閑話 食糧事情Ⅱ
心理戦なんかを書きたかったけど無理でした。
「狩りは俺に任せろ。その間にお前は料理の下ごしらえをしておけ!」
「はい!ありがとうございます!」
役割分担をするのはいち早くベガに料理を食べさせるためだ。
それに加えて戦闘中で、もしもが起きることを危惧した故の判断。
だがそれは間違えである。
「つ、つくしは無かったんですか?」
「つくし?なんじゃそりゃ?」
「これミンチじゃないですか!肩ロースがぐちゃぐちゃに!」
「仕方ないだろう。敵は強かった」
そう、彼らにはどれが食べられて、どれが食べられないのか理解していなかった。
それに加えて、なるべく傷つけないように魔物を狩ると言ったことは初めての試しだ。
騎士に求められるのは圧倒的な戦闘力。悲しいかな、彼らでは上手に獲物を殺すことが出来なかった。
けれども彼女らは違う。
「レオジーナ」
「分かっています」
スレインが追い込むのはストロングボアという灰色の大きな猪。
草木をなぎ倒しながら進むそれは殺意の瞳を向ける。
暴れるストロングボアは四本の大きな牙をレオジーナに付き立てようとした刹那。
「〈一閃〉」
すれ違うようにレオジーナの横を通り過ぎる。
しばらく走り、足を止めたストロングボアは首から血を吹き出しながら倒れた。
「お見事です」
「これくらい簡単ですよ」
彼ら上級騎士であればそんなことは造作もない。
現在まともに料理を作れそうなものは五組。
それ以外の者たちはどれも似たり寄ったりで脅威にはならない。
そして取り残されたメルはというと――
「ど、どうしましょう!」
ただ、慌てていた。
このままでは料理を作ることが出来ず、食べられないのは明白。
そして待つのは乾燥肉と乾パンという美味しくもない料理。
しかし、救いはあった。
「あ、スコット!」
「その声は……メル様……」
あぶれているのは何もメルだけではない。
騎士の正装で周りを看護していたスコットだ。彼は衛生兵と一緒に駆け回っていた。
元々ベガの提案に乗り気ではなかったのもあるが、怪我をした騎士団員を放ってはおけなかったという優しい理由もある。
騎士団でスコットの立ち位置は後輩に慕われる先輩騎士であり、先輩からはかわいい後輩騎士という立ち位置にいる。そうやって真っ直ぐに育ったスコットはある意味、騎士団の中で一番の常識人かもしれない。
「スコット!今から私と一緒に料理を作りませんか?!」
「……」
引きつった顔をなんとか笑顔に見せかけるスコット。
これを断ることが出来るのはスレインやレオジーナなどのある程度メルと一緒にいた彼女たちだろう。
一見メルは雑に扱われているが、それでも領主の一人娘であり、騎士団を率いるもの。
……何人かは気絶したふりをしながらメルに誘われないようにしていたのだ。
圧倒的地雷女メルはそのことに気付かない。
「わ、分かりました」
「え!いいんですか?!」
胃が痛くなるのを感じながら人柱になるのはスコット。
……誰かがメルの我が儘に付き合わなければならなかった。
「はあ……」
重くため息をつく。
それはこれからの苦難を感じたからであった。
メルたちがまず初めにしなければいけないことは食材探しだ。
森の中を散策するのはメルとスコット。
魔物などの危険生物が多くいるが、それは騎士たちの活躍によって姿が見えない。
オークなどは真っ先に狩られ、それを邪魔するゴブリンもあしらう様に駆除された。
「えい!」
「……お見事です。メル様」
メルが獲ったのは三匹のスライムであった。
プルプルと震えるそれは無害で核を持つ液体系の魔物だ。
スコットはメルの余りにも常識の無さに眩暈を起こす。
けれども止められない。何せメルがあまりにも楽しそうに食材を取るものであるから止められずにいたのだ。
上司であり、機嫌いいメル。
一兵士であるスコットにメルを止めることが出来なかった。
