王国最強
ベガの秘密について書きたかったのですが無理でした。
「さて、そろそろ彼女のことを教えてもらえないかな?」
子供のような、されど大人のように落ち着いた声で話すシフォンは月下の元。
殺戮がつい先ほど行われた、血が残る場所で一人の女騎士に詰問する。
「……」
「別に隠す必要もないじゃろう。こやつは我が召喚した精霊、〈御旗の乙女 ジャンヌ〉じゃよ」
「精霊?」
スレインがチラリと視線を向ける先は〈ジャンヌ〉。
それは凡そ彼らが知る精霊と全く異なる存在であった。
精霊と言えば四大エレメントが有名であり、このような人の形をした精霊は初めてであるからだ。
意味が分からないスレインとレオジーナ。
他の騎士たちも同様に困った顔をするがシフォンだけは思い当たる節があるようだ。
「正式名称、精神霊体。……他の精霊とは違い、人であった記憶を持つもの……だっけ?」
「かかか、よく知っておるのぅ」
「一応、魔術師だからね。古文書で読んだことがある程度の知識しかないけど……」
シフォンは改めてベガの異常性を垣間見る。
それは失われた技術で精神体にマナで作った体を貸すと言ったものだった。
「あと……何人だせるんだい?」
「それは言えぬし、言わんよ。それよりも奴らのことを調べるのが先ではないか?」
ベガの視線は既に暗殺者たちの方へと向いていた。
暗殺者の懐を探り、取り出すのは一枚のスクロール。
「指令書……のようですね?」
「それに押されている押印から見るに……」
「まあ、ある程度は予想がついておる」
パシンと扇子を閉じる。
「敵の方が一枚上手だった。ただ、それだけじゃよ」
確かにベガたちは戦略的には勝てた。
だが、大局的には負けていたのだ。
そしてベガは死体に近づく。
「かかか。やはり〈スカル・クラウン〉か」
ベガは死体の腕を見る。
頭部が砕け、ピクリとも動かないそれにベガは何の感情も抱かない。
静かな闇は東から昇る朝日に照らされようとする時間。
されど、ベガの周りは静かな風と闇を抱えていた。
「王族お抱えの暗殺団……」
「それにこの指令書を見るに」
スレインとレオジーナは各自検視する。
懐から出てくるのは一枚のスクロールと煙草のような葉巻。
それはこの作戦の真の狙いが書かれていた。
「なるほど、となると彼らの作戦は成功していたんだね」
呟くシフォンは面白そうに笑った。
敵に対する賞賛が彼を笑顔にする。だけど敵が打った一手はベガたちにとって致命的なものであったのは変わりない。
「今頃、都市についておるのかのぅ」
日の出と共に遠くを見つめるベガは北方のある都市を見ていた。
リニエスタ王国は西と東を分けるように大きな山脈がある。
その中心、東寄りの所は鉱山都市と呼ばれるものがあり王国軍のほとんどの武器を作っていた。
「……」
朝の早い時間。
日の出と共に門の前で膝をつくのはこの都市の管理者。
アガレス・ソルムード。
彼が支配しているのは鉱山都市ソルムードで実質的にこの地域の支配者であり伯爵貴族の位を頂く偉丈夫だ。
黒く短い髪と片目に傷を残すアガレスは黒い鎧と大きな斧を背中に下げている。
そしてその後に続いて膝をつくのは彼の騎士団と傭兵たち。
そんな彼らが花道を――誰かを迎えるように膝をつく姿はある種異様。
否、当然のこと。
「……お母さん」
「しっ!頭を上げてはいけません」
住民ですらそれを行うのは“ここにくる人物”を考えてのこと。
しない方がおかしいと思われるほどその人物が偉大であり伝説的。
「出迎えご苦労。アガレス」
「当然のことでございます。騎士団長様」
朝日を背に馬で――馬上から挨拶し、入門するのは〈王国最強〉の称号を持つ騎士団。
過去に三度、大貴族の反乱を収め、隣国の進行を食い止めた生きる伝説。
彼の名前だけで国は怯え、震えた。
そんな彼が鎧を着た白馬に乗って登場。
馬よりも立派な白銀の鎧を着た長髪の中年の男の名は――。
リニエスタの金将、ロンドル。
と、その隣に青と赤の髪を持つ双子の騎士。
「マルカ、ここが鉱山都市らしいね?」
「そうだよ、カルマ。ここが次の仕事場みたいだ」
ロンドルを守るように側面を守る双子は目つきの悪さとスポーツ刈りのような青と赤い短い髪が特徴。
そして、そんな彼らの馬も鎧も主と同じように蒼い鎧と紅い鎧を身に着けている。
「紅蓮のカルマ!そ、それに冷氷のマルカ!」
「王国内でも五指に入るほどの剣士様たちだ!」
膝をつく平民の男たちは騒ぎ立てる。
ただの偶然であり、英雄を前にした男たちが悪いわけではない。
強いて言うのなら登場したことによる影響を加味しなかった彼ら騎士団が悪かったのだろう。
「あ!ミーシャ!」
男たちに押されたことにより少女の腕の中にいた子猫が飛び出る。
反射的に運悪く少女はロンドルの道を“邪魔”するのであった。
追いかけた少女はその場を離れふとロンドルの方を見て――
「よせ。カルマ、マルカ」
「「……」」
カルマとマルカはそれぞれ紅蓮の炎と冷氷の冷気を放つ剣を握っていた。
双子の黒い顔から覗く瞳は殺気に満ちた死。
少女の首元に添えられた剣を止めたのは間違いなくロンドルであった。
「あ、あ……」
「怖がらせて悪かったね」
即座に馬から下り膝を――視線を合わせるロンドル。
双子の騎士は一礼して馬の元へと戻った。
未だに己に何が起こったのか分からない少女は怯え、驚きながらもロンドルを見る。
そして。
「お詫びの印としてこれを受け取ってもらえないかな?」
「え?」
いきなり渡されるのは袋であった。
ジャラジャラと音がするそれは金貨袋。
「あ、あのう「気にする必要はない。それよりも――」」
大きく息を吸い込むロンドルは都市全体に聞こえるように。
「市民諸君、お出迎えありがとう。私のようなものにこのような歓迎はありがたいのだが、諸君らは生活に戻って結構だ」
ざわざわと隣同士話し合う声が聞こえる。
異例の事態、普通であればこのまま通り過ぎるまで、城に着くまで彼らを見送らねばならない。
だが彼はそれを望んでいなかった。
一体自分たちのどこが悪かったのだろう?そう思った市民たちであったが。
「今は王国のため武器を作るのが最優先だ。一刻も早く“あの武器”を多くつくってほしい。それは王の命令であり私からお願いすることだ」
話すロンドルは先導するように優しく市民に語り掛ける。
同じ立場に立ち、市民にお願いする貴族など稀であるこの世界でロンドルの言葉は市民たちに大きく響いた。
「諸君らは王国の民であると共に兵である。盟友である諸君らの奮闘を期待している」
彼の態度は凡そ傲慢な貴族と大きくかけ離れた姿であり、英雄的であった。
小さな少女を助けたこともやることながら、彼の態度とその振る舞いは〈王国最強〉にふさわしいものであると誰もが思った。
”あの武器”は皆さんがよく知っているあれです。
……強くしすぎたかもしれない。




