を約束してもらいます!」

「「「うおおおおおおおおおおお!!」」」


 突然の変更でありながらこれらを民衆が受け入れるのはメルのカリスマがあったからこそ。

 まあ、ただ単純に彼らがメルのファンであり茶番に近いからという理由もある。


「……というわけで我慢してくださいね」

「フゴフゴ!」


 小さく男の耳のそばで伝える。

 メルとしても彼を余り叩きたくなかった。

 それはメルが優しいからという理由もあるが、それ以上にメルを動かしたのは彼を許すということはメルに対しての痴漢も許すことになってしまうからという理由。


「えい!」

「フゴ!」


 男は声を荒立たせる。


「えい!」

「フゴフゴ!」


 上半身裸の男の背中は赤く腫れあがる。


「えい!」

「フゴフゴ♡」


 男の頬も赤くなる。

 叩かれていないのに彼の頬は赤く興奮しているようだ。


「……」

「フゴフゴ!」


 メルは鞭を振るわなかった。

 男は叫んだ。

 口と目は布によって隠されているがそれでもその態度が雄弁にメルに伝えたいことを教える。

 つまり“どうしてもっと叩いてくれないのか?”と。


「よ、喜んでいるじゃないですかーーーーー!」


 ビシッ!


「フゴーーーーー!」


明日には投稿するつもりです。

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