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戦いの夜明け

グリンロードたちに愛着がわいてしまいました……。


 戦争は終わったと言っても過言ではなかった。

 一人一人と倒れる兵士と投降する兵士。

 流れる血も少しずつだが大地に染み込んだ。

 空が白くなり松明の炎もその勢いを弱める。


「なぜ……戦うのですか?」

「……」


 シュタイヤは唐突に尋ねた。興味本位の質問で覚悟に水を差す言葉であったのだが。


 それはグリンロード自身も分かっていなかった。

 ただ単純に彼の帰る場所がないと言う理由もあったが、本当のところは疲れたからかもしれない。

 いや――。


「英雄譚を知っているか?」

「?」


 グリンロードのポツリと呟いた質問にシュタイヤは疑問を抱く。

 ギラリと輝く短剣を逆刃にするグリンロード。

 その刃に映る自分の顔を見て苦笑する。


「……英雄の為に華々しく散るのはいつだって“俺たち”だ。だからこそ、最後まで足掻かなくてはいけない……」


 笑って答えるグリンロードに共感できるものはいない。

 それは彼自身が誇る美学であり、暗殺者だから。


 グリンロードだって最初から暗殺者になりたいと思っていたわけではない。子供のころは勿論英雄や騎士に憧れていたし、そうなりたくて訓練したのも事実。

 だが、結果を言うなればグリンロードはなれなかった。

 環境が悪かった。

 お金がなかった。

 敵が多かった。

 幾多の理由が彼の心を曲げ、この道を選ばせた。


 運が良ければグリンロードは英雄になっていたか、もしくは――。


「決意が変わらないのであれば結構です。誰であろうと敵であれば殺すまで……」


 半身で杖を振り上げるシュタイヤの背景は白い星空と炎で輝いていた。

 それはシュタイヤの決意の具現であり、美しいもの。

 暗く沈むグリンロードの背景とは別で倒れた兵士たちや血の色が見えていた。


「立場が違っていたら……。いや、もう何も言うまい」


 グリンロードは自分の美学の為に死ぬことを決意する。

 そして――背を向ける。


「!?」


 背を向けたグリンロードは一直線でメルの元に向かう。

 その背後からシュタイヤが魔法の矢を放つ。

 だが。


「ぐむあああ!」

「ぎう!」


 周りの兵を切り捨てていくグリンロードは止まれなかった。

 その背に矢を受けながらもグリンロードはひた走った。


「奴の狙いはメル様だ!殺せ!」


 シュタイヤは大きな声で命令する。

 夜が明け始める時間で白く輝く空を背景にメルは立っている。

 優しい風は朝の匂いを運び、爽やかな光が包む。


「〈エリアヒール〉!」


 メルは未だに危機が迫っていることを理解していない。

 兵士たちを治すのに夢中であり、戦場を見る余裕がないから。


「このおおおお!」


 誰かの槍がグリンロードを貫く。

 彼は止まれない。

 誰かの剣がグリンロードを斬る。

 彼は止まれない。

 誰かの――ではグリンロードを止められなかった。


「……」


 無数の武器がグリンロードの行く手を阻んだ。

 そして――。


 グリンロードの虚ろな瞳は確かにメルを視認した。

 尊敬、感謝、憧れ、様々な感情がメルに向けられた。

 グリンロードは一目見た時からメルのことが気になっていた。それはメルの才能を認めたからであり、英雄の器だと知ったから。

 演劇で見せた姿は正しく英雄そのもの、だが今のメルもそれに相応しいだけの活躍と覚悟を持っていた。


“もう少し……近くで見たかった……”


 その言葉はグリンロードの心にとどまったまま、言葉に出すことはできなかった。




「はあ、はあ!」


 反乱軍の勝利で幕を閉じた戦場に慌ただしく走る影があった。

 白くなる空と反対に進む数人の男たちは馬に乗り平原を疾走する。


「ち!しくじりやがって……!」


 悪態をつく。

 それは死んでいった仲間たちに対して余りの仕打ちであるのだが、最初から彼らに絆と言うべきものなど存在せず、ただの仕事仲間であるのだ。

 そんな彼らに――。


「何処に行くつもりじゃ?」

「?!」


 馬が止まる。

 目の前にいるのは一人の少女で馬を止まった理由はただ一つ。

 直観的に馬が危険を感じたからであり、ぞろぞろとベガの周りに出てくる騎士たちは馬の直観が正しかったことを教える。


 手綱を引き、馬を落ち着かせる。


「な、なぜここにいる?」

「ここにいては不味いのか?まあそれは良い。それよりも任務は終わったのか?」


 扇子で口を隠すベガは落ち着いた声で彼らの変装を見破る。

 敵地に潜入する都合で彼らは反乱軍の武装をしなくてはいけなかった。

 そしてその目的は単純で明快なもの。


 最初からベガは気付いていたのだ。


「仕事の癖が抜けていなかったのぅ。足音が小さすぎるし、直剣の持ち方も成っていなかったぞ?」

「……」


 無表情の彼らに面白くなさそうに答えを言うベガ。

 そんなベガに対して隙だらけだと思ったのか暗殺者が短剣を投げる。

 しかし――。


「お疲れじゃったな。〈ジャンヌ〉」

「いえ、メル様が頑張っていたおかげで仕事は少なかったですよ?」


 飛んできた短剣を掴むのは金髪の〈ジャンヌ〉。

 影から這い出たとしか思えないほど突然に現れた。

 彼らが驚くのは当たり前の反応なのだが、ベガたちはこれと言った動揺はない。

 強いて言うのならシフォンとレオジーナ、スレインが興味深そうに〈ジャンヌ〉を見ていたことだろう。

 いや、それよりも。


「増援の兵はどうした?!」


 別の男が疑問を持つ。

 彼らだって無策で砦奪還をしに来たわけではない。

 引き離した騎士団に対して足止めの兵たち送ったのは勿論、策を弄したのだ。

 一日では到底帰ってこられないと思っていた彼らにとって混乱する事態であった。


「どうしったって、殺したに決まっているではありませんか?」


 そう答えるスレインの鎧には血が付着していた。

 よくよく見れば分かることなのだ。彼ら騎士たちについている血の跡など。


 夜が徐々に明るくなる。

 冷たい風は静かな夜を思い出させ。


 シンと静まる。

 彼らが助かる道は一つだけであり――。


「捕らえよ!」


 馬に乗った彼らはベガに向かう。

 人質として時間を稼ぐのが目的であり、一番幼いベガを狙うのは納得できる判断だ。

 様子見で二人。

 巧みな馬裁きは最短でベガへと向かわせる。

 剣を抜き、片手で馬を操る彼らの――


 命は消えた。


「?!」


 頭部を失い、しばらく歩く馬から死体は滑り落ちる。

 ベガとすれ違っただけあっけなくその命は散ったのだった。

 ベガが直接手を出したわけではない。


 今も変わらず扇子を口元に添えるベガの代わりに〈ジャンヌ〉が動いていた。


「もろい」


 血が付いた旗を〈ジャンヌ〉は持っている。

 撲殺した凶器と同じように鈍く光る瞳を残して、〈ジャンヌ〉は彼らを見る。


「というわけで……残念じゃが、お主らの歩む歴史はこれで終いじゃ」


 暗闇に紅い眼光を残すベガは背後にいる月と一緒に殺戮を見た。



砦の中にいた密告者たちはこれで全滅です。

次でこの章は終わりです。

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