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一抹の不安

短いので明日もう一つ投稿するつもりです。

 新しい一日は夏に近い春の風と出てきたばかりの太陽に見送られて始まった。

 砦の外に集結する騎士団を見送るのは一人の少女と従者、それからハーフエルフの者たちだ。

 少ない人数で見送るのは朝の早すぎる時間帯であり、メルたちが冒険者、貴族たちに気を使っているからであった。


「えっと、今日からベガちゃんと騎士団さんは東方の視察に出かけるんだよね?」

「その予定になっているね。メルちゃん……十時には寝るんだよ」

「ちゃんとお野菜も食べて下さいね?」

「メル様……お召し物の方は大丈夫でしょうか?」


 馬に乗る騎士は綺麗に磨かれた鎧を身に着け、軍旗を掲げている。

 その代表者であるシフォン、レオジーナ、スレインは別れを悲しむよりもメルのことを心配していた。


「お主ら……たった一日離れるだけでどれだけ心配しておるのじゃ……」


 横目でため息を吐くベガは彼らの心配性にしつこさを覚える。

 一応メルも十五歳となり成人の仲間入りを果たしているのだが、いつまでたっても彼らにとってメルは可愛い妹分なのだ。


「スコット、後は頼んだぞ」

「俺たちの分までメル様を守ってくれ」

「仮にだ。もしも傷つくようなことがあれば……」

「わ、分かっています……」


 先輩騎士に脅迫されるスコットは何が何でもメルを守ろうと固く誓うのだった。




「で、できた~」

「終わりましたね」

「長かったです~」


 口々に完了を知らせるのは上からメル、シュタイヤ、イナバだ。

 そしてチラホラと聞こえるのは共に作業をしていた兵士三人と囚人たち。


「「「お、終わった~」」」


 疲れが一気に体を通り抜け、倒れ込む兵士たちに囚人たちは感謝の言葉とねぎらいの言葉をかける。

 かつては仲の悪かった彼らであるが共通の目的を達成した彼らの仲はそこまで悪くない。それは共同作業により仲間意識が向上した結果であり、いわゆる心理学的な効果なのだ。


「……狙ってやったのですか?」

「うん?何がですか?」


 イナバの質問に理解しきれていないメルは首をかしげる。

 本来の目的をすっかりと忘れているメル。

 だが、それも仕方ないと言えるだろう。


「やっと……できましたね」


 メルの瞳と朝日が眩しく光り、それを映す。

 余った布を繋ぎ合わせ長さを調節して組み合わせた木材は古く、くたびれた印象を残す。

 けれども、それは彼らの苦労の証であり、協力してつくった証だった。


「舞台は整いました!後はその成果を見せるだけです!」

「「「おお~~!」」」


 勝ちどきを上げるように叫ぶ兵士と囚人たちは見事にステージを作り終えたのだった。

 歓声に包まれる中庭、満足げにステージの上に立つメルは小さくスコットと話す。


「メル様、通しはしないのですか?」

「するつもりですよ?確認ですが大体のセリフは覚えましたか?」

「はい、勿論です」


 自信ありげに答えるスコットは勿論、シュタイヤやメルもセリフや動きに関して問題はなかった。

 それはメルやスコットたちが現地にいて、実際に体験したからであり演じるのが本人であるからに他ならない。


「問題はイナバ様なんですが……」

「だ、大丈夫です!」


 横目で心配そうに見るスコットに元気に反応するイナバはその例外であった。

 イナバが演じるのはベガの役で里の方で待機していたイナバはメルたちの活躍を見ていなかったのだ。


「わ、私のことは大丈夫です!本番前には必ず覚えておきますから!」

「……」


 力むイナバはそのまま下を向いたままセリフをぶつぶつと呟く。

 それを心配する彼らだが、スコットとシュタイヤではどうすることもできない。明らかに良くない流れであるのは誰もが理解しているしこのままでは不味いのは分かり切っている。


「私が参謀のベガだ……私が参謀のベガだ……」


 何回も呟くイナバは壊れたテープレコーダーのごとく呟きながらこの場を去るのであった。


そろそろ物語が動きます。

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