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閑話 食糧事情

日常回っぽいのができた。

これは砦に入る前の話し。

閑話でありメルの持つ問題を呈した話だ。


「はあ~」

「どうしました?メル様」

「毎日、乾燥肉や乾パンなんですよ?どうにかなりませんかね?」


 愚痴を言うのはメルだ。

 それは森の中で行進中の出来事。

 高くそびえ立つ木々がさんさんと照り付ける太陽を隠し、小さく成長した花がその足元で揺れていた。

 開けた場所、岩肌の目立つ場所で休憩する彼らは今まさにその味気ない軍用品、保存食を食べようとしていた。

 一日ならまだしも、三日連続で保存食を食べているメルには限界であった。


「仕方ないですよ。〈アイテムボックス〉という伝説の魔法と違い、〈スペース〉の魔法は時間を止めることが出来ないのですから」


 スレインはそう言って取り出すのは大きなテントだ。

 一人分の大きさのあるテントで、それが出てきた場所は背負っているリュックから。

 明らかに容量的におかしい品物だが、そのリュックには〈スペース〉の魔法がかかっていた。


「そうですけど~」

「わがままはいけません、メル様。軍に入った者たちは毎日これを我慢しているのです。それに今はまだ、食べられるだけましな状況なのですから」


 叱るのはレオジーナだ。

 魔物に襲われ、カバンを無くすことなどよくあること。

 そういった状況に追い込まれればこの状況もまだましだと言えるだろう。


「そうじゃよ、メル。食べ物には常に感謝をするのじゃ」


 レオジーナとスレインの間を割って入るのはベガだ。

 メルもすでに十分に反省をしている。それはやはり今が戦争の最中であり皆も同じ苦しみを味わっている仲間であるからで――


「ん?」


 メルはベガの口元にご飯粒が付いていることに気付く。

 目をこする。

 勿論それは幻なんかではなく。ベガが何か美味しそうなものを食べたと言う証拠だ。


「……ベガちゃん。何か美味しそうなものを――「こ、こらペガシウス」」


 ベガの口をぺろぺろと舐めるのはペガシウスだ。

 それによって証拠は隠滅される。

 そしてレオジーナとスレインが振り返った後には何も残っていなかった。

 メルを睨むのはレオジーナ。


「……メル様」

「いやだって、あれ明らかに乾パンではありませんでしたよ!」

「話を聞いていたのですかメル様!これはしばらくお説教の時間ですね!」

「うう、確かにベガちゃんが……」

「メルよ。人のせいにするのは良くないぞ?フー、フー、モグモグ」

「やっぱり食べてますよ!何か美味しそうなアツアツなものを!」


 指摘するメルであるがレオジーナとスレインは聞いていない。

 その後ろでベガは天丼を食べている。

 見えていないのは二人だ。


「はあ、メル様がそんなことを言うので何だか美味しそうな匂いが漂ってきましたよ……」

「そうですね。幻聴かベガ様が何かを咀嚼する音が聞こえます」


 プリプリとした海老天にかぶりつくのはベガだ。

 そこから滴る天つゆは艶めき、見るものを魅了すると共に素材本来の味と匂いを引き出す。

 それを必死になって耐えるのはメル。

 ゴクリとつばを飲み込むが現在も進行形で説教中である。


「それに、ですねメル様。騎士というのは、貴族というのはいついかなる時も冷静でなければいけません。例え目の前に美味しそうなものがあったとしてもグッとこらえるのが騎士であり貴族と言うものであり、守るべき人の為にはこの身を犠牲しなくはならなくて――「モグモグ、そうじゃぞメル。騎士というのは格式高い者たちなのじゃ」……モグモグ?」


 再び聞いたその幻聴を確認するように二人は振り返る。

 天丼を食べ終わっていたベガはそのまま手を合わせ、合掌する。

 頬っぺたにはご飯粒が付いていた。


「残念じゃが、もう完食した。串焼きならあるのじゃが――「「よこせーーーー!」」……」


 二人は理性を失った獣のようにその一本の串焼きを奪い合った。




「ひどいですレオジーナさん!スレインさん!何が騎士ですか!?何が貴族ですか!?あれは明らかに獣でしたよ!」

「……メル様、騎士とは時に獣にならなくてはいけません。例えそれが泥をすする行為だとしても、守るべき人のためには獣となって生きなければいけないのです」


 メルに目を合わせないレオジーナは遠くを見つめたまま答える。

 スレインも騎士団に逃げるが、団員たちからは白い目で見られていた。

 いやそれよりも、である。


「ベガちゃん……それどうやって手に入れたの?」

「うん?シフォンの魔道具を借りてじゃよ。材料は持っているのじゃが調理器具が無くてのぅ。あと一人分は作れるぞ?」


 ざわざわ、ざわざわ。


「あの、ベガちゃんそれって……」

「作ってやってもいいが、その代わりに何か食べ物と交換じゃ。我が満足できる品を持ってきた者にはこの天丼を馳走しよう」


 そういってベガが取り出したのは一杯の天丼だ。

 だが――


「ば、馬鹿なあれはゴージャスロブスター!」

「それどころか添えてある食材はどれもが最高級品!」

「たべてぇ。絶対に食べてぇ!」


 それは伊勢海老よりも引き締まった体とうま味を持つ幻の黄金エビ。

 貴族でさえもそれを食べたものがほとんどいないと言う一品だ。


 ゴクリと喉を鳴らす彼らも限界であった。それほどまでにこの三日間の食糧事情が悪く最悪であったのだ。

 ある者は自然体で森へと足を向け、またある者は自分の武器を確認している。


「ルールは簡単、我の言ったものを持ってきた者の勝ちじゃ。それ以外は特に何も言うことなし」


 参加を確認するベガであるが、彼らには必要なかった。

 互いに距離を取り、鋭い目線でにらみ合う。全員が仲間であり――


「開始じゃ!」


 敵であった。




 開始早々、彼らは二つのグループに分かれる。

 それは料理を作れるものと作れないもの。

 同数あればそれでいいのだが、そこには数の差が生まれる。


「てめえにクランシュを渡せるか!」

「何を言うか!俺がクランシュと一緒に作るんだ!」


 騎士団の中では圧倒的に料理を作れない者たちが多くいるのだ。

 普段から脳筋で剣を鍛えているベテラン騎士とその生活に染まっていない見習い騎士たち。

 そして料理を作れるものは見習い騎士であるのは当然である。


 皮肉なことに戦闘力と料理の腕は反比例していたのだ。


 聞こえる音は争う音で、一人でできるものや、チームを組んだ者たちから森へと出かける。

 泥仕合をするのは達人級の腕を持つ彼ら。強い故その試合は長引く。


「どいてくれませんか?レオジーナ」

「スレイン、あなたこそ早くランディーから手を引きなさい」


 巻き込まれるのは料理の腕の良い彼らであった。

 そして例外が一人。


「ど、どうして私が余るのですか!!」


 それは戦闘力もないし料理の腕もないもの。

 つまりはメルだ。

 それを哀れに思ったのか近づくのはシフォン。


「メルちゃん……自覚なかったのかな?」

「じ、自覚がないって、確かに私は料理を食べる専門です。ですが、そんな私だからこそ、ベガちゃんを納得させる料理が作れるのです!というわけで組みませんかシフォンさn「あ、もう食べたからいいや」う、裏切り者!!」


 調理器具を貸してもらったお礼に食べると事ができたシフォン。

 抜け目のない彼であった。


もう一話続けます

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