―――数日後―――
「はい、アンレー警察署です。」
思わず出た欠伸を噛み殺しながら電話に出ると、少年の声が耳に届いた。
「あの、おまわりさんですか?」
「そうですよ、何かあったのかな?」
「あの…、マスターが…、いえ、マクレガーさんがどうしてもお話ししたいことがあるんだって言ってることを、伝えるように言われて…。」
電話の受話器の向こう側から聞こえてくる声は、とても緊張していて、オロオロしているのが分かる。そして一瞬、本物の幼い少年かと思ったが、相手は人形らしかった。何より、『マスター』と誰かを形容するのは、この時代では人形くらいだからだ。いや、バーテンダーのことをマスターと呼ぶのは残っていたか……。
そんなことを考えていたが、マクレガーという人の名前には、さすがに聞き覚えがあった。
「君、もしかしてマクレガーさんというのは、隣町で人形技師をやっている、あのマクレガーさんかい?」
「はい。……それで、あの……。」
「なんだい、いってごらん?」
何か、言いづらそうな少年(人形だが、この際は気にしない事にしよう。)の言葉を促してみた。
「マクレガーさんのお家に、できればおまわりさん1人……、あの無理なら2人で来て欲しいんです。」
「……はい?」
「って、ことがあったんですよ、集中力皆無野郎。」
「うん、とりあえず暴言挟むのやめて。」
ずるずるとコーヒーではなく、ラーメンをすする先輩に、今朝のことを細かく伝えていた。
「それで、自分1人だとヤーさんに思われちゃうから、僕も来てほしい、と。」
「いや、むしろアンタはいない方がいいんですけどね。1人で行って罠だった、じゃシャレにならないので同行をお願いしたんです。」
「そこまで、言うこたぁないじゃないか!!」
酷い!と言いながら落ち込む派手な、というよりふざけたスーツを着込む先輩は、優秀なはずなのだがいかんせん不真面目な奴だ。でなければ、約束の時間の15分前に、ラーメンを食べたいなどと言うわけがない。
「まぁ、とりあえず、その技師さんに会わないことには、呼ばれた理由も分からないしなぁ……。あ、メンマ食べる?」
「いりませんから、早く食べ終われよ。この脳みそ干物男。」
「よし、決めた。僕は、今泣く。」
うじうじとラーメンを食べながら言う先輩に少なからず苛立っているのは、きっと気のせいではない。いや、むしろ苛立たない方がおかしい。
先輩の荷物を漁ってクレジットカードを出し、勝手に会計を済ませると、さっさと店を出て、例の人形技師の家に向かうことにした。
せめて、間に合いますように、と思いながら。