第22話
円卓の間と呼ばれている、普段使われることのないこの会議室は、王自身が認めた臣下の忌憚のない意見を聞くために、通称通り、円卓が用いられていた。
そして今この円卓の間には、女王であるリュディア、宰相、王国軍を代表して軍務大臣と騎士団長が、そして5人の宮廷魔術師がいた。円卓の間にいる全員が席に着いたのを見計らい、リュディアが喋りはじめた。
「わざわざ来てもらってすまない。来てもらったのは、大広間で言ったようにパロット帝国のことについてだ。いろいろと問い合わせをしたけれど、無回答どころか使者が帰ってこないのよ」
リュディアは、ため息をつきながら今わかっていることの認識を共有した。
「パロット帝国との国境沿いにある砦からの定時連絡が途絶えている」
軍務大臣が追加の報告をあげた。しかしこの発言で円卓の間は嫌な沈黙に包まれるかと思われたが、女王が少し考えてからつぶやき始めた。
「そうねぇ、今やるべきことは……。直ぐ動かせる偵察部隊をすぐにパロット帝国との国境沿いに派遣することと、周辺国との外交くらいかしら」
「そうですな。今できる事はそれくらいですかな?」
宰相がそう言い、現状への対処を紙にまとめていた。
なお、ここまでの会話に5人の宮廷魔術師たちは入ることはしなかった。特にエニスはとても暇そうにしていた。そのエニスは、会話が一区切りついたのを見計らい、声を掛けた。
「なぁ、いつまでここでお人形みたいに座ってればいいんだ」
声を掛けたといっても、イライラしていたらしくとても刺々しい言葉遣いだった。当然この言葉遣いに眉をひそめる者もいた。いたが声を荒げエニスを叱責する者はいなかった。それでも注意する者がいないわけではなかった。
「エニス。言葉遣いには気を付けなさいと何度言えばわかる」
当然というべきかこの場にいる宮廷魔術師たちの中で年長者であるフレイが注意をした。注意したといっても、呆れを多分に含んでいた。
「そうですね。あなた達を呼んだのは、これからの話をするからです」
眉をひそめる者もいるエニスの言葉遣いに対して女王は何も触れなかった。これは、エニスの性格を知っている事。女王自体、上っ面だけの言葉をそこまで重視しない性格もあった。後者に関して知っているものは、フレイを含めごくわずかしかいなかった。
「先程も話した通り、パロット帝国との戦争です。そこであなた達5人にこの戦争へ従軍してもらいたいのです」
「あ゛ぁ、ここにいるオレたち5人でかよ? 帝国を焦土にすんのかよ?」
女王は謁見の間で言ったことを再度言った。そして、会議に飽きはじめているエニスが不敵に笑いながら茶々を入れた。オズが嫌そうな顔をして意見を言おうと口を開きかけたところ、宰相が先んじて口を開いた。
「この件は王命にあたる」
その一言で、オズの顔が一層嫌そうに歪んだ。そして大きく息を吐いて、仕方がないかというようにため息をついた。女王であるリュディアも申し訳なさそうな顔をしていた。ちなみにだがオズは、未だにフードを目深に被っていた。
「んなもんどうでもいいんだよ。それで焦土にすんのかしないのかどっちなんだ?」
エニスが机の上に足をあげながら、とても良い笑顔で聞いてくる。さすがにこの格好を看過できなかったフレイが目が笑っていないとても良い笑顔で魔力を集め練り始める。フレイの周囲に気候的な寒さとは別の冷気が漂い始める。
「なぁエニス。私は何度お前に礼儀作法を説いてきた? わからないはずないよな?」
エニスはフレイから冷気が漂い始めたときからビビりはじめ、フレイが喋りはじめてからはブルブルと震えていた。リースとリオンも初めて見るフレイのマジギレ具合に怯えていた。しかしその苦痛も長くは続かなかった。
「フレイ~。御前だぞ~」
オズがフレイに声を掛けた。宰相、若しくは軍務大臣、騎士団長あたりが苦言を呈すべきだったがフレイの怒気にあてられていた。それくらいフレイが怒ることは滅多になかった。オズに言われてフレイは、エニスを一睨みしてから集め練り始めていた魔力を霧散させた。
「女王陛下。失礼しました」
「良い。今後気を付けよ」
フレイの謝罪に女王は、特に気にした様子はなかった。
その陰で3人の震えていた宮廷魔術師たちはコソコソと話をしていた。
「フレイ様やばい怖いわ」
「「怒らせたら危ない」」
そんな会話をしていたが、フレイがコソコソと話している3人に向かってにっこりと笑いかけるとすぐさま姿勢を正した。
「3日をめどに準備をして、パロット帝国との国境線に向かってもらいたいの」
「必要な食料などに関しては、こちらで手配する」
「うーん。それはいらないや」
女王が宮廷魔術師たちのやり取りをほぼ無視し、3日をめどに国境線に向かってほしいと伝えた。宰相の物資についての申し出をオズは対して悩まずに断った。断られた宰相は、わからないように顔を顰めるのであった。




