―――数分後―――
「わざわざ、ご足労いただき、本当にありがとうございます。」
自然な動きで会釈をする目の前の初老の男。
この人が今朝の電話で話に出たマクレガーさんなのだろう。
「いえ、お気になさらず。」
とりあえず座って欲しい、と相手に述べると、その前に座るように促された。優しげな見た目通りの紳士のようだ。
なんの遠慮もなく座った先輩は、後でシバくとしよう。
微笑みを浮かべる相手からは、嫌な雰囲気というものを感じられない為、罠という可能性はとりあえず無さそうだと判断し、質問することにした。
「今回は、一体どうして電話をかけてきたんですか?」
「はい、実は数日前のことなんですが・・・・・・。」
どこか堅い表情で口を開いた彼の話を聞いて分かったのは、クレイ・ハールストンと名乗る男が突然訪れ、よく分からない計画の為に個人情報を聞き出されそうになったと言うことだ。
個人的には、話の最後のあたりに言っていた、突然「帰る」と言ってきたということの方が気になったが、今は気にしている場合ではなさそうだ。
「なるほど・・・・・・。では今回は、護衛の申請ということでいいですか?」
「いえ、そこまでして頂かなくても・・・・・・。」
少し焦った表情をする彼は、すぐに訂正をしてきた。
「出来ればなんですが、その男について調べて欲しいんです。」
「調べる・・・ってことは捜査なのかな?」
「先輩、生きてたんですね。」
突然会話に入ってきた先輩に思わず言ってしまいながら、小さくため息をついてしまった。無駄に好奇心の旺盛な先輩は、調べるとなると会話の流れを破壊してでも乱入してくる。
まったくもって、はた迷惑な奴だ。
「任せてください、必ずやそのひょろ長男の身元を調べあげてやりましょう。」
こいつ、ダメだ。と心の底から思った。思った所で悪いことでは無いはずだ。そもそも、この人間として使い物にならない生ゴミのような先輩に対して思っても問題は無いはずだ。
「本当に、すみません。お忙しい時に・・・・・・。」
「いえ、本当に大丈夫ですから。」
「結局、マクレガーさんとかいう人、最後まですごく紳士だったねぇ。」
「見習えよ、うじむし先輩。」
暴言を吐いてしまうのは、もはや仕方がないことだと目を瞑って欲しい。
「あんなにいい人だと、恨まれ無さそうだよねぇ・・・・・・。あ、逆恨み?」
「・・・・・・どうでしょうね。」
安直に肯定することができない為、どうしても中途半端な返事になってしまった。あまり歯切れの悪い返事と言うのは、するのも聞くのも嫌だが、そうも言ってられなかった。
それにしても、調べるとはいえ、相手の特徴がそれほどはっきり分かっている、というわけではない時点で難航するのは分かりきっていた。しかし、一度受けてしまったものを無かったことにするのは、組織としても、一個人としても実に情けなく、恥知らずな行動だ。
まぁ、先輩にそういう感性があるのかは謎だが・・・・・・。
「まぁ、とりあえず、調べるのは明日からにしようか、マック。」
「・・・・・・はい。」