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乙女の戦場

話しが淡々です。

 いつもの会議室で砦を仕切る幹部のメンバーが集まる。

 暖炉にある薪が弾け、朝の輝きが室内を彩る。

 事務的な報告が終わり次の戦に向けて準備をしようとしていた矢先。


「あのすいません……」

「何じゃ?」


 定例会議が終わり、席を立つものがチラホラといた。

 それでもイナバは手を挙げてビクビクと質問する。


「み、皆さんに質問です。戦争ってどうやって終わらせるのですか?」

「はい?」


 イナバの質問に対して素っ頓狂な声を出したメル。

 慌てて声を押さえるが、そもそもだ。

 ハタとした疑問が確かにメルの中に浮かんだ。


「王都に行こうとしているのは分かっているのですが、そこで一体。何をするのですか?」

「ふむ」

「な、何と言われましても……」


 メルが当初、王都に行こうと言ったのは父がそこにいるからと戦火が彼らの領地を、領民を包もうとしていたため。

 メルにとってこの国から逃げるには置いて行った荷が多かった。

 ともあれ、最初こそそう言った理由ではあったのだが、他の領民や冒険者が増えるに従いその考えは戦争を止めるに至った。

 つまるところ、守りたいものと皆の夢がそれに変わったからメルはここにいる。

 ぼんやりと意識していたことだったが。


「戦の原因がそこにあります」

「加え王勅命の敗北宣言……いえ、この場合は王家の面目を立てて終戦宣言を出してもらいます」

「体(てい)としてはそれで十分。王国軍であるからして絶対者は王であります」

「それだけです。それだけで王国軍は止まり、戦争は終わります」


 スレインやヴァリエル、オリエスタは既にそう言った方法を見つけていたようだ。

 王国軍は結局のところ王の命令で動いている。一匹の竜と同じようにその体は強大であるが頭は一つしかない。


「で、でもそれだけで本当に……」


 イナバのその疑問は理解できる。余りにも簡単すぎる方法であるからで――。

 ドン。

 リングウッドが机に脚を上げる。


「命令一つで戦が起きたのならば、命令一つで戦が終わるのは道理だ。まあ、そこに残った恨み辛みは別だけどな」

「一時的かもしれぬし、これで終わるかもしれぬ。未来のことは未来の我らに託すしかないのじゃよ」


 パチンとベガが扇子を閉じる。

 結局、この方法は一時的なものでしかないのだ。

 戦争は終わると言えば終わるが、そこから第二第三の王が現れれば話は別となる。

 そこからどうなるのか?

 未来のことは未来の自分に託すしかなかった。




「結局私は戦争の止め方も知らなかったんですね……」

「……」


 いつもの雑事をこなし、休憩の合間に呟いた一言。

 メルは今までそう言った疑問を抱くことなく王都へと向かっていた。

 確かにそこに戦の原因があると分かるが、止める方法までは分かっていなかったのだ。


「し、仕方ないですよ。メル様は砦の管理や戦などで忙しかったのですから」


 言い訳を……いや、15歳であったのだから仕方ないと言えるかもしれない。

 加え少女にしては重すぎる役をこなしているのも事実だ。

 けれどもそれを言い訳として受け取るのはメル。


「……」


 メルの瞳が自分を無力だと戒めていた。

 その戒めが更にメルを追い込むこととなる。

 出来ないことに目が向くのは仕方ないことではなるのだが――。


「出来ないことが出来るようになることも強さじゃが……。出来ることを認めることもまた強さじゃよ」


 パチンと言う扇子を閉じる効果音が響く。

 俯くメルに寄ったのは和服を着る少女。


「戦が始まる」

「……」

「メルはまだ気づいていない。だからまだ――戦場には立てぬ」


 扇子を開き、顔を隠すようにベガは言った。

 メルも薄々であるが感じていた。戦が近いことを直接知らされなくても、防具や剣を磨く兵士、別れを予感させる恋人たちや友情を確かめ合う兵士たちを見れば嫌でも。

 雰囲気と言うのは自然に形作られる物なのだから。

 予感はしていた。覚悟もしていた。

 無力である自分がここにいても仕方ないことだと分かっていた。


「……はい」


 やけに聞き分けよく、肯定するメルにベガは。


「かかか、メルは“良い子”じゃな」


 頭を撫でた。

 それはまるで親が子にするように、別れを惜しむように慈しみの心を持って行われたものだ。勿論メルにベガのそういった気持など十分に理解できていない。頭を撫でる意味も、言葉の意味も分からないままのメルだったが――。


「……」


 笑うベガの表情がデジャブした。

 誰に?

 別れの朝に背を向けた彼と重なる。

 何処で?

 手を伸ばして引っ込めたその手を私は。

 どう思ったの?


 バタンとドアが閉まる。

 ベガの姿はもう見えない。佇むメルは確かに強く輝く瞳で扉の先を見ていた。

 メルの変化に気付いたのはこの場にいるイナバただ一人であった。



 メルはあることを決意した。

 誰が何と言おうと行きたい場所があった。例え大切なものが失われようと助けたいものがあった。

 忘れていたのだ。メルはその決意の大きさ……強さの根源を忘れていた。


(でも、足りない)


 馬車に揺られ、リンベイルへと向かうメル。

 それはベガが砦の雑務を通して教えてくれたこと。

 マリエールは砦の倉庫で戦っていた。クゼンは冒険者として、ヴァリエルは商人として戦っていた。

 戦場は違えど――方法は違えど彼らは“戦っていた”のだ。


「戦う場所は決めました。後は私の――私だけの戦い方をするまでです」


しばらく更新は無いです。

今はまだ、戦い始めたばかりのところまでしか書きだめていません。

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