「……」
どう見ても美味しそうなものではない。味は想像するまでもなく水の味しかしないだろう。
「思ったのですが、メル様は何を作るつもりなんですか?」
「一応、ゼリーなどの甘味を考えています」
それ自体はいい提案だと思う。
少女というのは甘いものに弱い。それを考慮すると少女であるベガも普通の料理より、こっちを選ぶだろうと言う判断だ。
「料理は悪くないですよ……ですけど……」
メルが獲ったのは青スライム、赤スライム、黄スライムというスライム尽くしであった。
それに変な木の実を加えたけい8種類の食材。
……嫌な予感しかしない。
さて、そんなこんなで時間が経ち、料理を運ぶのは計六組のチーム。
それぞれが自信ありのドヤ顔で、ベガの前には銀色のトレーシュ(料理にかぶせる銀色の蓋)があった。
「ていうか、なぜメル様もそんな顔なんですか?」
「え?何か皆さんがそんな顔をしていたので……」
別にドヤ顔をすることを責めているわけではない。
明らかに自分の料理から異臭が漏れているのを気にしてほしかっただけだ。
トレーシュの隙間から漏れるのは変な液体。普通だったら辞退するし、そんな太々しい態度はとれない。
引きつるのはベガ。
メルの料理は最後だった。
「それにしても六組……ですか?」
「ええ、そうみたいですね……」
チラリと横を見るのはメル。
それは最後から二番目の人物だ。
そしてその料理を作った人物は一人でその料理を作ったと言う。つまり戦闘力も高く、料理に関して知識を持つものなのだ。
身長は低く、子供のような彼は優勝を確信していた。
メルの前にいる彼、ローブを纏った怪しい彼の正体は――
「おやおや、諦めが悪いね。メルちゃん」
「その声はシフォンさん!」
なんとシフォンだったのだ。
驚くのはメル一人。
よく考えれば分かることなのだが、それでも真剣に驚いていた。
「残念だけど、この勝負はボクがもらうよ」
「ふふふ、そう簡単には勝たせませんよ?」
笑いあう二人だったが、残念ながら結果は見えていた。
そうこうしているうちにシフォンの料理がベガの前に運ばれる。
「うむ、今のところ暫定トップはスレイン、レオジーナ、クランシュのチームじゃ。ストロングボアの臭みを香草で上手く消し、最高級部位であるヒレ肉も上手く処理され、整えられておるわ」
審査するベガはかなりの高得点を与えていた。
他の者たちも悔しそうにしながらもレオジーナ達の料理は認めている。
果たして、シフォンの作った料理はスレインたちを超えることが出来るのか?
「ふふふ、ボクが作った料理はこれさ!」
シフォンの料理は誰でも作れるものだ。簡単で、家庭的な料理だが――
「こ、これはオムライス!」
「くくく」
外野が騒がしくなる。それもそうだろう。
それはここにはない材料で作られているからだ。
ではどうやって彼がこれを作ったかというと――
「なるほど、凍らせて〈スペース〉に入れておったのか」
「正解」
シフォンは前からこの軍用品が嫌いであった。
それを如何にかしようと彼は考え、今でいう冷凍食品と言うものを作り出したのだ。
ズルいと誰もが思うだろう。反則ではないにしろそれは邪道だ。
だが、騎士団とメルは知らない。
それを編み出すのに彼がどれほど苦労し、どれほど食材を無駄にしたのかを。
「うむ……美味しいぞ!」
「それはそうだろう。グッテンバルグの新鮮な食材をそのまま使った料理だからね」
自信たっぷりにそう答えるシフォンは満足だった。
それは正しく、彼のズルを――努力を認めらたからだ。
「食材の差もあるが、やはりこれは旨い。レオジーナたちの料理も美味しいが味が単調なのだ」
塩と食材の味しかしないのだから仕方ないと言えるかもしれない。
そして残念なことにそれが4品も続くのだから、その評価は妥当なものになる。
「美味しかったぞ」
上品に口を拭くベガに最後の――メルの料理が置かれる。
