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HAL-3000  作者: 夜叉猫
6/11

―――数分後のそのまた数日後―――

「だーーーーーー!!!!!全然っ、出てこないいぃぃ!!!!」

「うるせえええええぇぇぇぇ!!!!」


 思わず、怒鳴るように先輩に言い返していた。だって、うるさかったし。


「だってさ!だってだってだってさ!!見つからないじゃん!!戸籍調べても出てこないしさ!意味が分からないよ!!」

「だから、黙ってろって言ってんだよ、海に沈めんぞ!?」

「ちょっとさ、マックー。それじゃ、ただのヤーさんだよ。」


 わー、とやる気の無さそうな声を出す先輩に苛立ちがつのるばかりだ。確かに、やる気が無くなるのは分かる。全くと言っていい程に情報が無いのだから。人間の方でも、人形の方でも〝クレイ・ハールストン″という名前の者はいなかった。いや、いないと言った方が正しい。過去10年どころか、100年は調べたはずだが1人も見つからないのだ。似たような男はいるのだが、丸っきり同じ男はいないのだ。名前が違う時点で違うのだけれど。

 先輩からは偽名の可能性も示唆されたのだが、偽名が必要になるような仕事をする者の中には、そういう男はいなかったし、普通に調べられる方の人々は偽名を持っているわけがない。ペンネームや、芸名はあるかもしれないが、それはそれで個人情報に乗っているのでわかるはずだ。

 何が言いたいかというと、先輩のやる気が無くなる速度が、ただただ速くなっているということだ。

 調べると声高に言ったくせに、やる気をなくしてしまうから、面倒なことこの上ない。


「それにしてもさー、これを調べるのはいいけどさー、まーた人形絡みの事件がポロポロ起きるしさーあ。」

「そうですね…。」


 そうなのだ。


 調べ物以外にも仕事は毎日舞い込んでくるのだ。

 1つの先が見えない仕事だけをやっている訳にはいかないのだ。

 まぁ、だからこそ先輩のやる気もなくなるのだろうけど。


「ん…?あー、マック。ちょっと3日前と今日のお昼に起きた事件のファイル持ってきてくれないかなぁ?」

「3日前の…?わかりました。」

「何かね、いるんだよなぁ。得体の知れない男がさぁ…。」


 頬杖をゆったり付き、軽く頬を掻きながらモゴモゴ言うのは、先輩が考えごとをしたり、何かを嗅ぎ付けた時にする癖だ。

 こんな奴でも警部になれたのは、一度嗅ぎ付けると事件の真相を割り出すことができるからだ。どこの小説の警部だよ、とパートナーとして組み始めた当初は鼻で笑っていたのだが、まざまざと見せつけられ続けた。だからこそ、罵倒したくなるのだけれど。


 罵倒して暴言を吐いて、もっと真面目に仕事しろと罵る。


 仕方ないとは言わないが、常の適当ぶりが酷過ぎるのだ。


「マックー、顔怖いよ?あ、ファイルありがとー。」

「自分で取りに行けよ、土くれ。」

「まぁまぁ、コーヒーでも飲んで落ち着いてよ。考えが纏まらないよ?」


 何が纏まらないよ、だ。誰のせいで苛立っていると思っているんだ。


「この3日前の事件の人形。」

「なんですか、いったい。つまらないことなら言わないで下さいよ。」

「今回のと同じ会社のでね。」

「いや、そんなことは、どうでもいいじゃないですか。」

「しかも同じ技師が作った人形なんだよね。」

「……は?」


 何が言いたいのだろうか、この脳みそウジ虫野郎は。


「また、悪口?」

「言ってないです。」

「心の声、だだもれてるよ。」


 やってしまった。あまりの苛立ちで、口走っていたようだ。

 それにしても、本当に何が言いたいのだろうか。同じ会社の同じ技師の人形の事件が続くのは、最近ではよくあることなのに。


「この人形の技師さんね、たしか…、ルドルフ・ベッツだっけか。あ、マックは知ってる?」

「とりあえず、名前だけは。」

「うん、この人はさ、人形を1人作るのに半年から1、2年かけるような人でね、そんなに数を作る感じじゃないんだ。」

「……で、数が少ないのに続くのがおかしい、とでも?」


 なんだ、今回は嗅ぎ付けたわけじゃないのか、と思ってしまった。そんな、つまらないことをつついて何が楽しいのだろう。


「それもあるけど、この2人の人形だけ、最後の仕上げが違う人なんだよ。」

「仕上げ、って一番大事な工程なんじゃ…。」

「うん、大事だと思うよ。僕はよく知らないけど。」


 人形を作るにあたっての『仕上げ』は、顔や心臓部を作ることではなく、感情面での教育のことを指す。作られる目的や制作者によって仕上げの期間や内容が違ってくる。結果的に、顔よりも性格の方が制作者のオリジナリティが出てきやすい。だからこそ、大事な工程のはずだが、何故それを途中まで作っていた人がやらなかったのかが、妙に引っかかった。


「だからさ、仕上げた人を調べたいなぁ、と思うんだけど、マック頼んでも」

「ダメです、自分でやりやがれ。」

「ちぇっ、けーち。」


 先輩は、馬鹿みたいにいじけている。

 いじけている割には、ちゃんと手を動かしているから、今回は何も言わないでおこう。


「はい、もしもーし。あー、署長、してますしてます。仕事やってます。」


 やってるように聞こえないわ。やっぱり後で、シバく。

 はぁ、とため息をつきながら自分のコーヒーをいれにフラフラと歩き始めた。

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