普通であるならば、シフォンの勝利を誰もが確信するが、メルは違う。
「ふふふ、残念ですね。シフォンさん」
「ん?どうしたのかな。メルちゃん」
勝利の美酒に酔いしれるシフォンにメルは無敵に笑う。
何故ならばメルは勝利を確信しているからだ。
「確かにその冷凍食品は美味しいものです。しかし!そこに愛はあるのですか?」
「……」
シフォンの料理は誰もがお手軽にできるからこそ、そこに愛はなかった。
利便性を求めるが故の落とし穴、それが唯一の弱点だとメルは気付いていた。
「愛のない料理では私の料理を超えることはできません!」
「ほお、ならばその愛の力を見せてくれ」
両者ともに己の料理に絶対の自信があるからこその発言。
互いに火花を散らす彼らはベガを見る。
「なるほど、シフォンの料理を見ても、そこまで自信があるのか?」
「当たり前ですベガちゃん。それにこれは私の愛情がたっぷりと詰まった一品です。是非食べて下さい」
トレーシュから変な液体が漏れ出てるが、それは些細なことだ。
メルがそこまで断言するものであるからきっとうまいものに違いないと騙すことにしたベガ。
皆が注目する中、トレーシュを持ち上げたベガは――
――閉じた。
「……ふう、優勝はシフォn「異議ありです!」」
異議を申し立てるのは当然メルだ。
ざわざわと会場が騒めく。
それはその料理の余りの邪悪さ故だった。
「一口でいいので食べて下さいよ!」
「馬鹿者!あれは料理ではない。料理という名を被ったスレイムじゃ!」
そう言うと同時にトレーシュを取るベガ。
ゲル状のそれは小さな器に乗せられているがコポコポと泡を吹いている。
だが、ベガの審査が不十分であるのは変わりない。
「せめて一口は食べて下さいよ!」
「「「そうだ、そうだ!」」」
メルの言葉に乗るのは周りの騎士たち。
面白そうと言う理由で乗っかる彼らはまだ、メルの料理を食べたことのない者たちだった。
知っている者たちは蒼い顔をしている。
「そうですよ。ベガ様、せめて一口は食べて下さい」
「き、貴様もか……スコット……」
しれっと、勧めるスコットは当然食べたことなどないし、メルの料理を知らない。
知っているのはメルがいかに苦労してこの料理を作ったのかと言うこと。
スコットにしか分からない愛情と言うものがあった。
周りのヤジによって腹をくくるのはベガだ。
「ぐっ!やむなしか……。確かパンドラの箱も最後には希望が残っていたと言う……。もしかしたら……もしかするかもしれん」
一握の希望にすがるベガはそれ一口掬って食べた。
味の感想を書こう。
それはこの星が生まれる前の話、大地が出来、海が出来た。それに伴って生まれるのは多種多様な生命体で、そこに隕石が落ちる。成す術もなく壊れる星は儚さと自然の神秘を感じると共に、その宇宙空間を漂うのは一匹のスライムだった。
「ぐふ……」
机に突っ伏すのはベガ。
静かになるのは周りの者たち。
「「「……」」」
まさかの事態であった。メルの料理は不味いと知っていたが、まさかまずいとは命の危機が伴うほど不味いものだとは思わなかった彼らだ。
誰かがベガに声をかけようとした瞬間だった。
「ユウショウハ、メルジャ」
突っ伏したままのベガはメルの勝利を呟いた。
「やった!やりましたよ!」
「「「いやいや」」」
反論する騎士たちだがメルのこの一言で黙る。
「だったら誰かこれを食べてみませんか?ベガちゃんも美味しいって言っていますし、きっと美味しいものなんですよ!」
「オイシイゾ」
突っ伏したままのベガも同意する。
けれども誰もそれを食べようとしなかった。と言ってメルに勧める騎士もいなかった。それはメルが護衛対象であり、かわいい妹的な存在だからだ。
「やっぱり、料理は愛情なんですね!」
そう確信するメルを誰も止められなかった。
必ず、最後に愛はかつ♪




